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うん
しおりを挟むうん、って。
何度もうん、って返事して。それから鈴木さんは、空になった器を脇に置き、横たわった私の胸に自分の頭を乗せた。
ああ、もう。モジモジしちゃって、
そんな上目遣いで私を見ないでよ。
「嘘でもいいから、好きって言って?一生離さないって言ってくれたら、それでいい。私はそれを信じて、貴方について行くから」
その髪を撫でながら、そう呟くと、鈴木さんは柔らかく笑って首を横に振る。
「美玲に嘘は吐けないよ。
だって、お前は誰よりも俺を知ってるから。
俺の嘘なんか容易く見抜くだろ?
そして、俺はそれが嫌じゃない。
お前には、全部知って欲しい。
なあ、俺のすべてを受け止めてよ。
汚い部分も、僅かに残っている綺麗な部分も。
そして、一生俺の傍にいてよ。
なあ、好きなんだ、美玲。
お前こそ、俺を離さないでくれよ、頼むから」
──理想の恋は、そこそこ素敵な容姿で、優しくて、誠実で、私だけを好きになってくれる男性と、静かにゆっくりと関係を育んでいくこと。
目の前のこの人は、
もしかして浮気するかもしれないし、
もしかしてすぐ私に飽きるかもしれない。
…でも、それは『この人』に限らず、どの男性にも言えることで。臆病な自分を正当化して、『傷つき易い自分』を可愛がるのは、もうヤメよう。
弱いからと、殻に籠もるんじゃなくて、
弱さを認めて、もっともっと強くなるんだ。
「あのね、鈴木さん。浮気するんなら、絶対、私にはバレないようにして?もし、バレたら、別れる気だと解釈して、私は消えるからね。
相手の女性の髪の毛1本もつけて来ないで。移り香もダメ、私の前でその人のことを考えて、それを気づかせてもダメだからね。
出来ないのなら、絶対に浮気しないで。
私、すっごくすごく陰湿でヤキモチ妬きだから」
ギュッと鈴木さんが私の鼻をつまみ、それからクシャッと笑って言った。
「うん」
短いその言葉になぜかとても安心して、私はそっと目を閉じる。
風邪薬が効いたのかそのまま眠りにつき、深夜に目を覚ますといつの間にか鈴木さんがベッドで一緒に寝ていて。規則正しいその呼吸に自分の呼吸を合わせ、意味なくグフフと笑ってみたり。
これが幸せの頂点なのか、
それとも起点なのか、
きっと誰にも分からないけれど。
あれもしたい、これもしたいと恋人らしい行事を幾つも思い浮かべ、またコトンと眠りについた。
その翌朝。
目覚めると既に鈴木さんはいなくて。
テーブルの上には
>父が危篤状態らしいので、実家に戻る。
>悪いけど、仕事も休むから。
>しばらく頼んだぞ。
と書かれたメモが置いてあった。
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