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32.甘くて熱い告白
しおりを挟むいつの間にかアーサーヴェルトとコンスタンティンは元に戻っていたようで、外見と中身が一致していたらしいのですわ。あっはっは…って、い、1カ月も別人と間違えて喋りまくっていたんだよ?国境を駆けずりまくっている野生児だと思い込んでいた相手が実は、
王子様だったんですけど。
んで、よくよく考えてみたら、少し前にアーサーヴェルトが自分自身のことを名前呼びしているとか騒いだ私だけど、アレって中身がコンスタンティンだったからだよね。いやあ、まいったまいった。今なら何もかもが納得ですわ。
そして残念ながら目の前には、両手を広げながらキラッキラの笑顔で歩み寄ってくるコンスタンティンがいたりする。勿論、会いに来ることは昨晩のうちに聞かされていたし、先ぶれが有ったことも侍女のアンナさんから報告を受けている。だけど、その人は訪れて早々に人払いをしたかと思うと、『改めましてコンスタンティン・ベネフィット・イシュタールです』などと名乗り、しかも続けてこう言ったのだ。
「ずっとアーサーヴェルトから元に戻ろうと言われていたが、念には念を入れてずっと保留状態にしてしまった。そのため長らくアーサーヴェルトに公務を押し付ける形となり、心苦しく思っていたところを、モモ嬢のお陰でこうして無事に戻れたという次第だ。サナから魅了の力を奪ってくれて、本当に有難う。キミにはどんなに感謝してもし足りないよ」
とかなんとかほざきながら両手を広げるコンスタンティンの意図が分からず、そりゃもう折れそうな勢いで首を傾げてみたのだが。広げた両手の指先をクイクイと内側に曲げたことにより、ようやく鈍い私でも理解できた。
これは、あれだ。
ハグをしようとしているに違いない。
おいおい、ハードル高過ぎるよ。顔面偏差値が国内で一二を争う王子様と抱き合うだなんて、いったいどんな罰ゲームだ。それこそ不敬罪で牢に入れられてしまうんじゃないのか。む、無理。ええいっ、こっち向いて笑うな!ぎゃああ、目が潰れるっ。
「おいで、やっと会えたね」
うおおおおおっ、
あま────い。
なんだよそのトロットロに溶けそうな瞳と、『ちょっと勇気を出してみました』とばかりに覚悟決めた感じの引き結んだ唇はッ。ふあああっ、イケメン最高、しかもタダのイケメンじゃなくて私に好意を抱いてくれているのが丸わかりのイケメンなんですけどッ。し、死ぬ。なんかもう確実にトドメを刺される…。
もじもじしている私に焦れたのか、コンスタンティンはカツカツと靴音を立てて距離を縮め、そしてアッと言う間に私を腕の中へと閉じ込めた。
ふ、ふあああっ。
いい匂いがする。
カチンコチンのままで抱かれていると、ヨシヨシと頭を撫でられた。それはまるで愛犬を褒めているかの如く、優しく温かい声だ。
「今だから打ち明けるが、初めて国境でモモ嬢を見た時はあまりの衝撃に目が離せなくなった。何故なら俺達は幼い頃から『感情を表に出すな』と言われて育ってきたから。そうすることが当たり前だと思って生きてきたのに、キミは大きく口を開けて笑い、困れば眉間に皺を寄せ、悲しければ眉をハの字にする。そうか、『生きる』とはこう人のことを言うのかと。どんな時でも楽しそうなモモ嬢はあまりにも眩し過ぎた。だから、惹かれるものかと必死に抗ったのに」
な、なんだかまるで愛の告白みたいなんですけど。助けて、どうすれば、どんな反応を返せば正解なの?混乱する私を後目に、まだまだコンスタンティンのポエミーな吐露は続く。
「当時の俺は、アーサーヴェルトの振りをしていたからキミに接近することは出来なかった。だから、遠くから見つめているしかなくて。だけど元に戻って数日後、助けを呼ぶキミの声に歓喜したよ。俺は、この国のために生きて、この国のために死ぬつもりだ。魅了の力に惑わされて道を踏み誤りそうになったが、これ以上の過ちは犯せない。だからこそ、初めてモモ嬢と交信した時から寝る間も惜しんで悩み続けた。
知らなければ諦められたんだ。
だけど、知ってしまった。
キミとのひとときがどれほど幸せなのかを。
完璧だった婚約者との義務的な会話や、ムリヤリ心を向けさせられた男爵令嬢との疑似恋愛はすべて記憶から薄れ、今ではもうキミのことしか考えられない。こんなにも誰かを欲することがあるなんて、自分でも信じられないんだ。モモ嬢、どうか俺を選んでくれないだろうか。選んでさえくれれば、必ず守る。俺だってアーサーヴェルトと同じくらい強いし、王族として権力も持っている。だから、どうか、俺を、お願いだ…っ」
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