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鈴木さんのルーツっつうか、歪んだ原因
しおりを挟むそれから美味しそうにまた、ビールを半分ほど飲み。何貫か寿司を食べた後、ほろ酔いになったのかポツリポツリと鈴木さんは語り始める。
「俺が小学2年のときかな。親父がしょっちゅう俺を連れて出掛けて、その行先は回転寿司が多かったんだよ。相手の女性が好きだったらしくてさ」
へ?
訊けば、『女性』というのは
鈴木さんの父親の浮気相手で。
その密会のため幼い息子をダシに使い、女性の住むアパート前の公園でいつも待たされていたのだと。
1時間、長ければ3時間。
コトが終わると笑顔で父親は出て来て、何事も無かったかのように自分の手を引き母親の元へ戻るのだそうだ。
「それを普通だと思ってたんだよな。でもある程度、成長してその意味を知ったワケ。なんかさあ、いろいろとショックで。
ウチの親父、その女以外にもいっぱいなの。
あちこちに浮気相手いんの。
だから、俺もこうなったんだろうな。
仕方ないよ、そういう血を受け継いでるんだ。
血は争えないってヤツ?」
あはは、と自嘲気味に笑うので、なんとなくムカッとした。ほんと、何が『だから』なの?ちっとも可笑しくないよッ。
「…あの、私には妹が2人いて。これが双子なんですよ。
1人はクソがつくほど真面目で。
もう1人は夜中にトイレの窓から帰ってくる
ほど、学生時代から遊びまくってて。
同じモノを食べて、同じ生活をして育ったのに、ほんと正反対なんです。当たり前だけど、本当に血は繋がってますよ。でも、全然2人は違うんです。
だから、鈴木さんの言う『血は争えない』っていうのは、認めません。そんな都合のいい『血の繋がり』は、言い訳でしかないから。
もうアナタは大人なんですよ。
自分で自分を甘やかすのは、止めないと」
黄色いタオル地のおしぼりをグシャッと握り、彼は言う。
「…ん。そうかもな」
やだ、意外と素直だな。
ていうか、素直過ぎて拍子抜け。
「そろそろ1人と真剣に交際したらどうです?彼氏もいない私が偉そうに言うのも変だけど、恋愛に限らず、誰かと深く関わり合うのが怖いんでしょ?私、鈴木さんのことは何でもお見通しですから。
隣の席でかれこれ1年半も、アナタをネッチョリ観察してるんですよ。自分のこと、あまり知られたくないんでしょ。それはどうしてですか?」
酔っているせいか、鈴木さんは素直に答える。
「たぶん、本当の俺は、暗くて、重くて、ジメジメしてるから。それを知られて…嫌われたくない」
うううう。
まったく、なんなんだこの人は。
なんて、なんて可愛いの。
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