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鈴木さんには負けます
しおりを挟む会社帰り、いつもの居酒屋で大沢課長と向かい合っていた。気迫に満ちた表情をしてる私を見て、大沢課長はたじろいでいる。
しかし残念ながら、勢いはココ迄で。
相手を振るなんて、人生初のことだからその方法が分からない。傷つけず、しかも納得してもらうには、いったいどうすれば良いのだろうか?美しい箸遣いで冷奴をひと口食べ、微笑みながら大沢課長は言った。
「そうだな、『他に好きな人が出来た』とか、『私たち、合わないと思うんです』とかかな。…早く言いなよ、俺と別れたいんだろ?」
その目が見れなくて、思わず黙ってしまう。
「言っただろ?俺、こう見えて結構、振られ慣れてるって。あのさ、さすがに分かるよ。キスした後、あんな悲しい顔されて、部屋に誘っても断られちゃうしさ。
それでもまだ続けるのかって、逆に俺の方が驚いてたくらいだよ」
そ…っか。
なのにこの人は、付き合い続けてくれたんだ。いつでも私を不安にさせないよう、笑顔で。
「こういうのは、実験みたいなものだからさ。美玲ちゃんが俺とは合わないと分かった時点で、続けるのはムダだと思う。早く結論を出して、俺を次に行かせてよ。
ごめん、俺、完璧すぎるんだよね?
女って、むしろダメな男に惹かれるらしいし。こんな俺でもイイと言ってくれる女を探すから、だから、悪いとか思わないで」
私は、この人のことも好きだった。鈴木さんがいなければ、絶対にこの人を選んだ。でも現実には鈴木さんがいて、私は彼を…。
「安心してよ、仕事は仕事だから。でも、しばらく美玲ちゃんを指名しないよ。公私混同と思ってくれて結構。自分を振った女と仲良く笑い合えるほど、図太くないし。
だからさ、もう帰ってくれないかな?俺、一人で飲みたいんだけど」
私は立ち上がって深々と頭を下げ、それから蚊の鳴くような声で『ごめんなさい』と謝ったあと足早に店を出た。
襲い来る自己嫌悪と闘いながら、いつの間にか大通りを全速力で走っていて。途中、豪快に転んで膝を擦り剥いたけど、あの人の心の痛みに比べればこんなものは何でもないと思い直し。
もともと降っていた雨がどんどん激しくなったけど、それすらも禊のように感じられ。必死で寒さに耐えながら打たれ続けていたら、案の定、その翌日は風邪を引いて会社を休むハメに。
ベッドの上でうんうん唸っていると、今度は鈴木さんが看病に来てくれた。
「ほれ」
「はい」
素っ気ないけど、その表情は嬉しそうで。レトルト粥をレンゲで掬い、フウフウ息をかけて冷ましながら私の口元へと運ぶその姿は、実に涙モノだ。
「鈴木さんに看病して貰うなんて、もう私、死ぬかもしれませんね」
「ばーか」
「あのね、昨日、大沢課長と別れましたよ」
「……」
「あんないい人を振るなんて、ほんと惜しいことをしました。仕事も出来るし、出世頭だし、カッコイイし、優しくて、真面目で、もう欠点なんて見つかりませんよね」
「……」
「でも、残念ながら私という人間は、好きな人以外にキスされると泣きそうな顔になるんですって」
「……」
「どんなに素晴らしい男性でも、やっぱり鈴木さんには負けます」
「……」
「もう責任取って一生、面倒見てくださいよ」
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