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嫌いになれれば
しおりを挟む『付き合う』と言っても、特に今までと変化なく。平日の夜に仲良く食事しながら、身近に遭った出来事を話すだけといった感じだ。
私は休日でも出勤することが多く、それが終われば掃除・洗濯。そして、日頃の睡眠不足解消とばかりに、いつもより多めに眠るせいでデートらしいことも出来ない有様だった。
そんななか勇気を出して、鈴木さんに例の話を切り出してみようかと。
せっかく大沢課長からアドバイスを貰ったのに、行動に移すまで1週間も要してしまい。ミーティングルームで仕事の話をした後、続けて言おうと思っていたのだが。どうやら、鈴木さんの方からも私に伝えたいことが有ったらしく。正面から真横へと席を移し、なにやらボソボソと喋り始めた。
「美玲、あのさ。俺、お前のこと本気なんだけど」
何のことか分からなくて、思わず首を傾げる。だって、もう私の中では心の整理がついていて、既に大沢課長と始めようとしていたから。
なのに、鈴木さんは言うのだ。
「三ツ谷とのことは誤解だし。アイツ、勝手に付き合ってると勘違いしてて。あっ、それはきちんと本人に説明しておいたから安心してくれ。
でさ、俺、もう大丈夫だから。他の女も切ったし、これからは美玲ひと筋で頑張る。だから、安心して戻ってこい」
どうして、このタイミングなのだろうか?なんだかもう、神様が『こいつを選ぶな』と言っているようにしか思えない。
ふーっと、軽く深呼吸しながら私は言葉を返す。
「私、いま営業の大沢課長と付き合ってて…」
「うん、知ってる。早く別れて戻って来てよ」
そっか、だから『戻る』という表現なんだ。
「だって、鈴木さん、結婚を考えてるって…」
「うん、美玲とだよ。俺、美玲と結婚したい」
目の前の人は不思議なほどに自信満々で、微笑みながら尚も続ける。
『だって、美玲は俺のこと好きだろ?』と。
『俺も美玲のこと、好きだから』と。
──『好き』という感情だけでは、
全てが収まらないこともあるんだなと思って。
拭い切れない、不信感。
どうして私が不安がっているときに、
一度も連絡してくれなかったの?
私がアナタを避け出したときに、
それを修復する努力をしなかったのは、何故?
大沢課長と付き合い出したと知っていて、
電話で確認すらして来ないのも、どうして?
ポツリポツリと思いを口にしたら、徐々に決意が固まってくる。
うん、やっぱりこの人とは無理なんだ。
不誠実で、面倒が嫌いで。たぶん私のことも、自分の玩具が奪われたような気がして焦っただけ。
「あのさ、…好きなんだよ、美玲。
俺、本気でこんな好きになるの初めてで。だから、いろいろ怖くて。放ったらかしにしてたワケじゃない。ずっとずっとお前のこと、考えてたんだよ。俺、なんかいろいろダメダメだけど、言ってくれれば直すから。
大沢課長とのことだって、
訊くのがただただ怖くて。
なあ、美玲、俺を嫌いにならないでよ」
…嫌いになれれば、どんなにラクか。
そう出来ないから、苦しいのに。
私は血が滲むほど唇を噛みしめた。
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