かりそめマリッジ

ももくり

文字の大きさ
38 / 111
<零>

その38

しおりを挟む
 
 
 えっと、演技?
 夫婦円満に見えるよう演じているの??

 このまま首をポキッと曲げられたら、確実に私は殺されるであろう。そのくらいの力強さで、政親さんは私をグイグイ抱き締め続けている。

「今までの俺は仕事が最優先だった。

 どんなに難しいミッションでもスグに成し遂げ、あまりにもサクサク遂行してしまうものだから一番難攻不落と言われたあの会社の立て直しを祖父から命じられたんだよ。なのに…。

 お前の顔が仕事中にチョイチョイ浮かんで、俺の集中力を奪ってしまうんだ。零、お前…本当に…」

「はっ、はい?」

 ほんの少しだけ距離を離されたかと思うと、ヤンキーのケンカみたく斜めから見つめてきて。ゴクリと喉を鳴らす私に政親さんはこう言った。

「すんげえええええええええええ…可愛い」
「は??」

「聞こえなかったか?じゃあもう一回言うぞ。すんげええええええええええええ…可愛い」
「うあっ、ぎゃあああ」

 恥ずかし過ぎて奇声を発する私。言っている本人も相当恥ずかしいらしく、眉間には皺が寄りまくっている。

「お前の声を聞いただけで仕事が手につかない。まるで思春期の恋する童貞みたいな状態だ!」
「ど、童貞じゃないでしょ?!だってほら、ヤルことやってますし」

 最早、動揺し過ぎて自分が何を言っているのか分からなくなっている状態だ。

「ダメだダメだと自分に言い聞かせていたのに、やっぱり顔が見たくなりノコノコ来てしまった」

「ノ、ノコノコって、なんか可愛いですね!!」
「れ、零の方がすんげええええええ…かわっ…」

 耐え切れなくなったのかとうとう高久さんが、自分の首辺りをガシガシと掻きむしりながら我らの会話に割り込んで来た。

「ぅあのッ、もう分かりましたんで!!」
「高久くん、何度も言わせるなよ。俺たち夫婦の会話に勝手に入ってくるな」

 オウ、イッツクール!!

「…でな、零。残念だけどもうあと1時間ほどで会社に戻らないといけないんだ」
「え、ああ、はい、どうぞお戻りください」

 私もそれに合わせてクールに答えただけなのに、何かが突然崩れ去った。

「そんな言い方、冷たいよお。もっと寂しがってくれなくちゃ。そうだ!零、泣いてたんだろ?そういうのもっと俺に直接ぶつけて欲しいな。

 もぉ~、俺の前ではツンケンしているのに、隠れてメソメソするなんてお前、天才かッ。その調子で俺の心をガッシリ掴んで自由自在に操るつもりだろ、こいつめこいつめ」

 え…んぎ…なのかな?

 脇腹をツンツンされながら、私は呆然と立ち尽くすしかなくて。『残り1時間の逢瀬ならば』と気を利かせた高久さんと靖子はそのまま帰り。2人きりになった途端、政親さんは溜め息を吐きながら腰を下ろす。

「流石にこれでアイツらも信じただろうな」
「え、ああ、そうですよね」

 やっぱり演技か!!
 そっか勿論だよね。

 危うく騙されそうになった自分を恥じつつも、称賛の言葉を贈ることにした。

「政親さん、素晴らしい演技でしたよ!!」
「……は?」

 何故そんなに目を見開くのか。

「絶対にこれで偽装だとはバレていませんって」
「……え?」

 頭を抱えたかと思うと、政親さんは再び眉間に皺を寄せまくり。天井を見つめたまま動かなくなってしまった。

しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

なほ
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模るな子。新入社員として入った会社でるなを待ち受ける運命とは....。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

肉食御曹司の独占愛で極甘懐妊しそうです

沖田弥子
恋愛
過去のトラウマから恋愛と結婚を避けて生きている、二十六歳のさやか。そんなある日、飲み会の帰り際、イケメン上司で会社の御曹司でもある久我凌河に二人きりの二次会に誘われる。ホテルの最上階にある豪華なバーで呑むことになったさやか。お酒の勢いもあって、さやかが強く抱いている『とある願望』を彼に話したところ、なんと彼と一夜を過ごすことになり、しかも恋人になってしまった!? 彼は自分を女除けとして使っているだけだ、と考えるさやかだったが、少しずつ彼に恋心を覚えるようになっていき……。肉食でイケメンな彼にとろとろに蕩かされる、極甘濃密ラブ・ロマンス!

処理中です...