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11.マミは抱き締める
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「なんか今日、ノリ悪くないか?」
「はあ、まあ、そんな時も有りますよね」
華ちゃんからあんなことを聞かされても、
松原さんとまた会ってしまう自分が憎い。
きっとこの人はこうして私とセックスしまくったその翌日に、紳士の顔をして件の社長令嬢と過ごすのだろう。残念ながら私にそれを咎める権利は無いし、かと言って割り切れるほど強くも無い。
しかも松原さんはお父さんと二人暮らしなのだが、そのお父さんが華ちゃんのお母さんと再婚するため、もうすぐ家を出てマンションで一人暮らしを始めるらしい。そうなれば家賃だの水道光熱費だのと出費が嵩むだろうし、こんな風にホテルで会うのも無駄だと思うに違いない。
そろそろ私との関係を終わらせるつもりかな…。
そんなことを考えていたら、セックスに集中出来なかったんですけど。ハァ、人の悩みも知らないで、松原さんってば呑気にテレビなんぞ見始めたよ。私に気を許し過ぎじゃない?と言うよりも、私なんかに気を遣うのがバカバカしいと思ってんのかな?うっ、それはそれで悲しいわ。
「なあ、言いたいことが有るなら早く言えよ」
「…別に何でも無いですよ」
「無いこと無いだろう」
「無いこと有りますよ」
ムッとした表情が妙に可愛く見えたので、思わずチュッとキスしてしまう。ほんと、悔しいけどこの人のこういう顔が大好きなんだよなあ。
「そういや、ウチの甲斐がお前のこと可愛いって」
「えーっ、そうなんですかあ」
また甲斐さんか。最近、その名前を耳にすることが増えた気がする。
「華経由でお前との仲を取り持って欲しいとか言うんだけど、断っていいよな?」
「うーん、勿体無いけど仕方ないですよね」
松原さんのセフレになっているのに、その部下である甲斐さんと素知らぬ振りで付き合うなんて絶対に無理だ。さすがの私も、そこまで厚顔無恥じゃない。そう補足したかったが『セフレ』という言葉を口にしたくなかったので曖昧に笑って終わらせた。
「…なんで?」
「なんでって」
なのに、そこを突っ込まれてしまうとは。
「アイツ、凄くモテるぞ?しかも仕事もデキるし、将来有望なのに」
「それ、甲斐さんと付き合えという意味ですか?」
何故、そこで黙る?!
しかもどうして無表情?!
沈黙に耐えられなくて、咄嗟に話題を変える。
「そう言えば、松原さんって華ちゃんにフラれたことが有るんですってね」
「え?…あー、アレかあ」
なんだこの軽いノリは。まあ、そういう感じだろうとは思っていたけど。
「もしかして本気じゃ無かったとか?」
「だってほら、俺ってモテるから」
心底、意味が分からなくて眉間に皺が集まる。
「クライアント側の担当者が女性だった場合は勿論、受付嬢に秘書、とにかく言い寄ってくる女が多くて鬱陶しかったんだよ。それで、華が丁度いいかなって」
「丁度いい?」
「俺さ、父親の二の舞になりたくないんだ。だから結婚相手は裏切らないヤツがいい。それと、そこそこ好きくらいのレベルで、あまり愛し過ぎることの無い女ならもっといいな。…そういう意味で華が丁度良かった」
「それは…何と言うか、ああもうアナタって…」
やっぱりこの人、心の中に闇を抱えているんだなと思いながら私は、いつの間にか松原さんを抱き締めていた。
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