マミさんは、ときめきたい。

ももくり

文字の大きさ
19 / 29

19.マミは空振りする

しおりを挟む
 
 
 面倒臭いこと、この上ないな…この男。
 でも、そんな男を好きな自分も大概だ。

 あー、自慢じゃないけど交渉とか下手な方だし、ここからどうやって巻き返せばいいのか皆目見当がつかない。…あ、そうだ!

「私ね、さっきまで2人の男性から言い寄られてたんですよ。凄いでしょ?」
「へえ」

 あら、興味無い感じですか?って、『言い寄る』にもいろいろ種類が有るし、もしかしてナンパされただけだと思っているのかもしれない。よし、ここは具体的に相手の人物像を伝えることにしよう。

「1人は華ちゃんの元カレと同じ店に勤務している男性でして、何と言うかクールワイルドな感じで出待ちされるほどのイケメン!もう1人は松原さんの部下の…」
「甲斐か?アイツとうとう行動に出たんだな!」

 返事代わりにドヤ顔をしてみたものの、何となく虚しい。なんだコレ、モテ自慢して終わっちゃったじゃないか。おかしい、私の計算では『そんなに人気が有ったのか!ならば、俺だけのマミにしておかねば』と焦るはずだったのに。なぜ甲斐さんの成長を喜んでいる感じなの?!

「そうです、甲斐さんとニョロ野の2人から言い寄られていた最中だったのに、松原さんが電話なんか掛けてくるから大喜びでスッ飛んで来たんですよ!ニョロ野なんか本気で私のことが好きで、情に絆されそうになったけど、でもやっぱり松原さんの声を聞いたら、何もかもどうでも良くなっちゃうの!」
「…なあ、マミ」

「ダメ、最後まで言わせて!松原さん、どう考えても私のことが好きでしょ?!あのね、いつでもどこでもその人のことを考えちゃうって、それ絶対に『好き』ってことだから!良かったね、私も好きだから両想いだよ!さあもう付き合っちゃいましょう!お母さんのことで慎重になるのも分かるけど、失敗したら次に行けばいいんですよ!」
「…おい、マミってば」

「まだ話は続くのっ!もう少し聞いてってば!見えない未来に怯えて、このままずっと息を潜めて過ごすつもり?あのね、人生はとっても長いんだよ。それなのに起きてもいない失敗を今から気に病むなんて時間の無駄でしょう?そんなことより、今日一日を楽しく過ごさなきゃ。毎日を充実させて、笑いながら生きていくの。私ね、松原さんと一緒にいられるだけで幸せだよ。一生この感情が続くかは分からないけど、でも、今この時の想いは分かる。ほんと、すごく好き!だからお願い、もう諦めて私のことを受け入れて!」
「マミ…」

 顎に手を当てたまま、営業職を生業にしているこの人が珍しく言葉に詰まっている。私の想いは少しでも通じたのだろうか?はァ、とっても緊張する、まるで処刑台に立たされている気分だ。ゴクリと喉を鳴らすと、それが聞こえたのか松原さんが意地悪く笑う。『威勢よく喋っていたクセに、本当はビビッていたんだな』とでも言いたげな表情だ。

 そう思うんなら、早く答えてよ!
 
「も、もしここで振られても、私は諦めませんからね。だって、自信あるもの。松原さんは絶対に私のことが嫌いじゃないはず。普通は嫌いな女をこんな風に呼び出したりしないでしょう?」
「うん、それよりもさ、マミ…」

 この緊迫した場面で、目の前の人はこう言った。

「ニョロ野って、誰?」

 は?!そこ??
 出たな、狡い大人の常套手段!
 必殺・論点ずらし!!

「本名は蛇野…じゃなくて、えと、クマ!熊野大輝さんです。華ちゃんが過去に恋愛相談をしていた相手で、深夜の長電話にも優しく対応してくれると聞き、私もそれに倣ったワケでして。これが噂に違わぬ素晴らしい対応で、松原さんを想って眠れぬ夜は電話しまくりですわ。それで気を許していたら、実は私のことが好きとか言い出すから、びーっくり」
「へえ、そうなんだ」

 …そして再び沈黙が訪れた。
 
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

女避けの為の婚約なので卒業したら穏やかに婚約破棄される予定です

くじら
恋愛
「俺の…婚約者のフリをしてくれないか」 身分や肩書きだけで何人もの男性に声を掛ける留学生から逃れる為、彼は私に恋人のふりをしてほしいと言う。 期間は卒業まで。 彼のことが気になっていたので快諾したものの、別れの時は近づいて…。

