マミさんは、ときめきたい。

ももくり

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5.マミは葛藤する

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 ここで私は葛藤する。『気持ちいいこと』なんてアレのことに決まってる…って、直接的な表現をしようと決心しておきながら、その僅か数分後に『アレ』を使っちゃうとか、ほんとダメダメだな。


 セックスです。

 ええ。
 セックスをしようと誘われているんですよ、私。

 
 この流れで断るだなんて相当勇気を要すると思うが、でも、だって、見知らぬ相手と一晩限りっつうんならまだしも、この人、同じ会社に勤めていますからねっ!そんなもん、よしんば土日でどうにかトーンダウン出来たとしても、月曜に出勤して、ついうっかりエレベーターとかで鉢合わせたら私、絶対に動揺して挙動不審になれる自信あるからっ!

 それに、もしまた華ちゃんが松原さん率いる営業部の面々と一緒に飲もうとか言い出したら?ああ見えて華ちゃん、なかなか鋭いんだよね。加えて営業部の方々も職業柄、人間観察はお手の物だったりするから、そこで何も無かった振りをして笑って過ごすなんて絶対にムリムリムリ。いや、それ以前に、お付き合いもしていない相手とセックスすること自体、有り得ないしっ!

 …なーんて調子であれこれ考えていたら、沈黙を『是』と解釈されてしまったのか、松原さんがヤワヤワと私の首筋を食み始めた。って、ちょっ、どああああ。乳、揉まれてる!モミモミされてるう!

「あの…、さすがにこの先は…ですね。…申し訳ありませんが」
「あ?」

 怖い怖い怖い。 

 いつもの爽やか貴公子はいったい何処へ行ったのか?!そんな『いつでも人を殺せます』的な雰囲気を醸し出されては、全国…いえ、世界中の松原壮亮ファンが咽び泣きますってば!

「えと、あの…私、好きな相手としかこういうことは…」
「出来ませんってか?チッ、面倒くせえな」

 め、めめめ、面倒臭いと仰いましたか?!

 うわっぷ!断ったはずなのに、そしてそれを理解してくださったはずなのに、何故に私はベッドの上へと放り投げられてしまったのでしょうか?

 で?

 ああ、上から覆い被さってくるのはデフォなんですね!うひょお、顔、近い!イケメンのドアップが私の思考能力を低下させるうう!

 肩ほどに有る私の両手首をガッチリ掴んだまま、松原さんは挑むような眼差しで問い掛けてくる。

「まさか『結婚前提でお付き合いする男性としか寝ません』とか言わないよな?」
「い、言いませんけど考え方としてはソレに近いと言うか、そのっ、誰とでもそういうことをしちゃう女には到底なれないと言うか、だってっ!そこは譲れないでしょ?!好きな人とだけ、していい行為なんですよ、こういうことはっ!」

 ちょっ、鼻で笑ったよ、この人ッ。

「ふうん。でもそれはさ、自分だけがそう思っていればいいことだろ。考え方は人それぞれだからな」
「ま、松原さんはそうじゃないんですか?!」

 それは訊かなくても分かっていたことだが、単に落ち着く為の時間稼ぎをしたかっただけなのである。

「ああ、俺はそうじゃない。あのな、夢を壊すようで申し訳ないが、セックスなんてモンは好きな相手とじゃなくても十分、気持ちいいんだぞ」
「へ?」

 お願いですから、そんな美しい顔でゲスい台詞を吐かないでください。

「倫理観とか道徳とか常識とか。そういうどうでもイイことばかりを大切にしていると、後で痛い目に遭うからな」
「いやいやいや、その御言葉そっくりお返ししますよ」

「ふっ、固いなあ。もしかして処女か?」
「ち、違います!」

「じゃあ、経験人数ひとりってとこか」
「なっ、どうしてそれを…じゃなくて、うっ、別にいいじゃないですか」

 なんかもうね、狩人モードの松原さんがエロくて辛い。なんだよこのフェロモンむんむんな目。ついウッカリ『もういいわ。私を食・べ・て』とか言ってしまいそうになるわっ。

「よし、お前だけに特別、俺の過去を教えてやろう」
「過去?」

『俺もお前の過去話を聞かされたから、これでお相子だろ?』などと前置きされつつも、その物語はゆっくりと語り出されたのである。

 
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