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9.彼の本音3
[もいっちょ大松課長side]
真実は、ひとつ。
そう俺のケガに関して言えば、小嶋は悪くない。勝手に俺が落ちて、勝手に手首を痛めただけだ。…だが許せ。お前に記憶が無いことを知りながら、嘘を吐く。
「昨日の店、2Fに有っただろ?階段を降りようとしたらお前『飛んだ方が早い』とか言って、一番上からジャンプしたんだよ」
「ジャンプー」
「語尾を伸ばすな、正確には『ジャンプ』だ」
「は、はいっ。『ジャンプ』」
小嶋、これは俺たちの将来のために必要な嘘だ。職場での事務的な会話では進展は難しいだろ?だから仕方ないんだ。
「それを助けようとした俺が下敷きになって、不幸中の幸いというか、こうして手首を痛めただけで済んだというワケだ。で、全治1カ月な」
こう言っておけば、きっと小嶋は俺の面倒を見ると言い出すはずだ。来い、来い、来い、カモン!!
「諸悪の根源はこの小嶋紀子ですから、すべて私がお世話を致しますッ!!」
…ふうッ、第一関門突破というところか。
「そんじゃ一旦戻って荷物をまとめてきます。1カ月間、お世話になりま…じゃなかった、お世話させていただきますねっ」
そう言って神妙な面持ちで小嶋は出て行き、1人になってから激しい罪悪感に襲われる。いったい何をしているんだ俺は?好きだと言えば済む話で。今まで虐めて悪かったと謝れば済むはずだ。
メンツやプライドがそんなに大切か?!
メンツやプライドでお腹が膨れるのか?!
…ああ、そうさ、何よりも大切だよッ。
俺には譲れないものが1つだけ有る。それが男としてのプライドだ。例えば敵軍に掴まり、命乞いすれば助けてやると言われても、俺はきっと死を選ぶだろう。仕事はもちろん、恋愛に於いても俺は小嶋より上でなければ。絶対君主の如く全てを統治し、思い通りに動かさなければいけないんだ。
だから頼む、お前の方から好きと言ってくれ。
「ただいま戻りました。課長、改めて本日から宜しくお願い致します」
「ああ、こちらこそ宜しく頼んだぞ」
お互い1人暮らしに慣れていたはずなのに、小嶋は恐ろしいほど我が家に馴染み。存在を主張するでもなく、ただ黙々と家事をこなす。神経質な俺に叱られても、メゲずに換気扇を掃除したり、窓を拭いたり。勝手に家事を見つけて動き回っている。…不思議なことに。一緒にいればいるほど、どんどん可愛く思えてきて。化粧なんかしなくても、超絶可愛いし。たぶんブス界ではナンバーワンの美人だし。
「大松課長、頬っぺたにご飯粒ついてますよお。取りますね。ひょい、ぱくっ」
「え、おい、そ、そんなの食べるなって」
こんなベタなことされて、心臓鷲掴みにされてる俺って何なの??
あー、もう無理。
あー、もう限界。
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