裏切られ、地味女になっていた私ですが、再び美人に戻って恋愛することにしました。

ももくり

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 何度も言うように、YMシステムサポートのデジタルコンテンツ部は独身男性の宝庫だった。1カ月前まで常駐していた会社はそこそこ大手だったが、その殆どが既婚者で。稀にいる若くて素敵な男性社員はエリート意識が高く鼻もちならない人ばかりだったのに、こちらの会社の男性社員は腰が低くて大半が独身な上に彼女すらいない。

 …そう、選び放題なのである。

 既に30歳の私でも、これなら楽勝だ。いつでも本気さえ出せば美人な私に戻れるが、そこを敢えて仮の姿のままで観察してみることにする。こんな地味な女にも興味を持ってくれる男こそが、真の意味での“良い男”だと考えたからだ。脳内で作成した候補者リストは毎日更新されていく。男性社員は全部で15人。そのうちの3人は既婚者なので除外。更に彼女持ちの2人も除外、残るは8人。

 私と同時に採用された中島さんが加わるまでは唯一の女性社員だった堤さんから有力な情報を貰い、更に1人、2人と除外していくと残ったのは4人だけ。その中に含まれていたのが、私の教育係でもあり、隣席で観察し放題の清水さんだったというワケだ。最初は可もなく不可もなくといった印象の人物だったが、これがいつも一緒にいるとなかなかの利点だということに気付く。この人ならきっと全てを受け入れてくれるはずだと信じた私は、本日、残業後の清水さんを食事に誘ったのである。

「ウーロン茶」
「俺はいつもので」

「それじゃあ、私も吉川さんと同じものを」
「清水さん『いつもの』ってビールですよね。すみません、じゃあビール2つ、ウーロン茶を2つお願いします」

 計算外だったのは、何故かこの場に中島さんとその教育係である須賀さんまでついて来たことであろうか。突き出しである胡瓜とイカの酢の物を食べながら須賀さんが斜め前の席でボソリと呟く。

「そういや、先ほど清水さんが発した『意味が分からない』という言葉の真意は何ですか?」

 それに対して彼は困ったように説明する。

「俺を選んだ意味が分からないということだ。あまり俺はそういう“偽の彼氏役”には向いていないと思うんだよな。その、自慢じゃないが今まで恋愛経験ゼロなんでね」
「お!…うっ…」

 おかしな相槌を打ってしまったのは、そうかもしれないと予想していたクセに、実際そうだと分かってどう答えればいいのか困ってしまったからである。えっと…、31歳で恋愛経験ナシって…。もしかして魔法使い…なの?(※30歳まで童貞だと魔法使いになれるという俗説が有ります)シーンと場が静まり返ったのは、多分ココにいる全員が同じことを考えたからだろう。なんだか申し訳ない気持ちで一杯になり、皆んなの関心を自分に集めようという目論見で、私は清水さんを口説き始めた。

「でも、あのっ、清水さんのような誠実な方でしたらきっと直也も納得すると思うんです。理想の彼氏像に近いというか、迷惑で無ければぜひ彼氏役をお願いした…」
「ごめん」

 断るの早ッ!

「…いのですが」
「してあげたいという気持ちはあるんだけど、正直、自信が無いんだ。先程も話したように俺は恋愛経験値ゼロで、そんな彼氏役なんか出来るような器じゃないし、実際彼氏になったことが無いのにソレを演じさせるなんて無茶だよ。例えばさ、吉川さんは医者になったことも無いのに医者の役を演じてみてくださいって頼まれたらどうする?断るよね??」

「断ると思います…でも、それとこれは別…」
「別じゃないんだ!俺の中ではイコールなんだよ。キミみたいに高校時代から7年も交際していたとか、龍…あ、須賀のことね。龍みたいに経験豊富だったりとか、そういう恋愛慣れした人間には理解出来ないかもしれないけど、でも俺には彼氏を演じるほどの素養が無いんだ。そんな俺に7年間も彼氏だった男の前でNEW彼氏の役を演じさせるとかハードル高過ぎない?なあ、龍!って、あッ!龍でいいじゃないか!龍に頼もうよ」

 これが呆気なく快諾され、須賀さんが私と期間限定で付き合ってくれることになったのだ。



 ………………
「おはようございます」
「ああ、おはよ~吉川さ…んんんッ?!」

「おはようございます」
「えっ、嘘、声は吉川だけど本当に吉川?!」

 グッドモーニング、エブリバディと纏めて挨拶してしまいたい気持ちを抑え、1人ずつ質問に答える私。くっそ、面倒臭いな。昔、宴席で言っておいただろう?私は化粧してそれなりの格好をすれば美人になるんだと。目出度く須賀さんとの交際(仮)をスタートしたので、リハビリを兼ねて姿形を整えてみたのだが案の定、話題の的となってしまった。しかし、その反応は様々だ。私に直接質問してくる人、それが出来ずに他の誰かとコソコソと話してみるだけの人、何故か隣席の清水さんは見て見ぬフリをしているし、隣りの隣りの席の堤さんに於いてはいきなり私の顔を上下からガシッと掴んで凝視している。

