恋、しちゃおうかな

ももくり

文字の大きさ
24 / 42

嫌いになれれば

しおりを挟む
 
 
 『付き合う』と言っても、特に今までと変化なく。平日の夜に仲良く食事しながら、身近に遭った出来事を話すだけといった感じだ。
 
 私は休日でも出勤することが多く、それが終われば掃除・洗濯。そして、日頃の睡眠不足解消とばかりに、いつもより多めに眠るせいでデートらしいことも出来ない有様だった。
 
 そんななか勇気を出して、鈴木さんに例の話を切り出してみようかと。
 
 せっかく大沢課長からアドバイスを貰ったのに、行動に移すまで1週間も要してしまい。ミーティングルームで仕事の話をした後、続けて言おうと思っていたのだが。どうやら、鈴木さんの方からも私に伝えたいことが有ったらしく。正面から真横へと席を移し、なにやらボソボソと喋り始めた。
 
「美玲、あのさ。俺、お前のこと本気なんだけど」
 
 何のことか分からなくて、思わず首を傾げる。だって、もう私の中では心の整理がついていて、既に大沢課長と始めようとしていたから。
 
 なのに、鈴木さんは言うのだ。
 
「三ツ谷とのことは誤解だし。アイツ、勝手に付き合ってると勘違いしてて。あっ、それはきちんと本人に説明しておいたから安心してくれ。
 
 でさ、俺、もう大丈夫だから。他の女も切ったし、これからは美玲ひと筋で頑張る。だから、安心して戻ってこい」
 
 どうして、このタイミングなのだろうか?なんだかもう、神様が『こいつを選ぶな』と言っているようにしか思えない。
 
 ふーっと、軽く深呼吸しながら私は言葉を返す。

「私、いま営業の大沢課長と付き合ってて…」
「うん、知ってる。早く別れて戻って来てよ」
 
 そっか、だから『戻る』という表現なんだ。
 
「だって、鈴木さん、結婚を考えてるって…」
「うん、美玲とだよ。俺、美玲と結婚したい」
 
 目の前の人は不思議なほどに自信満々で、微笑みながら尚も続ける。
 
『だって、美玲は俺のこと好きだろ?』と。
『俺も美玲のこと、好きだから』と。
  
 
 
 ──『好き』という感情だけでは、
 全てが収まらないこともあるんだなと思って。
 
 拭い切れない、不信感。

 どうして私が不安がっているときに、
 一度も連絡してくれなかったの?
 
 私がアナタを避け出したときに、
 それを修復する努力をしなかったのは、何故?
 
 大沢課長と付き合い出したと知っていて、
 電話で確認すらして来ないのも、どうして?
 
 ポツリポツリと思いを口にしたら、徐々に決意が固まってくる。
 
 うん、やっぱりこの人とは無理なんだ。
 
 不誠実で、面倒が嫌いで。たぶん私のことも、自分の玩具が奪われたような気がして焦っただけ。

「あのさ、…好きなんだよ、美玲。
 
 俺、本気でこんな好きになるの初めてで。だから、いろいろ怖くて。放ったらかしにしてたワケじゃない。ずっとずっとお前のこと、考えてたんだよ。俺、なんかいろいろダメダメだけど、言ってくれれば直すから。
 
 大沢課長とのことだって、
 訊くのがただただ怖くて。

 なあ、美玲、俺を嫌いにならないでよ」
 
 …嫌いになれれば、どんなにラクか。
 そう出来ないから、苦しいのに。
 
 私は血が滲むほど唇を噛みしめた。
 
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

放蕩な血

イシュタル
恋愛
王の婚約者として、華やかな未来を約束されていたシンシア・エルノワール侯爵令嬢。 だが、婚約破棄、娼館への転落、そして愛妾としての復帰──彼女の人生は、王の陰謀と愛に翻弄され続けた。 冷徹と名高い若き王、クラウド・ヴァルレイン。 その胸に秘められていたのは、ただ1人の女性への執着と、誰にも明かせぬ深い孤独。 「君が僕を“愛してる”と一言くれれば、この世のすべてが手に入る」 過去の罪、失われた記憶、そして命を懸けた選択。 光る蝶が導く真実の先で、ふたりが選んだのは、傷を抱えたまま愛し合う未来だった。 ⚠️この物語はフィクションです。やや強引なシーンがあります。本作はAIの生成した文章を一部使用しています。

俺と結婚してくれ〜若き御曹司の真実の愛

ラヴ KAZU
恋愛
村藤潤一郎 潤一郎は村藤コーポレーションの社長を就任したばかりの二十五歳。 大学卒業後、海外に留学した。 過去の恋愛にトラウマを抱えていた。 そんな時、気になる女性社員と巡り会う。 八神あやか 村藤コーポレーション社員の四十歳。 過去の恋愛にトラウマを抱えて、男性の言葉を信じられない。 恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。 そんな時、バッグを取られ、怪我をして潤一郎のマンションでお世話になる羽目に...... 八神あやかは元恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。そんな矢先あやかの勤める村藤コーポレーション社長村藤潤一郎と巡り会う。ある日あやかはバッグを取られ、怪我をする。あやかを放っておけない潤一郎は自分のマンションへ誘った。あやかは優しい潤一郎に惹かれて行くが、会社が倒産の危機にあり、合併先のお嬢さんと婚約すると知る。潤一郎はあやかへの愛を貫こうとするが、あやかは潤一郎の前から姿を消すのであった。

