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<茉莉子>
その71
しおりを挟む「じゃあもう分かりました。このお見合いの返事を今ここでさせて頂きます。僕とアナタとでは合わないようなので、何もかも無かったことにしてください」
「えっ、嘘ッ?!嘘に決まっていますよね??榮太郎様は私の愛を試しているのだわッ!!」
激しく抵抗する清楚女子に疲れ果てたのか、榮太郎は大きな溜め息をひとつ吐いてからスマホを取り出し、どこかに電話を掛けた。
「ああ、梶原か。…撤収してくれ」
その一言でどこからかイカツイ男性が登場し、強引なまでに清楚女子を連れ去る。
「やだ酷い、私は榮太郎様の傍を離れたくない、ヤメテ!私はもっと榮太郎様の…エイタロー!」
そのエイタローは恵比須顔で手を振っている。さすがの私もポカンと口を開けたままでいると、サラリと中指で前髪をかき分けながら彼は言う。
「…な?普通の女はこういう反応をするんだよ」
「は…あ」
これは肯定の『は…あ』である。しかし、幾ら顔面偏差値が高い男だとは言え、初対面相手にこんな一瞬で嵌るものなのか?
まったくもって理解し難い。眉間に皺を寄せる私に榮太郎は解説するのだ。
「ほら、テレビ通販の実演販売士とかだと巧みな話術で相手を信頼・納得させ、不思議な臨場感を醸し出して物を買わせるだろ。
話術こそが彼らの武器なんだ。
俺の場合はそれが話術では無くて、この顔面なワケ。とにかく、何をやっても許されるんだよ。我儘放題で理不尽なことをしても、不実なことをしても全部全部、許されてしまう。そして皆んな口を揃えてこう言うんだ、『その顔に弱いのよ』って。
でもこの武器には取り扱い注意な部分が有る。相手を選ばず、手当たり次第に落とすことだ。とにかく老若男女問わず、全オチだったんだ…今までは。
なあ、さっきの女を見ただろ?
キミと見合いした翌週も翌々週も母親の命令で仕方なく他の女と見合いしたんだけど、皆んなあの調子でさ、断るのが大変だったんだ。なのに母は婚約するまで週イチで見合いしろと」
「え?あの、私と結婚を前提にという話は…?」
「いや、だってキミは俺が嫌いなんだよね?」
「でも、そちらが結婚を望むなら私の方からは断われないですよ」
「そうなんだけど…さすがに俺も鬼じゃないし。嫌がる女性とムリヤリ結婚なんて体裁悪いだろ。せめて合意の上で結婚したいからさ」
「え…でも…」
「母は見合い話を持ってくるだけなんだ。相手との連絡や対面のタイミングは俺の自由。そういうルールでやらせて貰っている。だから『婚約した』と報告するまで、母は毎週、見合い話を持って来るワケ」
相変わらず、話が回りくどいな。
「すなわちそれは?」
「つまりキミの両親に『結婚前提で交際したい』と連絡したのは俺で、そのことは母に未報告だ」
「だからそれは?」
「小椋家ほどの名家ならすぐ次の縁談話が持ち上がるだろうし、仮押さえの意味でそちらの両親には結婚の意思を伝えた」
「結局それは?」
「実は俺には好きな女性がいる」
「…ええっ?!」
『それは?』シリーズで攻めようと思ったのに、予想外の展開でつい感嘆の声を上げてしまった。
えっと。
好きな女性がいるのに見合いをし、見合いしながらも私に結婚しましょうと。
まったくどうなっているのだ、この男は?
「向こうも俺を憎からず思っているようだが、なかなか厄介な女性でスグにどうこう出来ない。何と言うか、普通じゃ無くて特殊な女性なんだ」
「と、特殊?」
「とにかく変わっていて、一筋縄ではいかない。それでも諦めきれないから、人生を賭けてでも手に入れたいと思っている」
「じゃあ、私との結婚は…」
榮太郎いわく、彼の母親は一度言い出すと目標を達成するまで決して諦めないのだと。だから、息子を結婚させるまで週イチのお見合いを強制してくることは間違い無く。それを回避することは、不可能に近いそうだ。
このまま見合いを続けるにしても、榮太郎本人の意思とは関係無く勝手に相手が夢中になってしまうせいでトラブルが絶えないらしく。それは先程の清楚女子の件でも証明済だ。
「だから取り敢えず、時間稼ぎをしたい」
「時間…稼ぎ??」
「見合いを止めるには結婚するしかないし、その結婚相手も俺を好きにならない女性でないと後々面倒だ。だから、キミに頼みたい」
「だから、私に…」
なるほど、確かに筋道は通っている。この人を好きにならない女性なんて、私くらいだろう。
「1年間でいい、俺と結婚してくれないか?とにかくウチの母は病的なまでに疑い深い人で、少しでもボロを出すと全てが台無しになるんだ」
「1年…ですか…」
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