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<靖子>
その52
しおりを挟む「社長、結婚は人生の一大事ですよ。そんな気軽に楽しんではダメだと私は思います」
「…ふうん。じゃあさ、靖子ちゃんに訊くよ?」
「はい、何なりと」
「慎重に慎重に、それこそ石橋を叩きまくって。クソ真面目に話を進めさえすれば、世の中の結婚は全て上手くいくのかな?」
「そ、そうでは無いでしょうが、でも結婚というのはとても神聖なものなので…」
「あのね、俺、思ったんだよ。交際相手のことってなんか知るのが怖いんだな。好きなままでいさせて欲しいから、イヤな部分を見つけたくないと言うか…。
それがさ、実に矛盾しているんだけど、深く知りたくないから距離も縮まらないし、いつまで経っても結婚に辿り着けないワケ。
結婚ってさ、スゴイよね?
毎日一緒にいるのが当たり前なんだから。しかも、それが死ぬまで続くんだよ?
…そんなの気を許した相手じゃないと無理だ。
俺の場合、今までの彼女たちとは距離を取りまくってて。全然、気なんか許して無かったんだよね。で、いつも分かり合えないままジ・エンド。毎回、石橋を叩いて渡るどころか、叩きまくって割っちゃう感じでさ。
ずっとそんな恋愛の繰り返しで、なんかもう疲れちゃってた。
本気で恋愛して結婚なんて流れはムリかもって弱気になっていたところに、ワケあって零と偽装結婚をしたんだ。1年限定、お互いに利害関係が一致しただけの愛情なんてゼロ!の夫婦生活のはずだったのに。
俺の言葉が軽く聞こえたのなら、訂正させて欲しい。
一緒に暮らしたことで俺と零は学んだんだよ、相手との距離の縮め方…をね。
仕方なく始めた同居だったけど、いつしかお互いを思いやり、くっつき過ぎずに適度な距離を保ちながらも愛を育んで。もちろん、倫理的には許されることじゃない。でも、俺達はそれで成長出来たと思う。
最終的に決めるのは靖子ちゃんだし、無理強いをするつもりは無いよ。
だが、優秀なキミがウチの会社を辞めるなんてことになればかなりの痛手だし、もしかしてこれが最善策なのかもしれない。何なら入籍せず挙式だけでもいいし、それで2人が公子の攻撃から身を守れるのなら、試してみてもいいんじゃないかな?
こういうのは相性の問題だからさ、ウチみたいに本物になるのはきっと稀だろう。そこんところは割り切っておいて、異性と距離を縮める練習だと考えればどうだい」
練習…。
よく考えてみたら、中学・高校と介護を手伝っていて彼氏を作れず。大学は実力よりも上のところに受かってしまい、必死で勉強をしていたせいで彼氏を作れず。就職後もいきなり支店に配属されたかと思えばアッという間に本社へと戻されてしまい、バタバタしていたせいで彼氏を作れなかった。
…ああ、そうさ、何もかも言い訳だよッ。そんでもって小分けにしてみたけど、今まで生きてきて1回も彼氏がいなかったよッ。
じ、自慢じゃないけど、デートすらしたこと無いからねッ?!
今年で24歳になるんですけど、私ッ。
んもう、誰もが当たり前のようにしている男女交際が私には死ぬほどハードル高いよおお。しかも年齢を重ねるごとにその事実が重荷になってきて、必死で隠しているというこの状況。
ここで私はハタと気づくのだ。
このまま一生、恋をせずに過ごすのか?と。
もしかしてこれはチャンスでは無いのか?と。
社長が言っていたように異性との距離の縮め方を学んでおけば、いつでも応用できるし、そこから新しい恋が始まるかもしれないではないか。同世代の若者よりも経験豊富な年上男性の方が練習台としては適しているに違いない。
うん、1年限定だったら、なんとかなりそうだ。それで剣持さんは公子さんから逃げ切れるし、私の方も仕事上の嫌がらせを回避出来る。
>んまあ、お得!
>今なら1つのお値段で2つお届けしますのよ。
脳内でテレビ通販の決め台詞が、叫びにも近い音量で聞こえてくる。
>早く電話をお掛けにならないと、
>残り僅かとなってまいりましたっ!
>このままでは売り切れてしまいます!!
「…いただくわ」
「えっ?!なんて言ったのかな、靖子ちゃん」
「そのお得なソレを、いただくわ」
「う…ああっ?!ソレというのは、剣持さんと偽装結婚をするという意味で良いのかな??」
これ以上、頷けないというほどに首を曲げ。右手の上に重ねられていた剣持さんの右手の上に自分の左手を乗せると、更に剣持さんの左手が乗せられ、調子こいた社長がその上に両手を乗せてきた。
お、重い…。
この人たち絶対、ワザとチカラを入れているし。
一番下にあるの、私の右手なんですけどッ。
文句も言えずに口を尖らせていると、剣持さんがキラッキラの笑顔で言った。
「…となれば早急に話を進めよう。双方の両親を集め、まとめて挨拶を済ませるぞ」
「えっ?!は、はあ…」
剣持さんは恐ろしいほどの段取りの良さで、次から次へと日程を決めていく。
…………
そして2カ月後。
「じゃあ、奥さん!今日から宜しくな!!」
「はいはい、お手柔らかに~」
なんと私たちは、新婚生活を開始したのである。
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