あなたがいなくなった後 〜シングルマザーになった途端、義弟から愛され始めました〜

瀬崎由美
恋愛
石橋優香は夫大輝との子供を出産したばかりの二十七歳の専業主婦。三歳歳上の大輝とは大学時代のサークルの先輩後輩で、卒業後に再会したのがキッカケで付き合い始めて結婚した。 まだ生後一か月の息子を手探りで育てて、寝不足の日々。朝、いつもと同じように仕事へと送り出した夫は職場での事故で帰らぬ人となる。乳児を抱えシングルマザーとなってしまった優香のことを支えてくれたのは、夫の弟である宏樹だった。二歳年上で公認会計士である宏樹は優香に変わって葬儀やその他を取り仕切ってくれ、事あるごとに家の様子を見にきて、二人のことを気に掛けてくれていた。 息子の為にと自立を考えた優香は、働きに出ることを考える。それを知った宏樹は自分の経営する会計事務所に勤めることを勧めてくれる。陽太が保育園に入れることができる月齢になって義弟のオフィスで働き始めてしばらく、宏樹の不在時に彼の元カノだと名乗る女性が訪れて来、宏樹へと復縁を迫ってくる。宏樹から断られて逆切れした元カノによって、彼が優香のことをずっと想い続けていたことを暴露されてしまう。 あっさりと認めた宏樹は、「今は兄貴の代役でもいい」そういって、優香の傍にいたいと願った。 夫とは真逆のタイプの宏樹だったが、優しく支えてくれるところは同じで…… 夫のことを想い続けるも、義弟のことも完全には拒絶することができない優香。

白い結婚のはずが、旦那様の溺愛が止まりません!――冷徹領主と政略令嬢の甘すぎる夫婦生活

しおしお
恋愛
政略結婚の末、侯爵家から「価値がない」と切り捨てられた令嬢リオラ。 新しい夫となったのは、噂で“冷徹”と囁かれる辺境領主ラディス。 二人は互いの自由のため――**干渉しない“白い結婚”**を結ぶことに。 ところが。 ◆市場に行けばついてくる ◆荷物は全部持ちたがる ◆雨の日は仕事を早退して帰ってくる ◆ちょっと笑うだけで顔が真っ赤になる ……どう見ても、干渉しまくり。 「旦那様、これは白い結婚のはずでは……?」 「……君のことを、放っておけない」 距離はゆっくり縮まり、 優しすぎる態度にリオラの心も揺れ始める。 そんな時、彼女を利用しようと実家が再び手を伸ばす。 “冷徹”と呼ばれた旦那様の怒りが静かに燃え―― 「二度と妻を侮辱するな」 守られ、支え合い、やがて惹かれ合う二人の想いは、 いつしか“形だけの夫婦”を超えていく。

シンデレラは王子様と離婚することになりました。

及川 桜
恋愛
シンデレラは王子様と結婚して幸せになり・・・ なりませんでした!! 【現代版 シンデレラストーリー】 貧乏OLは、ひょんなことから会社の社長と出会い結婚することになりました。 はたから見れば、王子様に見初められたシンデレラストーリー。 しかしながら、その実態は? 離婚前提の結婚生活。 果たして、シンデレラは無事に王子様と離婚できるのでしょうか。

叱られた冷淡御曹司は甘々御曹司へと成長する

花里 美佐
恋愛
冷淡財閥御曹司VS失業中の華道家 結婚に興味のない財閥御曹司は見合いを断り続けてきた。ある日、祖母の師匠である華道家の孫娘を紹介された。面と向かって彼の失礼な態度を指摘した彼女に興味を抱いた彼は、自分の財閥で花を活ける仕事を紹介する。 愛を知った財閥御曹司は彼女のために冷淡さをかなぐり捨て、甘く変貌していく。

10年引きこもりの私が外に出たら、御曹司の妻になりました

専業プウタ
恋愛
25歳の桜田未来は中学生から10年以上引きこもりだったが、2人暮らしの母親の死により外に出なくてはならなくなる。城ヶ崎冬馬は女遊びの激しい大手アパレルブランドの副社長。彼をストーカーから身を張って助けた事で未来は一時的に記憶喪失に陥る。冬馬はちょっとした興味から、未来は自分の恋人だったと偽る。冬馬は未来の純粋さと直向きさに惹かれていき、嘘が明らかになる日を恐れながらも未来の為に自分を変えていく。そして、未来は恐れもなくし、愛する人の胸に飛び込み夢を叶える扉を自ら開くのだった。

すれ違う心 解ける氷

柴田はつみ
恋愛
幼い頃の優しさを失い、無口で冷徹となった御曹司とその冷たい態度に心を閉ざした許嫁の複雑な関係の物語

処理中です...