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等身大の千脇さん
しおりを挟む私と前田のセックスを想像しているですと?
「あ…、う…」
「やだなあ千脇さん、そこで黙らないでよ。俺、なんかおかしいこと言った?だって、するだろう?あの人とこの人が付き合っていると聞いたら、それはもう自然に…そう、シャンプーしたらコンディショナーをするみたいにセットでその考えに辿り着くはずなんだ。それを否定するなんて人間としてどうかと思うよ」
人間としてどうかと思うよ…
人間としてどうか…
人間とし…
そ、そこまで言う??
いや、確かにその通りだよ、夫婦やカップルを見るとそれはもう自然に『ああ、この2人ってセックスしてるんだなあ』と思うし、最早それが当たり前すぎて改めて認識することすら無かった。でもね、恥じらおうよ!そして勝手に脳内で私と前田を絡ませないで!
「なんだか廣瀬さんが嫌いになりそうです…」
「えっ?!なんで?カッコイイし、仕事もデキるし、自分で言うのもなんだけどモテモテだよ?ど、どこがいけなかったのかな?」
黒烏龍茶を追加注文しながら、私は蔑むような目で廣瀬さんを見詰める。
「だって、そんな、前田と私のことを想像してるとか言われたら、何だか視姦されてるみたいで。そういうのは思ってても言わないでくださいよッ」
「まったくもって偽善者だなあ、千脇さんは。そういうキミだって、絶対に宮丸くんと佐久間さんのセックスを想像したはずだよ、違うかい?」
どうにか話題を変えようと思うのに、何故かそれを許してくれない。こんな上品な店でセックスセックス煩いよ!!
「確かに想像しました。でも、それを敢えて指摘しないで欲しいんです」
「なんで?」
「恥ずかしいからですけど」
「へえ、恥ずかしいんだ?」
「ええ、そうですよ、1人だけで深夜ドラマのエロシーンを至近距離で息を殺ながら観ていたら、親に見つかってしまった時みたいな恥ずかしさですッ」
「へええ、ほおお」
本気でこの男に苛ついてきたので、軽く瞼を閉じてクールダウンしようとしたのに。何故か目の前でクスクス笑う声が聞こえてきた。
「な…んで笑ってるんですか?」
「いやあ、女性に対してこんなバカなことを言ってる自分が新鮮で」
そりゃあ、広瀬さんは今まで自分と同類のハイグレードな美女としか付き合っていなかったでしょうし。そんな女性に対して『カップル見るたびセックス想像してるだろう?』とは訊けないよね。そっか、私にだけなんだ、こういう態度を取るのは。
「私だから笑って済ませますけど、他の女性には絶対に言っちゃダメですよ」
「…あー、分かっちゃったかも」
って、人の話を聞いてないのか──い!
「何がですか」
「千脇さんと他の女性たちとの違い。俺が今まで付き合ってきた女性…いや、それ以外の殆どの女性達はさ、自分をよく見せようとして肩に力を入れ過ぎだったんだよ」
「はあ、それは好きな人の前では有りがちな可愛い乙女心だと思いますけど」
「だから会話も当たり障りの無い、でもお互いの腹の中を探るような言葉しか出て来なくて、だから一緒にいると凄く疲れてしまう。なのに千脇さんはいつでも等身大だろう?言葉も思ったことがポンポン飛び出してくるから楽しいし、ラクだ」
そっか、私との会話を楽しんでくれていたのか。それじゃあ数々の失言を許してあげようと思ったその時、廣瀬さんがキラキラした瞳でこう続けた。
「ってことは、結婚相手もそういう等身大の女性を見つければイイってことか。そうすれば楽しい結婚生活が送れるんだよ、ねえ、千脇さん」
「へえ、はあ」
「でも、どうやって探せばいいのさ?だって俺の前ではどんな女性も自分をよく見せようとしてしまうのに」
「じ、自慢ですか?自慢なんですよね??」
違うと廣瀬さんは言うけれど、なんかもうこのテーマで語り合うのが凄く面倒になってきた。
「そうやってスグに面倒臭そうな顔をする~」
「ご馳走様でした、とても美味しかったです」
これだけ高ければ美味しくて当然だとは思うが、多分もう二度と来ないだろうこの店の全てを目に焼き付けていると、会計を済ませた廣瀬さんが戻って来て。それからおもむろに座っている私に手を差し出す。
「さあ、帰ろうか」
「はいはい、分かりましたよ」
ワザと色気の無い『どっこいしょ』という言葉と共に差し出された手を握って立ち上がり、廣瀬さんと共に店を出た。繁華街の中心部ということも有って、店の前はすぐに交差点で信号待ちの人々が大勢いる。
ん?なんか目の前のこの人、見覚えのある顔だな…と思ったのも束の間。私の優秀な脳は、即座にこの人が前田の婚約者らしき女性…営業部の村瀬裕美さんだと認識してしまう。
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