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13.マミは撫でる
しおりを挟む一旦、体を離し。
全裸なのに上目遣いでお願いポーズをする私。
一応、羞恥心は有るのでシーツで下半身を隠していたところ、ベッドに座っている松原さんが膝を立てたせいでシーツが引っ張られ、残念ながら丸見え状態に。それをコッソリ右手で取り戻すと、今度は松原さんが胡坐なんてかくから再び丸見え状態に。ここでオッパイがノーガードだったことを思い出し、お願いポーズを解除して左手で胸を隠しつつも右手でシーツを取り戻す。
「あー、こういうの俺、苦手なんだって」
「じゃあ、頑張って苦手を克服しましょうよ!」
明るく答える私に苛立ったのか、松原さんは自分の髪をクシャクシャにしながら片膝を立てた。あん、またシーツが…って、こんなことしてたら会話に集中出来ないんですけど!
「最初に言っただろ?恋愛感情抜きの関係にしようって。本気で好きになるのはお前の勝手だけど、俺にもそれを求めるな。そういう重い女は、困る」
「困らせることが出来て、本望ですっ」
あ、引いてる。
なんだコイツ、話が通じないぞって顔してるけど、そんなの最初っから想定内…って、あん!またシーツを持っていかないで!それよりも、どうして名前呼びから『お前』に戻しちゃうワケ?もしかしてアレ、一度限りだったのかな?
「ていうかさ、お前、俺のどこを好きになったんだよ?外面だけ良くて、オンナ関係は乱れてるし、不誠実で最悪の男じゃないか」
「バカだなあ、松原さんは」
その問いに謎のスイッチが入り、ひたすら私は力説する。──本当のアナタは真面目で愛情に溢れた素敵な男性なのだと。最も信頼していた母親から裏切られ、そのせいで信じることに臆病になっているだけで、その壁を乗り越えるチャンスを無意識のうちに待ち望んでいるのではありませんかと。
すると、苦い表情で松原さんはボソリと呟くのだ。
「もう終わりだな」
「へ?まだまだ続きますよ、好きなところはもっとたくさん有りますからね!」
「…そうじゃなくて、この関係を終わらせる」
「ええっ?!どうしてですかッ」
驚き過ぎて目玉が飛び出そうだ。もう、シーツなんかどうでもいいとばかりに私はガバリと彼に抱き着く。
「だって、期待に応えられないから仕方ないだろ。第一、俺のことを何もかも分かってますって…そういうの、ほんとウザイ。お前に分かるわけ無いだろ、あの頃の俺がどんな気持ちだったかなんて。世間的にはよく有る話かもしれない、だけど俺にとっては人生を変える大きなターニングポイントだったんだ」
「そ、それはそうでしょうね」
「あれほど可愛がってくれていた母親が、呆気なく自分を捨てたんだぞ?それはな、存在価値を否定されたも同然なんだ。その哀しみに浸る暇もなく、慣れない家事に追われ、毎日生きていくだけで必死だった。なのに、ぬくぬくとした愛情に包まれた友達がつまんねえ話を振ってくんだよ。テレビ番組のアレがどーのとか、ゲームがこーのってさァ。俺は、そんな時間すら無いのに。普通の生活がどれほど羨ましかったか。苦しくて、不安で、惨めで、だけど弱音を吐くことすら許されなかった!そんな俺の気持ちが、お前に分かるか?!」
「…分かりません」
松原さんのことだ、こんな風に激高してしまったのは絶対に本意では無くて、後で死ぬほど後悔するだろう。でも、私は嬉しかった。何故なら、他の女性の前では決してこんな風に感情を露わにすることは無いと思ったからだ。
だから自然と頭を撫でていた。
「ヨシヨシ、よく頑張りましたね。偉い、偉い」
「くっそ、お前、いったい何なの?!」
そう言い返す松原さんの声が少しだけ笑っていた気がしたのは、私の願望だったのかもしれない。
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