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12.マミは身悶える
しおりを挟む恋愛はまだまだ初心者レベルの私だが、こう見えて人間観察は得意なのだ。だから、分かる。松原壮亮という男はひたすら真面目で面倒臭い男だと。多分この人は、誰よりも欲しているのだと思う。
──愛し愛されることを。
そして温かで幸せな家庭を。
母親の裏切りのせいで臆病になってしまったのなら、この私が信じさせてあげればいい。そっか、そうだよ、何もかも隠さずに曝け出して、惜しみなく愛情を注いであげよう。ったくもう私ったら、まだ若いのにどうして失敗を怖がってたんだろう?相手に不足は無いし、もし玉砕しても『あの松原さんに振られたんだから、仕方無いよね』で済む話ではないか。
とにかく、やってみないと。
みるみるうちに、力が漲ってきた。さあ、頑張って好きだと伝えなければ。そしてもっと自分を磨こう。きっとこの人のことだ、社長令嬢を躱すことが出来たとしても、次から次へと新たな敵が現れるに違いない。その度に落ち込み、鬱々と暮らしていくつもりなのか?
それだけは、絶対に嫌だ。
だったら変わろう、変わりたい。
お祖母ちゃんの時みたいに、後悔したくない。あの頃の私は子供だったから何も出来なかったが、今はどんなことでも自分で選べるし自由に動ける。もちろん責任は全部自分が負うことになるだろうけど、その覚悟は既に出来ている。
「松原さんッ」
「んー、なんだ?っていうか、お前、どうして俺を羽交い絞めにしてんの?」
羽交い絞めって…。
軽く頬を膨らませてから、意地悪なことばかり言うその唇に自分の唇を押し当てた。はああ、好きな人とキスしちゃってるよ。これって、よく考えたら凄くない?片想いのクセして、キスしようと思ったら出来ちゃうんだよ?
いや、本当はセックスもしちゃってるけど、今ここでそれを言うと生々しくなっちゃうから、そこんとこは触れないでおこう。って、ああ、また脳内で逃避してるな。さあ、早く勇気を出して。せえの、言おう、ふううっ、言っちゃうぞ。
「あのっ、私、松原さんのことが本気で好きなんですけど」
「……」
む、無言?しかもそんな嫌そうな顔して、頭を左右に振らないでよ。
「えと、だから、彼女にしてください!」
「…あー、ごめ」
断るつもりなのを察した私は、尚も積極的にアピールを続ける。
「松原さん、私の前だと素を出せるでしょ?仕事で周囲に気を遣って、私生活でもとなるとシンドイじゃないですか。でも、私となら大丈夫です!海よりも広いこの懐で自由に泳がせてあげますからっ」
「いや、そうじゃなくて俺は」
「私、絶対に浮気しません!死ぬまで松原さん一筋だと誓えます。何なら『壮亮命』と入れ墨を彫ってもいいですよ。ねえ、どうすればもっと私を好きになってくれますか?私が特別になれる方法をご存知でしたら是非教えてください、お願いしますッ」
「う…、あのな…」
情緒不安定なのか、それとも自分で思うよりもずっと『竹中マミ』という女は弱かったのか、気付けば涙を流していた。そりゃもう滝の如く大量に。
「だって、嫌なんです!松原さんが他の女のモノになるのなんて絶対にイヤ!お願い、お願いします、どうか私を拒まないで。社長令嬢と結婚しないでえええっ」
「…あ?おい、マミ」
どうせ断られるんだろうなと思いながらも。初めて名前で呼んで貰えた喜びに、私は激しく身悶えてしまった。
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