マミさんは、ときめきたい。

ももくり

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16.マミは人格否定を許さない

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 本当に?

 何度か一緒に仕事をして感じたことなんだけど。この人って全てに於いて要領が良すぎると言うか、堅実過ぎると言うか。それは時間を無駄にしないから、決して悪いことではないのだけれど。でも、そんな甲斐さんがワザワザ1人の女を誰かと奪い合うだなんて、やっぱり信じられない。

 って、ああ、そうか。
 絶対に勝てると思っているからこその発言か。

 それは、ニョロ野よりも自分の方が格上だと思っているからではなく。これまでの人生が余りにもイージーモード過ぎて、挫折知らずだったのだろう。そう、多分この人は拒絶されたことが無いのだ。

 いいなあ、その自信。
 私にも少し分けて欲しいよ。

 つい無言のまま甲斐さんを見つめていたら、私の代わりに華ちゃんが口を開いた。どうやらこの状況を面白がっているらしく、まるで見合いの席の仲人よろしく甲斐さんを質問攻めにし始める。

「甲斐さんってマミちゃんと接点ありましたっけ?」
「ん?ああ、飲みの席で何度か顔を合わせてるし、仕事でもたまにお世話になっているかな」

「それだけ?」
「そうだよ、それだけだ」

「こう言っちゃなんですけど、アナタ、女には困って無いでしょう?」
「あはは、困ってはいないね」

 いいぞ、もっと攻めろ!

 他力本願だと自覚しつつも、私は心の中で華ちゃんを応援する。確かに私と甲斐さんの接点は『それだけ』だ。飲みの席では本当に顔を合わせる程度で、打ち解けたという感じでは無かったし、仕事でも事務的な会話しかしていない。

 夜な夜な愚痴を聞いてくれたニョロ野ならまだしも、ほんの顔見知り程度でどこをどうすれば私を好きになる要素が有ったと言うのか。まさか中身なんてどうでもイイとか思ってないでしょうね?ほんと、それ言ったらアウトだからッ。

「甲斐さんはマミちゃんのどこが好きですか?」
「どこがって、うーん…顔、かなあ?」

 うわあお。
 まさかと思ったけど、まさかでしたよ!

 ちょっ、人格全否定?!顔だけで選んだとか言われて、嬉しがる女子がこの世に何人いると思っているのか。普通はそう思っていても、絶対クチにしないんだよ!それを平然と答えちゃうだなんて、甲斐さんってもしかしておかしい人なの?

 険しい表情の私に気付いたのか、
 甲斐さんは明るく補足し出す。

「あのさあ、まさか恋愛に於いて容姿は判断基準に入れません…とか言ったりしないよね?」
「はああ?!なっ、そりゃあ顔とかは…一目惚れって言葉も有るくらいですし、否定はしませんけど。でも、それだけじゃダメでしょ?!外見だけじゃなく、中身も知らないと互いに分かり合えないじゃないですか。本当に心から信じ合えないと、恋愛を続けることは難しいと思います」

 よおし、華ちゃん、よく言った。
 小さく拍手していると甲斐さんが真顔で訊ねる。

「あはは、面白いことを言うね。じゃあさ、キミは彼氏である須賀の全てを知っているのかい?」
「ええ、それは…勿論」

「なんだか急にトーンダウンしちゃったみたいだけど、本当は違うよね?だってさ、人間なんて誰もが自分を良く見せようとして、必死で汚い部分を隠す生き物だ。その恥部を須賀が全て曝け出しているとすれば、それは逆に凄いことだよ」
「う…あ…、えと、それは…」

 フン、と鼻で笑った甲斐さんは、そのままツラツラと持論を展開していく。人間という生き物は、常に自分を演出しているのだと。優しそうに見せたり、楽しそうに見せたり、幸せそうに見せたり。それは周囲と上手く馴染む際に必要な…いわば『生きる為のすべ』で、大なり小なり誰でもやっていることなのだと。

 だからこそ、誰かを完全に理解することは不可能で、それを出来ると思っているのならば傲慢ですよと。誰かと全てを分かり合うなんて有り得ないことだし、大抵の人は『嫌われたくない』という感情を抱いているので、相手のことをそれほど理解していなくても理不尽に傷つけられたりしないはずだと言うのだ。

 ──ううむ。
 納得したけど、納得したくない。

 ここで同意したら、人間として終わってしまう気がする。『ぐぬぬ』と唸ったまま、言葉を発しない華ちゃんと私を窘めるかの如く、手をヒラヒラさせたニョロ野が笑顔で反論を開始した。
 
 
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