39 / 111
<零>
その39
しおりを挟む[親愛なる零へ~政親side~]
「なあ剣持さん。気になる女を落とす方法を伝授してくれよ」
「またまた、ご冗談を」
剣持さんは祖父が一番信頼している秘書で。剣持家は昔から帯刀家に仕える家系らしいが、先代には娘しか生まれなかった為、1つ飛んで孫であるこの勇作さんが跡を継いだと聞いた。
御年34歳。独身だがいつも周囲に超一流の女をはべらせており。仕事に於いても、私生活に於いても、策士であることは間違いなさそうだ。
「俺さあ、自分から言い寄ったことが無いから」
「…でしょうね。政親さんほどの方でしたら、わざわざ自分からアクションを起こさなくとも視線を合わせれば言い寄ってくるでしょうから」
帯刀グループは兄が継ぐ。それは巨大な権力と共に、重責も背負うことになる。だから、俺は自分の位置が案外気に入っていた。
兄の補佐的な役割を担いつつも、グループ全体を見渡しながら脆弱な部分を補正する。その作業は、遣り甲斐が有って成果も見え易い。指示は祖父や父が出し、俺はそれに従って黙々と任務をこなすだけだ。
初めての仕事は帯刀流通のテコ入れ。他社との差別化を図り、オンリーワンの企業にして来いと。1人では心許ないと思ったのか、祖父が剣持さんを俺に付けてくれて。
お陰で僅か1年でミッション達成。それにより信頼された俺は次から次へと任務を課せられ、その全てを驚きの早さで完遂した。
>どれも手応えが無さ過ぎます。
>もっと難しい任務を与えて欲しいのですが。
そんな生意気な要求をした俺を、祖父は豪快に笑い飛ばしたかと思うと、それはそれは意地悪そうに言ったのだ。
>じゃあ、帯刀フーヅを立て直して来い。
グループ内で断トツ最下位の売上を誇る会社で、だからこそ燃えてしまったのかもしれない。取り敢えず様子見で、身分を隠して潜入し。営業部のイチ課長という立場から社内を見回す。
残念ながらその会社は腐っていた。
何時代かと問いたくなるほど時代錯誤な体制と、長年在籍しているというだけで威張り散らす無能人間が幅を利かせ。パワハラが当たり前のようにまかり通り、若者や女性たちの活躍の場は皆無だ。
「爺さん天国だな…」
思わずそう呟いた俺に、お茶当番だったらしいその女のコが湯呑みを渡しながらこう言った。
「(コソコソ)大丈夫ですよ。あと10年もすれば絶対、課長の天下ですから。そしたら課長を神輿に乗せて一揆しちゃいます」
普段それほど気にしたことも無い女性社員だが、その話し方が妙に引っ掛かった。どうやらこいつは、この俺を男として意識していないようなのだ。
だってストーカー製造機なんだぞ?
文字通り老若男女が俺に惚れるのに?
ああ、もしかして視力が悪いのか。
「キミの視力いくつだ?」
「はい?2.0ですけど」
こうして俺は松村零を意識し出すのである。…丁度この頃、兄夫婦に子供が望めないことが判明し、母から執拗に結婚しろと迫られていて。
正直、女なんて御免だった。
特に恋する女ほど厄介な生き物は無い。過去に付き合った女達はひたすら俺の時間を奪っただけで、何も与えてはくれなかったから。
例えば、仕事で忙しいと伝えたにも関わらず一日に何度も電話を掛けて来て、用件は何かと訊ねると『用事が無いと電話しちゃダメなの?』と逆ギレしたり。
『うふ、今日ね、何してたと思う~?』などと恐ろしくつまらない話をクイズ形式で小出しにし、いつまでも電話を切らせてくれなかったり。
帰宅したらドアの前で待っていたことも有るし、拒絶すると何故か合鍵を求められ、思い詰めた挙句に職場まで押し掛けられたことも有る。
いや、付き合っているのならまだマシだ。
中には名前すら知らない女が勝手に付き纏い、いきなり婚姻届を渡された時には心底驚いた。
ええいッ!
俺で勝手に妄想すんな!
勝手に惚れるな!
