恋、しちゃおうかな

交際開始

　
　
　堪えきれずに愚痴を零したのは、５回目に食事をした時のこと。
　
　内容はもちろん、三ツ谷さんに関する件だ。
　
　ずっと鈴木さんには、相談出来なかった。なぜかと言うと、『嫉妬してる』と思われたくなくて。それなのに大沢課長には話せてしまったのは、彼があまりにも聞き上手だったせいかもしれない。
　
「彼女自身がプログラムを組めると言うので、私たちの応援に来て貰うことになったんですが。実際はＰＨＰすらも出来ないと。ほんと信じられますか？あの人、プログラムの基礎すら出来ないんですよ。
　
　それじゃあ、こちらからの指示が理解できないのは当然で。結局、私に皺寄せが来てしまう。毎回チェックして修正する二度手間を考えれば、いっそいなくなってくれた方がラクなんですけど」
　
　目の前の人が山川さんだったら、こんなことは言わなかったと思う。
　
　私はたぶん、とんでもなく見栄っ張りなのだ。だから、『人間関係は円滑で仕事も上手くこなしている』ように見せるため必死になってしまう。
　
「美玲ちゃんの上司は鈴木くんだったよね？どうして彼に相談しないの」
「…えっとですね」
　
　少しだけ悩み、暫くして漸くソレを口にする。
　
　私の淡い恋心と、その気持ちを知りながら三ツ谷さんの方を選び、もうすぐ結婚してしまう鈴木さんのことを。
　
「だから？」
「え、だって嫉妬心から三ツ谷さんを陥れようとしていると…そう、思われちゃいませんか？」

「それとこれとは別だよね？事実、三ツ谷さんは仕事が出来ないんだし、『もう応援は要らない』とハッキリ伝えなければこの問題は解決しない。むしろ黙っている方が、私情を挟むことにならないか？
　
　あのさ、これはビジネスなんだ。彼女はインフラ部門でなら問題ないんだし、戻ればインフラ部門の担当者たちがラクになってしかも美玲ちゃんもラクになれる。
　
　どうして悩むことが有るんだい？
　鈴木くんにきちんと伝えなきゃダメだよ」
　
　心の中の塊がスッと溶け、軽くなった気がした。
　
「そっか、そうですよね。これは仕事なんだ…」
「ほんと可愛いよね、美玲ちゃんは。いつだって一生懸命なんだから。もう鈴木くんなんか諦めてさ、俺のことを選んでみたら？」
　
　次の恋は、こんな男性がいいなって。
　──そう思っていたから、だから。
　
「それもいいかもしれませんね。あ、でも、最初は友人から始めて貰えますか？」
「ああ、もちろん。えっ、本当に？！いやあ、言ってみるもんだなあ」
　
　笑いながら握手して。
　こんな風にして、私たちは付き合い始めたのだ。