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不穏な餃子パーティー
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あれから1カ月。
時間も会う機会もたっぷり有るというのに、残念ながら志季さんとの距離は縮まらない。
「わお!奈月ちゃんってメッチャ料理上手~」
「いえ、そんなでも無いですよ」
コイツはどんどん距離を詰めてくるというのに。
コイツこと樋口さんは志季さんのバイト仲間だ。巷では『あのレストランは顔採用ではないのか』とまことしやかに囁かれるほど、この男も顔のつくりが素晴らしい。しかも、恐ろしいほどの肉食系で厨房にいるイタリア人シェフが『同朋』と認めたという逸話が有るほど異性関係が凄い。
志季さんと同じ大学で、しかも同じ年齢ということもあって、必要以上に絡んでくるらしく、今日もアッちゃんと志季さんの住むマンションに『餃子パーティーをしよう』と強引にやって来て。しかも派手で煩い女友だちを2人も引き連れてきた戦犯なのである。
どうやら女友だちのうち1人は樋口さん狙いで、残り1人は志季さん狙いらしい。ハッキリそう宣言されたワケでは無いのだが、先程からその行動を見ていると丸わかりだ。っていうかさ、餃子を80個作る予定なんだけど派手なおネエさんたち、吃驚するほど役に立たないんですが。
「え~っ、だってそんなの触ったら爪が汚れちゃうでしょお?私たちは食べる担当なんだもん」
「そうよそうよ、キスするときに臭くなっちゃうから、私たちの分はニンニクを入れないでよ」
「……」
「……」
「……」
説明しよう。
最初に無言だったのは元々が無口な志季さんで、次に無言だったのは呆れて声すら出せない私で、最後に無言だったのは鬼の形相のアッちゃんだ。明らかに歓迎されていないことを察しない彼女たちに向かって樋口さんだけが陽気に返事する。
「キスって~、まさか俺と?!もしかして狙われちゃってるのかな、アハハ」
「きゃああ、壮一のエッチ~!」
「やだもう、今の聞いてた?志季くうん」
薄く笑顔を浮かべたかと思えば、再びせっせと餃子を包み出す志季さんにビッタリくっついたおネエさんは、その腕にワザと胸を押し付けている。
いや、そんなことしたら作業しづらいでしょッ。
手伝わないクセに邪魔はするんだねッ。
そのうち、おネエさんの長い髪が餃子のタネの入ったボウルに浸ってしまい、それを見たアッちゃんがとうとうキレた。
「ああっ、もう我慢出来ない!邪魔ばかりする上に汚い髪を振り回して何なのこの人たち?!とにかく今すぐ出てって!樋口さん、アナタが連れて来たんだからアナタが追い出してよ!もし追い出すことが出来なければ、樋口さんごと叩き出すからねッ」
「ちょ、何なのこの生意気なクソガキは!」
「ガキって1歳しか違わないのに。というかオバさんたち、厚塗りの化粧でお肌ガサガサだよ!」
「オ、オバさん?!きいいいッ、誰に向かってそんなことを言ってるのよッ」
え、あ、う、わああああ。アッちゃんがおネエさん…もとい、オバさんと取っ組み合いの喧嘩を始めちゃったよ。
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