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9.マミは相談する
しおりを挟む──さてさて。
あの恥辱に塗れた松原さんとの初…えっと、接触という表現では軽すぎるし、合体は下品だな。じゃあ結合?って機械部品かよッ。ああ、もういい、覚悟を決めてズバリ言い切ろう。
「松原さんと初めてセックスしてから、3カ月が過ぎました。わー、パチパチ!」
「へえ、…あ、そ…う」
おいおい。柄にもなく照れるなよ。
「でね、なんか相変わらず週一でヤッているワケなんですが、アハ、毎週金曜はセックスの日!てなもんで、とにかくこの前のことを報告しますね」
「ぐう…。そっか、このままエロ相談へと突入するんだな」
正直言って、私も死ぬほど恥ずかしい。だが、この為にワザワザ仮眠を取って深夜3時に電話しているのだ。その努力を認め、もう少し頑張って貰えないだろうか。いえ、お仕事が終わったばかりでお疲れのところを、誠に申し訳ないとは思っているんですよ。だけど、このモヤモヤを解決しないと今夜も眠れそうに無くて。…てなことを延々と語っていたら、渋々とだけど折れてくれた。
やっぱ、やさしー。
って、ええ、そうです。私の電話相手はあのニョロ野こと熊野さんなんですよ!誰だソレって、いやだなあ。カクテルバー勤務で爬虫類っぽい顔の…えっと、ほら、私と仲良しな同僚の華ちゃんが、恋愛相談しまくった男なんですけど。
…どうやら、カラダを曝け出すと心まで丸裸にされてしまうらしく。知らず知らずのうちに私は、松原さんのことばかり考える様になっていた。セックスの最中は上から目線で意地悪なのに、垣間見える優しさがクセになると言うか。今ではもう、彼のトリコなのだ。
しかし、残念ながら向こうは全然そんな感じでは無くて。これ以上好きになっても絶対に報われないと分かっていながら、勝手に育つ恋心はどうにも出来ず。どうすればいいのかと不安に駆られた時に、ふと思い出したのだ。
華ちゃんも恋愛で悩みまくっていたなあ…と。
あの時の彼女には確か、心強い相談相手がいたはず。その人は24時間いつでも電話OKで、アドバイスも的確だったと聞いている。そうだ、彼ならきっと正しい方向に導いてくれるに違いない。そして思い立ったら吉日とばかりに彼が勤める店へ乗り込み、まんまと連絡先をゲットしたというワケだ。
お陰様で、今ではとっても仲良だったりする。
「ねえ、どうすれば松原さんの心を掴めると思う?少しでも好きになって貰うには、女としての魅力をアピールすべきなんだろうけど、私、そっち方面は全然だから、ほんとニョロ野だけが頼りなんだよ」
「ううっ、はああっ…」
まあ、なんてワザとらしい溜め息。
「もしかして、今日のニョロ野はご機嫌ナナメ?」
「あのさ、俺、ずっと訊こうと思ってたんだけど」
「ハイハイ、どうぞ何なりと」
「なんで俺なの?」
「…なんでって、何が?」
「華ちゃんといい、マミちゃんといい、どうして俺に恋愛相談してくるのかって訊いてるつもりなんだけど。第一、おかしいだろ、俺の性感帯とか前戯とかを聞き出して参考にしようとすんの」
今更?こうして電話する様になってから、かれこれ2カ月は経過してますけど。
まさかこのまま拒絶モードに入ってしまうのか?困る!それは絶対に困る!とにかく機嫌を直して貰わないと!…そう思った私はニョロ野を懐柔することにした。
「ごめんね、いつも私ばかり一方的に喋って。今日はニョロ野が溜めている鬱憤を吐き出して」
「いや…、なんか、…ゴメン、こっちこそ。ちょっと怒り口調になっちゃって」
ニョロ野はポツリポツリと心情を吐露し出す。
自分も男なので、ちょっといいなと思っている女のコから性的な話を聞かされ続けると、色々と爆発しそうになるのだと。それはコンディションにも大きく左右されるらしく、今日はムラムラしているのでかなりヤバイそうだ。
「ちょっといいなって、そんなこと思ってたの?」
「当たり前だろ?じゃなきゃ電話番号を教えない」
「だ、でも、華ちゃんの時だって恋愛相談に乗ってあげてたでしょ?」
「うん、華ちゃんのことも狙ってたからね」
「ふあっ?!ほんとに?」
「気持ちも伝えたけど、軽く断られた」
およよ。華ちゃん、そんなこと一言も言ってなかったけど。動揺を隠せずに黙り込むと、ニョロ野は更に続けた。
「だいたいさあ、その松原って男、卑怯だよ」
「ひ、卑怯とは?」
「マミちゃんのこと、セフレにして。教えてやるとか偉そうなこと言ってるけど、単なる玩具扱いじゃん。いい加減、目を覚ませよ」
「セ、セフレで、玩具…」
第三者に言われて初めて気づくだなんて。そっか、私、そうだったんだ…。
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