愛されないと吹っ切れたら騎士の旦那様が豹変しました

蜂蜜あやね
恋愛
隣国オデッセアから嫁いできたマリーは次期公爵レオンの妻となる。初夜は真っ暗闇の中で。 そしてその初夜以降レオンはマリーを1年半もの長い間抱くこともしなかった。 どんなに求めても無視され続ける日々についにマリーの糸はプツリと切れる。 離縁するならレオンの方から、私の方からは離縁は絶対にしない。負けたくない! 夫を諦めて吹っ切れた妻と妻のもう一つの姿に惹かれていく夫の遠回り恋愛(結婚)ストーリー ※本作には、性的行為やそれに準ずる描写、ならびに一部に性加害的・非合意的と受け取れる表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。 ※ムーンライトノベルズでも投稿している同一作品です。

届かぬ温もり

HARUKA
恋愛
夫には忘れられない人がいた。それを知りながら、私は彼のそばにいたかった。愛することで自分を捨て、夫の隣にいることを選んだ私。だけど、その恋に答えはなかった。すべてを失いかけた私が選んだのは、彼から離れ、自分自身の人生を取り戻す道だった····· ◆◇◆◇◆◇◆ 読んでくださり感謝いたします。 すべてフィクションです。不快に思われた方は読むのを止めて下さい。 ゆっくり更新していきます。 誤字脱字も見つけ次第直していきます。 よろしくお願いします。

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

悪役令嬢、記憶をなくして辺境でカフェを開きます〜お忍びで通ってくる元婚約者の王子様、私はあなたのことなど知りません〜

咲月ねむと
恋愛
王子の婚約者だった公爵令嬢セレスティーナは、断罪イベントの最中、興奮のあまり階段から転げ落ち、頭を打ってしまう。目覚めた彼女は、なんと「悪役令嬢として生きてきた数年間」の記憶をすっぽりと失い、動物を愛する心優しくおっとりした本来の性格に戻っていた。 もはや王宮に居場所はないと、自ら婚約破棄を申し出て辺境の領地へ。そこで動物たちに異常に好かれる体質を活かし、もふもふの聖獣たちが集まるカフェを開店し、穏やかな日々を送り始める。 一方、セレスティーナの豹変ぶりが気になって仕方ない元婚約者の王子・アルフレッドは、身分を隠してお忍びでカフェを訪れる。別人になったかのような彼女に戸惑いながらも、次第に本当の彼女に惹かれていくが、セレスティーナは彼のことを全く覚えておらず…? ※これはかなり人を選ぶ作品です。 感想欄にもある通り、私自身も再度読み返してみて、皆様のおっしゃる通りもう少しプロットをしっかりしてればと。 それでも大丈夫って方は、ぜひ。

『影の夫人とガラスの花嫁』

柴田はつみ
恋愛
公爵カルロスの後妻として嫁いだシャルロットは、 結婚初日から気づいていた。 夫は優しい。 礼儀正しく、決して冷たくはない。 けれど──どこか遠い。 夜会で向けられる微笑みの奥には、 亡き前妻エリザベラの影が静かに揺れていた。 社交界は囁く。 「公爵さまは、今も前妻を想っているのだわ」 「後妻は所詮、影の夫人よ」 その言葉に胸が痛む。 けれどシャルロットは自分に言い聞かせた。 ──これは政略婚。 愛を求めてはいけない、と。 そんなある日、彼女はカルロスの書斎で “あり得ない手紙”を見つけてしまう。 『愛しいカルロスへ。  私は必ずあなたのもとへ戻るわ。          エリザベラ』 ……前妻は、本当に死んだのだろうか? 噂、沈黙、誤解、そして夫の隠す真実。 揺れ動く心のまま、シャルロットは “ガラスの花嫁”のように繊細にひび割れていく。 しかし、前妻の影が完全に姿を現したとき、 カルロスの静かな愛がようやく溢れ出す。 「影なんて、最初からいない。  見ていたのは……ずっと君だけだった」 消えた指輪、隠された手紙、閉ざされた書庫── すべての謎が解けたとき、 影に怯えていた花嫁は光を手に入れる。 切なく、美しく、そして必ず幸せになる後妻ロマンス。 愛に触れたとき、ガラスは光へと変わる

行き場を失った恋の終わらせ方

当麻月菜
恋愛
「君との婚約を白紙に戻してほしい」  自分の全てだったアイザックから別れを切り出されたエステルは、どうしてもこの恋を終わらすことができなかった。  避け続ける彼を求めて、復縁を願って、あの日聞けなかった答えを得るために、エステルは王城の夜会に出席する。    しかしやっと再会できた、そこには見たくない現実が待っていて……  恋の終わりを見届ける貴族青年と、行き場を失った恋の中をさ迷う令嬢の終わりと始まりの物語。 ※他のサイトにも重複投稿しています。

処理中です...