かりそめマリッジ

ももくり

文字の大きさ
58 / 111
<靖子>

その58

しおりを挟む
 

「ごめんなさいねー。私、勇作のことそんなに好きじゃないかも」
「ま、またまたあ、そんな意地を張って。素直に言えよ。本当は俺のことを…」

「貴方には人として欠けているモノが有る。まず、女性全般を見下しているし、今のウエイターの件に関しても、『待たせとけ!』だなんて最低だわ。

 よく聞きなさい。

 毎朝貴方が大好きなエスプレッソを飲めるのは、その豆を仕入れて、選別して、梱包して、トラックで運んで、店の人がそれを売り、水道局の方たちのお陰で蛇口を捻るだけで出てくる水を使い、電力会社の方たちの努力でエスプレッソマシンがサクサク動き、ようやく飲めるのよッ。

 自分が大企業のトップに近いからって、天狗になってちゃダメでしょう?『仕事だから当然』とか言ってないで、『いつも有難う』くらいの気持ちでいなさいよ。

 皆んな誰かに助けられて生きているの。自分だけが偉いだなんて勘違いしちゃダメ!いつでも相手の立場になって考えてあげないと。

 ほら、分かったの?だったらお返事は?!」

 意外と素直にハイと返事した勇作であったが、事情を知らないウエイターがかなり私に怯え、震えながらコーヒーを運んで来たことは内緒だ。そして2杯目の高級コーヒーを飲みながら、私は勇作にこう宣言した。

「決めたわ。とっとと初体験を済まそうと思い、ちょっとだけ焦ってたけど…でも、人間として尊敬出来ない男と一線を超えるなんて無理よ。
 
 私が勇作を好きになれたら、抱かせてあげる。それまではキスしか許さないわ」

 こんな偉そうなのに私は非モテの処女である。

「え、ええっ?!そんなあ~酷いよ」

 反対にこの男は百戦錬磨のモテ男だ。

「酷くなんかありません」
「そんなザックリした条件、努力のしようが無いじゃないか」

「あらそう。もう負けを認めるのね?モテ男の異名を欲しいままにしてきたクセに、こんな冴えない小娘1人落とせないってこと?」
「冴えなくなんか無い!や、靖子は…すごく可愛い…と思う、…うん」

 ち、ちくしょ!
 作戦か?早速コレ、作戦なんだな?!

 当たり前だが、他人同士が一緒に暮らすのは本当に難しいことだと思う。昨日は好きだと思っても、今日は突然嫌いになる。

 些末なことでいちいち揺れない程、夢中にさせて欲しいものだ。…って、まるで絶世の美女の台詞みたいですね。安心してください、いつもの庶民靖子ですから。

「まったく、靖子は一度も俺の思惑通り動いてくれないなあ」
「なんてったって、恋愛初心者だからね!」

「初心者だとどうして動かないんだよ」

「だってほら、皆んな失敗を繰り返すでしょ?それで要領を掴んでしまうんじゃないかな。その結果、マニュアル寄りになってしまう。

 自分がどうしたいか…じゃなくて、どうすればソツなくこなせるか…に重点を置き、どこかの誰かの真似をしてしまうんだと思う。

 私も多分、このあと何度か恋をしたらきっと普通の女になるんじゃないかなあ?」

 ギュウッといきなり手を握られた。

「ダメだ。俺が靖子の最初で最後の男になる。だから、ずっとこのままでいてくれ」
「あ、今のいいネ!なんかグラッときた~」

「アホか!本気で言ったのに茶化すなって」
「またまた~そういう演技はメチャ上手だよね」

「ああっ、どうしたらこの想いが伝わ…」
「い、いででで!!」

 ボキリ。

 軽快な音を立てたかと思うと、私の左手の薬指と中指に激痛が走り。慌てて病院に駆け込んだところ、骨折していることが判明。ワザとでは無いことは分かっているが、更に私の勇作評は下がりまくったのである。

しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる

しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。 いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに…… しかしそこに現れたのは幼馴染で……?