段々、己の身すら疎んじるようになってきて。常にそういう対象として見られていることが煩わしいと言うか、気持ち悪いと言うか。次第に、こんな陰鬱な感情を抱かせる女たちが憎いとさえ思えてきた。
いいか、女ども。こっちはお前らみたく、愛とか恋だけで生きてはいないんだ。だからこれ以上、俺の邪魔をするな!!…と思っていた矢先のことだった。
全女性社員が俺のことを、熱く潤んだ瞳で見ていると思っていたのに。道端に生えている雑草でも眺めるかのように、まったく感情の無い目でその女は俺を見た。
おかしなもので。あれほど拒絶反応を示していた“女”に、こんな態度を取られるとそれはそれで気になり、もっとその中身を知りたくなってしまうワケで。
「…うん、いいよ。調べてあげよう。その松村零ってコが花嫁候補なんだよね?」
「えっ?は、花嫁…っていうか、ちょっとだけ気になる女っていうか…、はい調べてください」
剣持さんは相談相手になってくれなかったので、仕方なく親子ほど年齢が離れた帯刀流通の横井社長に打ち明けてみた。この人は前職が帯刀ファイナンスの重役という経歴を持っており、信用調査はお手の物なのだ。
「政親くん、あの松村零ってコ、いいねえ。苦労人なのに不幸を背負っている翳が無い。いやあ、俺、いつの間にか彼女がバイトしてる店の常連になってたよ。今度キミも行くかい?」
「へ?ああ、はい」
信頼している横井社長からの太鼓判を貰い、ますます俺は松村零を気にし出すのである。
3
あなたにおすすめの小説
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる
しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。
いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに……
しかしそこに現れたのは幼馴染で……?
友達婚~5年もあいつに片想い~
日下奈緒
恋愛
求人サイトの作成の仕事をしている梨衣は
同僚の大樹に5年も片想いしている
5年前にした
「お互い30歳になっても独身だったら結婚するか」
梨衣は今30歳
その約束を大樹は覚えているのか
完結(R18 詰んだ。2番目の夫を迎えたら、資金0で放り出されました。
にじくす まさしよ
恋愛
R18。合わないと思われた方はバックお願いします
結婚して3年。「子供はまだいいよね」と、夫と仲睦まじく暮らしていた。
ふたり以上の夫を持つこの国で、「愛する夫だけがいい」と、ふたり目以降の夫を持たなかった主人公。そんなある日、夫から外聞が悪いから新たな夫を迎えるよう説得され、父たちの命もあり、渋々二度目の結婚をすることに。
その3ヶ月後、一番目の夫からいきなり離婚を突きつけられ、着の身着のまま家を出された。
これは、愛する夫から裏切られ、幾ばくかの慰謝料もなく持参金も返してもらえなかった無一文ポジティブ主人公の、自由で気ままな物語。
俯瞰視点あり。
仕返しあり。シリアスはありますがヒロインが切り替えが早く前向きなので、あまり落ち込まないかと。ハッピーエンド。
社員旅行は、秘密の恋が始まる
狭山雪菜
恋愛
沖田瑠璃は、生まれて初めて2泊3日の社員旅行へと出かけた。
バスの座席を決めるクジで引いたのは、男性社員の憧れの40代の芝田部長の横で、話した事なかった部長との時間は楽しいものになっていって………
全編甘々を目指してます。
こちらの作品は「小説家になろう・カクヨム」にも掲載されてます。
同期に恋して
美希みなみ
恋愛
近藤 千夏 27歳 STI株式会社 国内営業部事務
高遠 涼真 27歳 STI株式会社 国内営業部
同期入社の2人。
千夏はもう何年も同期の涼真に片思いをしている。しかし今の仲の良い同期の関係を壊せずにいて。
平凡な千夏と、いつも女の子に囲まれている涼真。
千夏は同期の関係を壊せるの?
「甘い罠に溺れたら」の登場人物が少しだけでてきます。全くストーリには影響がないのでこちらのお話だけでも読んで頂けるとうれしいです。
あなたがいなくなった後 〜シングルマザーになった途端、義弟から愛され始めました〜
瀬崎由美
恋愛
石橋優香は夫大輝との子供を出産したばかりの二十七歳の専業主婦。三歳歳上の大輝とは大学時代のサークルの先輩後輩で、卒業後に再会したのがキッカケで付き合い始めて結婚した。
まだ生後一か月の息子を手探りで育てて、寝不足の日々。朝、いつもと同じように仕事へと送り出した夫は職場での事故で帰らぬ人となる。乳児を抱えシングルマザーとなってしまった優香のことを支えてくれたのは、夫の弟である宏樹だった。二歳年上で公認会計士である宏樹は優香に変わって葬儀やその他を取り仕切ってくれ、事あるごとに家の様子を見にきて、二人のことを気に掛けてくれていた。
息子の為にと自立を考えた優香は、働きに出ることを考える。それを知った宏樹は自分の経営する会計事務所に勤めることを勧めてくれる。陽太が保育園に入れることができる月齢になって義弟のオフィスで働き始めてしばらく、宏樹の不在時に彼の元カノだと名乗る女性が訪れて来、宏樹へと復縁を迫ってくる。宏樹から断られて逆切れした元カノによって、彼が優香のことをずっと想い続けていたことを暴露されてしまう。
あっさりと認めた宏樹は、「今は兄貴の代役でもいい」そういって、優香の傍にいたいと願った。
夫とは真逆のタイプの宏樹だったが、優しく支えてくれるところは同じで……
夫のことを想い続けるも、義弟のことも完全には拒絶することができない優香。
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる