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17.マミはニョロ野にほだされる
しおりを挟む「好きって気持ちは短期間で冷めちゃうよな」
「は?」
「いや、一般論だぞ。そしてそれはどんなに抗ってもどうにも出来ないんだ。で、その度に相手を替えるのは辛いから、少しでも好きを長続きさせる為に互いを知る必要が有るんだと俺は思う」
「はあ?」
「複数の相手をチョコチョコ摘まんで渡り歩くよりも、たった1人の相手を深く掘り下げながら付き合っていくのは意外と面白いぞ」
「はああ?」
「相手も自分のことを…全てじゃないにしても、隅々まで知ろうとしてくれて。そして長い時を一緒に過ごすことで共通の想い出が増えていく。そんな風にして誰かがいつも隣りにいてくれたら、きっと満ち足りた人生を過ごせるはずだ」
「…なるほど」
おおっ!
ニョロ野、優勢か?!
「店で売ってるリンゴみたいに、味が分からないからと見た目だけで判断する必要は無いんだよ。人間は打てば響く生き物だ。話し掛けて、反応を見て、共に行動すればいい。俺、マミちゃんには幸せになって貰いたいんだ。絶対に俺以外の男を選ぶと思うけど、その相手がキミじゃないことを祈るよ」
「ははっ、言うねえ~」
気のせいか、ニョロ野がカッコ良く見えてきた。
「マミちゃん、こう見えて結構バカだからさ、狡賢い男に都合よく扱われてしまうと思うんだ。だけどそういうバカなところが放っておけないと言うか。裏表が無くて今どき珍しいほど純粋なコだから、必ず幸せになって欲しい」
「……」
何を考えているのかは不明だが、甲斐さんは黙り込んでしまい。待ってましたとばかりに華ちゃんが話に割り込む。
「ねえマミちゃん、ニョロ野ってイイよね!」
「えっ?あー、うん」
そしてアピールタイムが始まってしまった。
ふーん、へー。ニョロ野、こう見えて高学歴なのね。大学卒業後すぐにメガバンクに勤務し、上司の不正を密告したところ逆に左遷されて辞職したと。求職中にバイト感覚で働き出したバーが、性に合っていたのでそのまま就職。ムードメーカーで愛されキャラ、遊び人に見えるけど実は一途…って、うん、ソレは知ってる~。
喋る華ちゃんを必死で止めようとするニョロ野。いつもなら鼻で笑っちゃうところだけど、なんだか今日は可愛く見える。いや、ダメ、私には松原さんという人がいて、『どんなことが有ろうとアナタを愛し抜きまあす!』などと本人に向かって高らかに宣言してしまったのだから。
でも、だって、ニョロ野ってばいじらしいんだもの!今だって私のことが好きだと丸わかりの顔で、こっちをチラチラ見てるし!キモイと言いたいところだけど、なんか今日は許せちゃう!もしや、これがニョロ野が言うところの『深く掘り下げながら付き合っていく』ってヤツなのかな?
少しずつその人を知っていくことで、どんどん距離が縮まったというか。ああもう、松原さんが悪いんだよ、私のことを避けたりするから!せめて週イチで会ってくれれば、こんなに心が揺れることも無かったのに!
ブブブブブ…。
って、誰?!
こんな時に電話なんかしてきてっ。
逆ギレ状態でテーブルに置いてあったスマホを手に取ると、画面には思いっきり『松原壮亮』の文字が表示されていた。
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