恋、しちゃおうかな

ももくり

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ヒドイ女

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 悲しいが時間は刻々と進んでいるし、人の気持ちも変わっていく。目の前の人を好きなことに変わりはないけれど、それ以上に
 
 …怖いのだ。
 
 いつかこの人は、私を裏切るだろう。そのとき私は、身を切るような思いでこの人を諦めなければならない。
 
 それならば、今のうちに諦めてしまえばいい。そうすれば傷は浅くて済む。そんな気持ちをそのまま伝えると、鈴木さんは無言のまま不器用に笑う。
 
 そんな気まずい雰囲気を変えるため、三ツ谷さんの件へと話題を移す。

「彼女、プログラムが組めると豪語してますが、基本であるLAMPすら出来ないようです。このままだと本人の能力も発揮出来ないですし、応援の任期を早めて元に戻すことは可能ですか?」
 
「うん、分かった。実は俺も気付いてて、それでも何か役立つこともあるかと静観してたんだ。だけど、お前がそう言うなら彼女をインフラ部門へ返してしまおう」
 
 続けて仕事の話を幾つかし、私たちは席を立つ。その勢いで紙ベースの資料が舞い上がり、慌てて掴もうとする私の手と鈴木さんの手が重なった。
 
 一瞬だけ微笑む彼につられて、私も笑う。

 うん、やっぱり憎めないなあ。
 
 自信満々なその態度とか、
 飄々とした口調とか、
 嬉しそうな口元とか、
 優し気な目とか。
 
 何から何まで好きなのに。
 どうして、好きになっちゃいけないんだろう?
 
 きゅ、と鈴木さんは私の手を握り、消えそうな声で言った。

「待つよ、俺。美玲が戻ってくるまで、待つから」
 
 いつも自信満々なクセに、こんなときだけそんな不安そうな顔して。
 
 なんだかもう、分からなくなって。
 無言のまま、私はミーティグルームを出た。
 
 
 
 
 ……………… 
「じゃあまた今度だな。あ、美玲ちゃん…」
 
 別れ際のキス。
 これで何度目になるだろうか。
 
 大沢課長のキスは正面からきて、その直前で微かに首を傾ける。なので、私も変な角度で首を曲げてしまうのだ。

 鈴木さんのキスは彼が片手で後頭部を固定し、押し付けるようにするので安定感があった。

 …って、こんなふうに比べるなんて、
 私ってヒドイ女だな。

 
 付き合って2カ月。

 大沢課長のマンションに誘われるけど、その都度、理由をつけて断っていた。行けば最後まですることになるだろうが、その覚悟がまだ私には出来ていなくて。

 鈴木さんの方は、あれから私に何か言うでも無く。ただ普通に同僚として接してくれている。
 
 もう私のことなんか、どうでもよくなったのかなって。なんとなく、そんな気がしてしまう。
 
 恋というのは、熱しやすく冷めやすいから。
 
 そして、今日は珍しく鈴木さんが出社していない。朝礼直前に『風邪で休む』との電話が入り、そのことで周囲がどよめいていた。
 
 
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