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この恋に未来は無い
しおりを挟む「安心してください、バレてます。鈴木さんの本質が暗くて重いって、私はもちろん山川さんも気づいてますよ」
「やまかわ…。なあ、美玲、お前と山川って」
てんてんてん。
続く言葉が出て来ない。
「私と山川さんが、何ですか?」
「…いや、何でもない」
「何ですか、気持ちの悪い。言ってくださいよ」
「いや、デキてんのか?」
「は?」
「だって、しょっちゅう2人で帰ってくし」
「私、彼氏いないって言いましたよね?」
「いや、だって彼氏とソレは別だろうよ。性欲は溜まるだろう、アイツも男だし」
は?は?は?は?
もう、この人は。
可愛いって思ったの、撤回!
「何でも、自分基準で考えないでくださいよ。性欲が溜まっても、好きな相手としかしません。そんな人間も世の中には大勢いるんですッ!!」
シ───ン。
早朝4時の回転寿司店にうら若き乙女の声が響き、カウンター席の中年サラリーマンが鈴木さんを優しく慰める。
「フラれちゃったのか、兄ちゃん。まあ人生、そんなときもあるわな」
「…あ、あざ~っす」
お礼を言ったあと、恥ずかしさに負けて私たちは店を出た。まだ日の出には早く、タクシーは捕まりそうにない。だから余力を振り絞り、駅のタクシー乗り場を目指そうとしたのだが。
「ああ、眠すぎて俺もうムリだ。ホテル行こうぜ」
『行く』じゃなくて、『行こうぜ』。
も、もしかして誘ってる?
そんなワケないよね。
だって私、好きな人としかしないと宣言したし。うーん、ひょっとして純粋に眠るだけなのかな?確かにタクシーに乗るよりは全然安いけど…。
「どうする、美玲?」
「え、ああ。いいですよ」
そのときの鈴木さんの笑顔を、
私は一生忘れない。
もしかして私、間違えたかな?
そ、そういう意味だったの??
だってあの、いや、でも…。
待て待て勘違いするな。
きっと部屋は別々だ。
そうに違いない。
歩いてすぐの場所にあったのは、小さなシティホテルで。そりゃもう真っ白な髭のお爺さんが、フロントで受付してくれた。
へえ、こんな早朝4時にチェックインなんて出来るもんなんだな。それにしてもやっぱりラブホテルとかじゃなかったよ。私ったら、自意識過剰。ぷぷっ。って、あれ?聞き違いかな。鈴木さんが『ダブル』と言ったような…。
古いホテルだからか、今どき珍しくカードキーではなくて。プラスチックのキーホルダーに、部屋番号が書かれている。それを左手に持ち、右手で私の肩を掴みながら鈴木さんは囁く。
「美玲、今さら逃げるなよ」
止めてくださいセクハラですよと軽口を叩き、
もう一部屋頼めば済むはずなのに。
私はそれをしなかった。
この人はきっと、
一度断ったら2度と誘ってくれないだろう。
でも、ここで抱かれれば、それは『好き』と告白しているようなもので。その気持ちを知っていながら、この人は私を抱くのだ。
付き合う気も無いのに。
好きでも無いのに。
ああ、厄介な男を好きになってしまった。
…この恋に、未来は無い。
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