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19.マミは空振りする
しおりを挟む面倒臭いこと、この上ないな…この男。
でも、そんな男を好きな自分も大概だ。
あー、自慢じゃないけど交渉とか下手な方だし、ここからどうやって巻き返せばいいのか皆目見当がつかない。…あ、そうだ!
「私ね、さっきまで2人の男性から言い寄られてたんですよ。凄いでしょ?」
「へえ」
あら、興味無い感じですか?って、『言い寄る』にもいろいろ種類が有るし、もしかしてナンパされただけだと思っているのかもしれない。よし、ここは具体的に相手の人物像を伝えることにしよう。
「1人は華ちゃんの元カレと同じ店に勤務している男性でして、何と言うかクールワイルドな感じで出待ちされるほどのイケメン!もう1人は松原さんの部下の…」
「甲斐か?アイツとうとう行動に出たんだな!」
返事代わりにドヤ顔をしてみたものの、何となく虚しい。なんだコレ、モテ自慢して終わっちゃったじゃないか。おかしい、私の計算では『そんなに人気が有ったのか!ならば、俺だけのマミにしておかねば』と焦るはずだったのに。なぜ甲斐さんの成長を喜んでいる感じなの?!
「そうです、甲斐さんとニョロ野の2人から言い寄られていた最中だったのに、松原さんが電話なんか掛けてくるから大喜びでスッ飛んで来たんですよ!ニョロ野なんか本気で私のことが好きで、情に絆されそうになったけど、でもやっぱり松原さんの声を聞いたら、何もかもどうでも良くなっちゃうの!」
「…なあ、マミ」
「ダメ、最後まで言わせて!松原さん、どう考えても私のことが好きでしょ?!あのね、いつでもどこでもその人のことを考えちゃうって、それ絶対に『好き』ってことだから!良かったね、私も好きだから両想いだよ!さあもう付き合っちゃいましょう!お母さんのことで慎重になるのも分かるけど、失敗したら次に行けばいいんですよ!」
「…おい、マミってば」
「まだ話は続くのっ!もう少し聞いてってば!見えない未来に怯えて、このままずっと息を潜めて過ごすつもり?あのね、人生はとっても長いんだよ。それなのに起きてもいない失敗を今から気に病むなんて時間の無駄でしょう?そんなことより、今日一日を楽しく過ごさなきゃ。毎日を充実させて、笑いながら生きていくの。私ね、松原さんと一緒にいられるだけで幸せだよ。一生この感情が続くかは分からないけど、でも、今この時の想いは分かる。ほんと、すごく好き!だからお願い、もう諦めて私のことを受け入れて!」
「マミ…」
顎に手を当てたまま、営業職を生業にしているこの人が珍しく言葉に詰まっている。私の想いは少しでも通じたのだろうか?はァ、とっても緊張する、まるで処刑台に立たされている気分だ。ゴクリと喉を鳴らすと、それが聞こえたのか松原さんが意地悪く笑う。『威勢よく喋っていたクセに、本当はビビッていたんだな』とでも言いたげな表情だ。
そう思うんなら、早く答えてよ!
「も、もしここで振られても、私は諦めませんからね。だって、自信あるもの。松原さんは絶対に私のことが嫌いじゃないはず。普通は嫌いな女をこんな風に呼び出したりしないでしょう?」
「うん、それよりもさ、マミ…」
この緊迫した場面で、目の前の人はこう言った。
「ニョロ野って、誰?」
は?!そこ??
出たな、狡い大人の常套手段!
必殺・論点ずらし!!
「本名は蛇野…じゃなくて、えと、クマ!熊野大輝さんです。華ちゃんが過去に恋愛相談をしていた相手で、深夜の長電話にも優しく対応してくれると聞き、私もそれに倣ったワケでして。これが噂に違わぬ素晴らしい対応で、松原さんを想って眠れぬ夜は電話しまくりですわ。それで気を許していたら、実は私のことが好きとか言い出すから、びーっくり」
「へえ、そうなんだ」
…そして再び沈黙が訪れた。
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