マミさんは、ときめきたい。

ももくり

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20.マミは愛を感じる

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 ちなみに、このマンションに入るのは初めてだ。

 どうやら不動産関係のクライアントから便宜を図って貰ったらしく、数週間前にいきなり物件を決め、驚きの早さで引っ越したと華ちゃんが言っていた。松原さん本人は勿論、誰からも住所を教えて貰ってはいないが、ある晩、同じ電車に乗っているところを見かけて、こっそりその後を付けたのだ。

 ふむふむ。高給取りだろうに、それほど広くも無く、かと言って狭くも無い1DKの単身者用マンション。たぶん、寝に帰るだけの部屋なのだろうが、ベッドしか置いてないのはいったいどうしてだ。この人、本当にここで住んでいるのか?

「そう言えば俺、お前に住所伝えてたっけ?」
「いいえ、聞いてませんけど」

「は?じゃあどうやって辿り着いたんだ?」
「同じ電車に乗り合わせた際にコッソリ後を付けて確認しておきました」

「え、何それ、怖い。ストーカーじゃん」
「あはは、ご期待にお応えしただけですよ」

 私のマンションと最寄り駅が同じって、そんなの『俺を追跡しろ』と言ってるみたいなモン…って、あれ?そっか、そうだよね。別れるつもりだったら、こんな近くに引っ越して来るとか妙じゃない?しかもこの界隈からウチの会社へ行くには電車だと乗り継ぎが必要だし、その本数も少なくて不便なはず。なのにどうしてこんな物件を選んだワケ?

 考えれば考えるほど謎すぎて、自然と頭が傾く。

「お前ってほんと俺のことが好きだよな」
「はいっ、大好きです!」

 条件反射で即答すると、松原さんが一瞬だけニンマリと笑った。

 その顔を見てハッとする。ああ、そうか。この人、私のことを試しているんだ。何度突き放しても、変わらずにずっと自分を好きだと言い続けてくれるかを。たぶん『信じられない』と言いながらもその裏では、『信じさせて欲しい』と願っているのだろう。

「なあ、早く諦めろよ、俺のことなんて」
「いいえ、諦めませんよ」

 ふふっ、まただ。

 少しだけ嬉しそうに笑ったのを、私は見逃さなかった。まったく、面倒臭い男だな。でも、そういうところが可愛いんだけど。

「おい、どうしていきなり抱き着く?」
「抱き着いてません、抱き締めているんです」

「はあ?どっちでも同じだろ」
「私、やっぱり松原さんが好き過ぎて、他の男性とは付き合えないかもしれない」

 熱い告白は華麗にスルーされてしまったけれど、毎度のことなので然程傷つかない。そんなことよりも、これまでは何を言っても無表情だったこの人が、一瞬とは言え嬉しそうに笑ってくれた。それは素晴らしい進歩ではないか。

「さてと。じゃあ、セックスしよっか」
「まさか呼び出した目的はソレですか?」

「あのな、精子は毎日作られているんだぞ」
「…は?」

 まったくもう、ムード台無し。

「いや、真剣に聞いておけよ。定期的に出さないと、古い精子が新しい精子に悪影響を及ぼして精子DNAとか精子形成を劣化させるのな。そうなると男性不妊とか不能の原因になっちゃうってワケ」
「そ、それは大変ですね」

 もうこんな夢の無い話、止めてくれません?

「な?定期的に出さないと、明るい未来も望めなくなるってこと。そして、どうせ出すなら気持ち良く出したいじゃないか」
「もう、『出す出す』煩いですよ!って言うか、社長令嬢の件は大丈夫なんですか?!私とこんなことしていることがバレたら、色々と厄介でしょうに」

「いいんだよ。社長令嬢は今頃ニート野郎と駆け落ちしてるはずだから」
「か、駆け落ち?」

 そんな面白そうな話、どうして早く教えてくれなかったのか。

「これにてお役御免だ。俺は社長令嬢に振られる惨めなアテ馬という設定だしな」
「うわあ、松原さんがアテ馬だなんて随分と贅沢なキャスティングですねえ」

「ほんと1カ月会えないとか全然平気だと思ってたのに、意外と長く感じたなあ。早くお前の間抜け面が見たくて、ウズウズしちゃったりして」
「あはは、えへへ」

 思わず照れてしまったのは、それって暗に私に会いたくて仕方なかったと言っている様なもので。いや、どう考えてもこの人、私のことが好きだよね?
 
 
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