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<靖子>
その61
しおりを挟む廃人状態の高久さんを放置し、私は2人の先輩に教えを乞うのである。
「勇作のことなんですけどねー、私自身が恋愛初心者なもので、どうすればいいのかイマイチ方向性が定まらなくて。もっとグイグイ押してくると思ったのに、なんかいつでも遠くから観察されてるみたいで。
『私が貴方を好きになるまで手を出してくるな』と伝えたら、本当に何もして来ないんですもん。…なんて言うんだろ?そこは敢えて突破して欲しいというか。
『バカ言うな、俺はもう我慢出来ない!』的な押し倒しを期待してたのに、そこまで高ぶらせられなかったのは、私の資質に問題アリですか」
喋り方がノンビリしている上に長いことは自負しているが、私に輪を掛けて零の話も長いのだ。
「剣持さん、本気で靖子のことを好きだと政親さんに言ってみたいだし、靖子だって剣持さんのことが好きだと思うんだけど。だったら、何を躊躇する必要が有るのかな?試してるの?どれだけ相手が自分を好きかって。そういうのは、まず自分から好きと言わないと。
あのね、恋愛は正比例していくものなの。
少し自分の手の内を見せると、相手も少しだけ見せてくれる。自分の気持ちを全部伝えたら、相手も包み隠さず全部教えてくれる。靖子は自分の気持ちを隠したままで、相手にだけ心の中を見せろと要求しているの。
そんなの、とっても卑怯よ。例えるならば自分だけ何枚も服を着こんでいるクセに、相手にだけ素っ裸になれと言っている感じじゃないかしら?
まずは靖子も脱ぎなさい。
その恋心は芽生えたばかりかもしれないし、もう既に深みに嵌った状態なのかもしれない。あれこれ理屈を捏ねて、素直になれないのは怖いからでしょう?傷つきたくないという想いが、『自分からじゃなくて、貴方から迫って来てよ』という図式を描かせているのよ。
大丈夫、意外と男性って優しいんだから。壊れやすくて繊細でビビリでヘタレで可愛いの。あまり虐めたら可哀想だよ。…ね?」
なんだかとっても腑に落ちた。
そう、私はとても卑怯な人間なのだ。
『誰とも付き合ったことが無い』という事実を、口では“恥ずかしい”と言っておきながら、本当はそれを“武器”にしていたのだ。
…だから男であるアナタの方がリードしなさい。
…当たり前でしょ?私、恋愛したこと無いのよ。
…さあ、会話を盛り上げて、誘ってみて!
…出来るでしょ?アナタは慣れているはずだし。
…だって私は初めてで何も分からないんだもの。
そう自分で自分に言い訳し、まるで高みの見物気分で同じ土俵に立とうとすらしなかった。偉そうに勇作の人格を批判してもっと好きにさせてみろと言ったのは、たぶん自分からは動き出せないからだろう。
2人の距離は少しだけ近づいたかに思えたが、それ以上はいつまで経っても縮まらなくて。恋愛初心者だから、私には何も出来ませんと。だから勇作だけが頑張ってみなさいと。そんな横柄な態度で恋愛に臨み、彼を一方的に苦しめていたのだ。
いま私は、改めて思い知る。
恋愛は1人では出来ないということを。
「目からウロコ!」
「はいはい」
零が笑いながら私の目元に手を添えてくる。きっと落ちたウロコを拾ってくれているのだ。
「えっと、冗談抜きで心を入れ替えようと思う。もしかして勇作が私を好きでいてくれるのなら、私も真摯に気持ちを伝えて同じ土俵に立つわ!」
「そっか。ガーンバ!」
「高久さん!」
「うおわっ、ビ、ビックリした。何だよ?!」
「最初は偽装でも、今は好きなら許される?」
「うーん、それならまあ、百歩譲ってOKかな」
2人でコクコクと頷き合っていると、茉莉子御大が恭しく口を開いた。
「何かさあ、好きかどうかなんて自分でも分からなかったりするのよねえ。むしろ、『嫌いじゃない』と思える相手が貴重だったりするワケだから。そういう人を見つけたら、絶対に逃がしちゃダメ。
恋愛なんて博打と同じで、当たりもすれば、ハズレもするの。真剣に、且つ気楽に挑むのよ、靖子ちゃん」
ハイッと元気よく返事して、私は午後の仕事を気合いでサクサクこなし。鼻息も荒く帰宅した後は、早く勇作にこの気持ちを伝えたくてソワソワしていた。
「ただいま」
「……りなさい」
ダメだああああっ。
脳内ではとっても軽快にやり取りしていたのに、シミュレーションでは楽勝だったはずなのに、本人を前にすると何も言えなくなってしまう。
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