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<茉莉子>
その99
しおりを挟むいや、今はそんなことより、榮太郎との接触を避けることの方が優先だ。
「申し訳ありません、独身というのは嘘でして。実は既に離婚を考えており、その後の生活資金を貯めるためにこちらで働き出した次第です。
ストーカーだと思われても妄想だと思われても構いませんが、とにかくあの席に注文を取りに行くことだけは勘弁してください」
いつの間にかアヤさんが背後に立っていて、私たちの会話に割って入ってくる。
「ストーカーなのに注文を取りに行きたくないって、なんだかおかしくないですか?店長、もしかして茉莉子さんの話、本当かも」
コクコクと私は小刻みに頷く。するとさすがはホールの女王、こう提案しきた。
「何かツーショット画像とか無いですか?結婚式の時のとかあれば見せてください」
「え、ああ、だったらスマホに…」
慌ててそれを見せると、皆んな納得してくれたようだ。
「えっと茉莉子ちゃん、訊いていいかな?旦那さんと一緒に食事している女性って…」
「秘書です」
泥沼の展開に怯えていたらしい店長は、途端に安堵の表情を浮かべる。それを打ち消すかのように私は続けた。
「でも、愛人でもあります。なので離婚しようと思っているんです」
「ぅわあ、…そっか…」
何だこの重苦しい空気は…って全部私のせいか。なんだかもう、申し訳ない気持ちでイッパイだ。
取り敢えずその後はそれぞれ通常業務へと戻り。いや、私のために時間が押してしまったので、それを巻き返そうといつもよりも倍速で動き。最終的に私は榮太郎とコトリさんに顔を合わさないまま閉店を迎えた。
テキパキと後片付けをしていると、再び重苦しい空気に包まれる。きっと皆んな、私に気を遣って訊きたいことも訊けないのだろう。だからこちらから話題を振ることにした。
「そんなに気を遣わなくても大丈夫ですから。それに私、夫の来店を本当に知らなかったので、そこだけは誤解しないでください」
うっ、憐みタップリの目を向けないでッ。
重苦しい空気の中、アヤさんが口を開く。
「あんな王子様みたいな顔をして、平気で他に女を囲うのね。ていうか、あの顔と一日中一緒にいたら、緊張で息が詰まって死にそうになると思うの。茉莉子さん、よくアレと同じ家で暮らせるわね。
ああいう男は観賞用で、結婚相手には向かない。分かっているのに、どうして結婚しちゃうの?」
随分な言われ様だな、榮太郎。
「えと…どうして結婚したかと言うと、私たち、いわゆる政略結婚だったので」
正しくは偽装結婚だけど、そこんとこはボカしておこう。
「えっ?!そうなの?茉莉子さんってハイスペックだと思ったら、やっぱりイイトコのお嬢様なのか~」
「いえいえ、全然。離婚したら勘当されること間違いナシですので、社会経験を今から積んでおこうと思っています。これからもご指導ご鞭撻のほど宜しくお願い…」
「固い固い固い!!」
店長を先頭に、一斉にツッコミが入る。
生まれて初めての勤労は、辛いこともあるけれど予想外に楽しくて。このままずっとずっと続けていけたら良いなと思ったけれど、そうは問屋が卸さないらしい。
それから3日後に予告通り榮太郎が帰宅し、一緒に寝ていても手を出して来なくなり。とても夫婦とは呼べない生活を続けて早1カ月。
偽装結婚は仮面夫婦へと、見事に変化を遂げてしまうのだ。
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