「整形…じゃないわね、メスは入れてないのにこの仕上り。まあ、なんということでしょう」
「って、某リフォーム番組のナレーションみたいでとっても懐かしいですよ、堤さんッ」

 額と顎にそれぞれ置かれていた手は、徐々に移動したかと思うと、最終的には頬を指圧の要領でリズミカルに押し始めた。ぽむぽむ、ぽむぽむ。何してんだろ、この人、なんか怖い。助けを求めて周囲を見渡すが、誰もが気付かないフリをし続けている。

「あどけない少女のように透明感を漂わせつつも妖艶な色香を放つ瞳。そして、薄い上唇とは対照的にプックリとした下唇。頬は愛らしく色付いているのに、ツンと気品漂うその鼻とのアンバランスさが本当に絶妙で、よくぞ今まで隠してこれましたね、これほどの女っぷりをッ。残念だけど譲りましょう、吉川さんに!ミス・デジタルコンテンツ部の座は貴女に譲るわッ」

 ええい、長い、長過ぎるわッ。ただでさえ目立ってたのにもっと目立ったじゃないですかッ。…でもまあ確かに、周囲の反応は大きく変化したかもしれない。そう、外見を体裁よく整えても中身はいつもの吉川桂のままだというのに。周囲の男性たちの態度は180度変わってしまった。なんだか壊れやすいガラス細工のような扱いである。

「や、やっぱり吉川さんの淹れてくれるお茶は最高に美味しいなあ!あはは」
「はあ、どうも有難うございます」

 いや、だって田島さん、今までそんなこと一度も言ってくれたこと無かったですよね??

「え?その資料なら悪いけど堤に訊いてくれ」
「あの~、どうかしましたか?だって今日、一度も私の目を見て話してくれてませんよ」

 って、清水さんは急に余所余所しくなるしッ。ソワソワとこちらを覗いてくる多くの視線に、気付かない振りをしつつひたすら画面を睨む。

「おはようございます、吉川さん」
「おはようございます」

 聞き慣れた声に振り返るとそこには、須賀さんがかなりの至近距離で立っていて。そして私の耳元に唇を近づけ小声で話し掛けてきた。

「…おはよう、今晩って予定空いてますか?」
「空いてますよ」

「じゃあ、お互いの親交を深めるために食事へ行きましょうよ。取り敢えず吉川さんに関する知識がゼロの状態で元カレに会うのは厳しいと思うし。俺、適当に店を予約しておきますね」
「はい、分かりました。宜しくお願いします」

 おぬし、なかなかヤルな!…と思ったのは、他の男性社員と違って、この美モードの私にも臆する様子もなく、堂々と話しかけてくれたからで。しかも食事する店を適当に予約までしておいてくれるとは、何と頼れる男であろうか。ここで私は、シミジミと清水さんが辞退してくれたことを感謝する。だってっ、この姿になってから、目すら合わせてくれないんだよ?こんなの絶対に彼氏役なんて無理だったよね?!

「あのう…、清水さん。ここまで完成したのでチェックして貰っても良いですか?」
「あー、うん。ごめんね吉川さん」

 相変わらず私の方を見ずに、しかも息継ぎもしないままで清水さんは一気に話し始める。

「もう気付いていると思うけど、綺麗になった吉川さんをまともに見れずに困ってる。多分、数日もすれば慣れると思うから暫くの間だけ容赦して貰えないだろうか?それにしても本当に女性というのは化けるね。そんなキラキラした感じになっちゃうんだな。それなら全然龍と並んでも遜色無いし、むしろ俺じゃなくて良かったと胸を撫で下ろしているところだよ」
「あのう…、でも、変わったのは外見だけで、中身は変わってないので安心してください」

 なんだかふと不思議な感情が沸き上がる。何というかコレは…、そう、コレは母性本能のようなモノではなかろうか?31歳にもなって誰とも付き合ったことが無くて、しかもちょっと綺麗になった私と視線も合わせられないって、大丈夫なのか、この人。こんな感じでいたら、一生童貞のままだよ?ここで出会ったのも何かの縁だろうし、私で良ければリ徐々に女性と触れ合えるようにしてあげようではないか!!

「あの…、清水さん」
「うん、なんだい?」

ゴクリ、と喉を鳴らして私は言う。

「その、やっぱり私の彼氏役、やって頂けませんか?不慣れでもいいんです、だったら慣れるように一緒にいる時間を増やせばいいと思うんですけど…」
「えっ?なんで??」

「なんか、清水さんの方がシックリ来るので。そういうイケてないところがツボっていうか、母性本能がギュンギュンするんです。今の私には経験豊富な男性より純粋な男性の方が魅力的に見えると言うか私なんかじゃダメですか?」

 
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