マミさんは、ときめきたい。

ももくり

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18.マミはすぐに飛んでいく

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 電話に出ないという選択肢も有ったが、だってほら、私達の世代だと鳴れば無条件に出ちゃうから!それは例えるなら、枝豆を食べていてお喋りに夢中なのにサヤは間違わず分けている行為にも似…って、えっ、分かり難い?

 じゃあ、もういい、今の忘れて!

「もしもし、竹中です」
「なあ、今からウチに来れる?」

 カチンときた。

 だって、一方的に避けておいて久々に電話を掛けてきたかと思えば、いきなり『ウチに来い』って。どんだけ上から目線なの?くっそ、アンタいったい何様のつもりなのよ!!

 ガタン。

「電話、終わった?ってどこ行くのマミちゃんッ」
「華ちゃん、私…壮様のところに行ってくる!」

 マズイ。あまりの嬉しさに思わずポロッと言ってしまったが、自分に好意を寄せてくれる男性達の前でなんたる無神経。反省しきりの私に、華ちゃんが訊ねる。

「壮ちゃんのところに?…なんで?」
「よ、呼び出されたの、急に頼みたいことが出来たとかって」

 暗に仕事絡みであることを匂わせれば、華ちゃんはそれ以上突っ込んで来ない。よしよし、このままスマートに去ってしまおう。いつの間に打ち解けたのか、雑談で盛り上がっているニョロ野と甲斐さんにも詫びて、店を後にした。

 あはは、あの二人、鳩が豆鉄砲をくったみたいな顔してたな。そりゃそうか、私を取り合っているという構図だったのに、その肝心の私が途中で退場してしまうんだもの。

 華ちゃん、女1人にしてゴメン!
 ニョロ野、想いに応えられなくてゴメン!
 甲斐さん…は、正直どうでもいいな。

 そして、私は走る。走ってタクシーを捕まえ、それを降りてからもまた走り、口から心臓が飛び出そうなほどゼエゼエ言いながら、漸く松原さんの住むマンションへと辿り着く。

「急に呼び出したりして悪かったね」
「いっ、ゼエ、いえっ、ハァ、全然、だいじょ…ぶほっ、ごほっ」

 大丈夫ではないのが伝わったのか、松原さんはミネラルウォーターを取って来てくれた。そしてそれを飲んだ私は、内臓を吐き出しそうな勢いで咽せまくる。

 ブフォン、ゲホ、ゴホオオッ!
 
「ああ、ほら、ゆっくり飲まないと」
「う、うわああん、松原さんのバカ!」

「えと、なんで泣くのかな?」
「だって、ずっと会ってくれなかったから!しかも土日は他の女性とデートしてたでしょ?!そんなのズルイ!私だって太陽の下でルンルンデートがしたかったッ」

「…ルンルンだなんて、若いコでも使うんだね」
「そりゃあ使いますよ!」

「あとさ、土日に会ってたのは確かにクライアントから持ち込まれた縁談話の相手だけど、別にデートとかじゃないから」
「嘘吐き!」

「ほんとほんと。幾ら俺でも、仕事の為に結婚までしないよ。一応、断るつもりではいるんだけど、実を言えば向こうには本命の男がいて、そいつが現在無職だから親から交際を反対されているらしくて」
「あら、…そうなんですか」

「その男と会いたいのに親の監視が厳しいと言うから、俺でカモフラージュしてあげてたんだ」
「……」

 信じたいけど、信じられない。だって、そんな事情が有ったなら早く教えてくれれば良かったのに。それと、LINEをブロックしたのは何故?眉間に皺を寄せ、思いきり頬も膨らませている私を見て、松原さんはいきなり笑い出す。

「なんだよ、その顔」
「松原さんは卑怯だよ!私が好きなのを知ってて、放置するんだもん!」

「だって、どこで誰が見てるか分からないだろ?一応、紹介された令嬢とお試し期間中ということになっているのに、他の女ともデキてましたとなれば信用問題に関わるじゃないか」
「じゃあ、何故そうだと先に言わないの?!」

 ポカポカとその胸を叩くと、松原さんは困った表情のまま口元に手を当てた。

「んー、それは…今回の件を切欠に、本気でこの関係を終わらせようと思っていたからだろうな」
「ふあっ?!」

 あまりの衝撃に目を見開く私。しかし、そんな私の気持ちはお構い無しで松原さんは平然と続ける。

「だけど、なんか、悔しいけど無性に会いたくなって。今までの女達みたいに、簡単に切れないと言うか…その、寂しくて仕方ないんだ。これまでは1人でも大丈夫だったのに、ここにマミがいればいいのにとか考えてしまうし、いたらきっと抱き締めてしまうだろうとか思って、それで、抱き締めたら次はキスしたくなるだろうなあ…って。取り敢えず、何を言いたいか自分でもよく分からなくなったけど、別れるのはもう少し後でもいいかと思ってさ」
「ふあっ?!」


 ちょっ、愛の告白かと思ったら、
 別れの延期予告だったんですけど!!
 
 
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