友達婚~5年もあいつに片想い~

日下奈緒
恋愛
求人サイトの作成の仕事をしている梨衣は 同僚の大樹に5年も片想いしている 5年前にした 「お互い30歳になっても独身だったら結婚するか」 梨衣は今30歳 その約束を大樹は覚えているのか

完結(R18 詰んだ。2番目の夫を迎えたら、資金0で放り出されました。

にじくす まさしよ
恋愛
R18。合わないと思われた方はバックお願いします  結婚して3年。「子供はまだいいよね」と、夫と仲睦まじく暮らしていた。  ふたり以上の夫を持つこの国で、「愛する夫だけがいい」と、ふたり目以降の夫を持たなかった主人公。そんなある日、夫から外聞が悪いから新たな夫を迎えるよう説得され、父たちの命もあり、渋々二度目の結婚をすることに。  その3ヶ月後、一番目の夫からいきなり離婚を突きつけられ、着の身着のまま家を出された。  これは、愛する夫から裏切られ、幾ばくかの慰謝料もなく持参金も返してもらえなかった無一文ポジティブ主人公の、自由で気ままな物語。 俯瞰視点あり。 仕返しあり。シリアスはありますがヒロインが切り替えが早く前向きなので、あまり落ち込まないかと。ハッピーエンド。

社員旅行は、秘密の恋が始まる

狭山雪菜
恋愛
沖田瑠璃は、生まれて初めて2泊3日の社員旅行へと出かけた。 バスの座席を決めるクジで引いたのは、男性社員の憧れの40代の芝田部長の横で、話した事なかった部長との時間は楽しいものになっていって……… 全編甘々を目指してます。 こちらの作品は「小説家になろう・カクヨム」にも掲載されてます。

同期に恋して

美希みなみ
恋愛
近藤 千夏 27歳 STI株式会社 国内営業部事務  高遠 涼真 27歳 STI株式会社 国内営業部 同期入社の2人。 千夏はもう何年も同期の涼真に片思いをしている。しかし今の仲の良い同期の関係を壊せずにいて。 平凡な千夏と、いつも女の子に囲まれている涼真。 千夏は同期の関係を壊せるの? 「甘い罠に溺れたら」の登場人物が少しだけでてきます。全くストーリには影響がないのでこちらのお話だけでも読んで頂けるとうれしいです。

あなたがいなくなった後 〜シングルマザーになった途端、義弟から愛され始めました〜

瀬崎由美
恋愛
石橋優香は夫大輝との子供を出産したばかりの二十七歳の専業主婦。三歳歳上の大輝とは大学時代のサークルの先輩後輩で、卒業後に再会したのがキッカケで付き合い始めて結婚した。 まだ生後一か月の息子を手探りで育てて、寝不足の日々。朝、いつもと同じように仕事へと送り出した夫は職場での事故で帰らぬ人となる。乳児を抱えシングルマザーとなってしまった優香のことを支えてくれたのは、夫の弟である宏樹だった。二歳年上で公認会計士である宏樹は優香に変わって葬儀やその他を取り仕切ってくれ、事あるごとに家の様子を見にきて、二人のことを気に掛けてくれていた。 息子の為にと自立を考えた優香は、働きに出ることを考える。それを知った宏樹は自分の経営する会計事務所に勤めることを勧めてくれる。陽太が保育園に入れることができる月齢になって義弟のオフィスで働き始めてしばらく、宏樹の不在時に彼の元カノだと名乗る女性が訪れて来、宏樹へと復縁を迫ってくる。宏樹から断られて逆切れした元カノによって、彼が優香のことをずっと想い続けていたことを暴露されてしまう。 あっさりと認めた宏樹は、「今は兄貴の代役でもいい」そういって、優香の傍にいたいと願った。 夫とは真逆のタイプの宏樹だったが、優しく支えてくれるところは同じで…… 夫のことを想い続けるも、義弟のことも完全には拒絶することができない優香。

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

処理中です...