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タイトロープ
しおりを挟む『我慢出来ない』というのはつまり、性的衝動を抑えられないということか。
いや、だってこの人そっち方面は本当にユルユルだから。親友の妹で、しかもこの先ずっと顔を合わせていくと分かっているのに、それでもムラムラが勝ってしまうって…。まったく、モラルもクソもあったもんじゃない。ほら、あれだ、日頃からセックスに慣れ親しんでいるせいで抵抗が無いのかもしれない。
例えるならば注射は痛くて怖いけど、毎日射っていたら痛くも怖くも無くなるという感じか。とにかくこの状況をどうにかしなければ。だって、好きは好きだけど体だけの関係なんて虚しいだけに決まってる。
「あの…さ、ダメだよ壮ちゃん、…こういうことしちゃ」
「えっ?!」
両腕を伸ばしてどうにか体を離すと、すぐ二の腕を掴まれて再びその胸の中へ引き戻されてしまう。
「何よ、何でそんな意外そうな顔をするの?」
「あ…うん」
私の瞳の奥を探るように見つめたかと思うと、今度は何故か目を細めて笑われた。
「なんで?どうして笑うのよォ」
「あの…さ、アッちゃん。俺もバカじゃないし、そんな顔されたら嫌でも分かっちゃうんだけど」
耳の奥に心臓が有るのかと思うくらいドクンドクンと煩いが、それを悟られぬ様にと必死で平気なフリをする。
「分かっちゃうって、何が?」
「もしかして自分で気付いてないのかな?いや、そんなはずないよね?」
パチクリと瞬きを繰り返す私を、壮ちゃんはただ愉快そうに見つめながら言葉を続ける。
「はああ、もう。本当にアッちゃんは素直じゃないんだから」
「だから、何が??」
あのう、この会話が終わる気がしないんですけど。
んっ、もしかして好きってことがバレたのかな?それで『じゃあ1回くらい味見してやるよ』的な気持ちになったとか?それとも『面倒くせえな、抱いてやるからそれでもう諦めろよ』を優しくオブラートに包んで言っているのかもしれない。
って、どっち?
いや、どっちにしても望みは無いんだけどさ。
「俺は、えっと、…いいよ」
「えっ、いいの?!」
喜んでどうする、私。
確かに体だけの関係なんて虚しい。だけどこれを逃すと一生抱いて貰えないと思うんだな。ああ、どうしよう、この誘惑に抗えない。目の前で優しく微笑む壮ちゃんが、一晩だけでも私のモノになるんだよ?基本この人は特定の女性と何度も寝たりしないから、本当にワンチャンスだ。
「うん、だってアッちゃんのこと好きだし」
「私も壮ちゃんのことが…」
その先を言い淀んだのは『俺を好きな女なんて、気持ち悪い』というこの人の口癖を思い出したからだ。…うん、でもまあいいか。この場限りの戯言だと思えば。だって私は知っているのだ、壮ちゃんが誰にでも『好き』を大安売りしていることを。
「壮ちゃんが、好きだよ」
どうか口先だけで軽く言っているように見えますように。軽く見せておいて、本当はズッシリ重いと知られたらきっと壮ちゃんは怖がって逃げてしまうから。
「ほんと?!本当に俺のこと、好き?!」
だから私もアナタと同様に『誰にでも言っているんですよ』という顔をして、もう一度その言葉を繰り返した。
「うん、もちろん大好き」
きっと壮ちゃんはこう思っているだろう。──初めて付き合った男と別れたばかりで、しかも兄と親友の睦言を耳にしたことにより欲情したとどうしても認めたく無くて。全てを正当化するために本当の恋愛であるかのように見せかけているのだ…と。だったらソレに乗ってやろう…と。
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