そんな女のひとりごと

ももくり

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7.彼の本音

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[大松課長side]

女というのは、実に面倒臭い。

いつも『常識』を振りかざすクセに、実際は自分が一番『非常識』なのだ。自分がされてイヤなことを平気で他人にするし、とにかく群れて噂を垂れ流す。男をサンドバッグだと思っているのか、その容姿によって態度のランク分けを行ない、ハゲでデブでチビな中年男性なんぞは生きる価値ナシ的な扱いをしたりする。そのくせ『自分は傷つき易いから優しく扱え』と権利ばかり主張しやがって。

…なーんてな。

心の中では批判しながらも、結局のところ俺は女ナシではいられない。柔らかくてエロくてあの甘ったるい声に、何度騙されたことだろうか。奴らは平気で嘘を吐く。好きでも無いクセして『好き』と囁くし、他にも男がいるクセに『アナタだけよ』と言う。きっと俺の女運は最悪で、このまま一生、騙され続けるのだ。

…そう思っていたのに。

新プロジェクト立ち上げの際、仕事は仕事と割り切りたいから、部署内で一番タイプじゃない女を指名した。そこそこ仕事も出来るし、何より無駄口を叩かない女…それが小嶋紀子で。絶対、恋愛対象にならないと思っていたはずがこの女、徐々に俺の中へ侵食してきたのである。

何よりまず、相手によって態度を変えない。不器用なのか、裏表も無い。だから、いつでもどこでも正直だ。目と目の間は離れているし、どちらかと言うと不細工な部類でまったくタイプじゃないのに。本人もそれを自覚しているらしく、仕事では堂々としているクセに容姿の話題になった途端、自信無さげに俯く。最初は励ますつもりだったのだ。そんなもんより、お前の内面の美しさの方が貴重だし俺は好きだぞ…と。だが何故かそう言えなかった。言うときっと喜ぶだろうと思いつつも、口から出てくるのは意地悪な言葉ばかり。

>残念な顔してるもんな、小嶋は。
>仕事は美人と組まないことにしてんだよ、俺。
>お前、ほんと目ぇ離れてるな。

えっと、ごめん。勝手に口が毒舌モードになっていく。…ある日、久々に会った弟に、そのことを冗談っぽく話したら、こう言われた。

「お兄ィ、それってアレだよ。好きな女のコをついつい虐めちゃうってヤツだ」
「バ、バカ言えッ。俺はなメンクイなんだよ」

必死で抵抗した。違う、そんなワケない。だってこの俺だぞ?なんであんな女に惚れるんだよ。

「向こうが俺に惚れるんなら分かる。その逆は絶対に有り得ないな」

自信満々で答える兄に、喜三郎はこう提案する。

「じゃあさ、そのコを俺が可愛く変身させるよ。それで付き合ってみればイイじゃないか」
「いやいや、ほんと無理だって」

何度断っても、喜三郎は意見を曲げない。最後は『宣伝がてらメイクだけでもさせろ』と、しつこくしつこく言うので仕方なく、そう、本当に仕方なく小嶋を喜三郎の元へと連れて行ったのだ。

さすが我が弟、彼女は別人のように可愛くなり、俺も心底驚いた。しかし、あんなに否定した手前…いや、何と言うか肉親の喜三郎だったからこそ、素直になれなかったのである。

「本当に可愛くなったけど、やっぱ無理だ。だって化粧を落とせば元の小嶋に戻るだろ?」

取り敢えず喜三郎にはそう言っておいて、陰でコッソリ小嶋と…などと企んでいたのに。弟は予想外なことを話し出す。

「やっぱり内面から輝いて欲しいからね。恋愛するよう伝えてみるよ。残念ながらお兄ィは無理みたいだからさ、他を当たらせないと」

いやいやいや、そんな気配り無用だし。でもまあ小嶋に彼氏なんか出来るワケが…。などと高を括っていた自分を殴りたい。ある晩、呑気に家で飲んでいると喜三郎から電話が有り。

「キコちゃんに彼氏が出来たんだってさッ。お兄ィ、褒めてあげなよね」
「……」

アイツの良さが分かるのは、俺だけのはずで。これからじっくりと俺の方に向かせるはずで。なんだこの展開ッ?!あまりの腹立たしさにフテ寝して、俺は喜三郎からの電話を暫く無視するのだ。
 
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