裏切られ、地味女になっていた私ですが、再び美人に戻って恋愛することにしました。

ももくり

文字の大きさ
3 / 14

D界のプリンス

しおりを挟む
 
 
 首を動かさずに視線だけこっちに向けるとか、器用過ぎるんですけど清水さん。

「吉川さんはなんてチャレンジャーなんだ!!お、俺だよ?きっと一緒にいても面白く無いだろうし、男女…いや、恋愛の一般常識に関する知識は皆無だと知っていながらその面倒を覚悟の上でこのクソ面白くも無い童貞男と付き合おうと思うということなのだろうか?あ、仮か、仮だから人助け感覚でレッスンしてやろうという考えでいらっしゃるってことなのかい?」
 
 …た、確かに言い回しまで面倒臭いな。仕事面では簡潔でとても要領を得たレスポンスを返してくれる人なのに、どうして恋愛要素が絡むとこうなってしまうのか。『そんなだから貴方は童貞なんですよ』と上から目線で言ってしまいたくなるが、それをやってはお終いだ。大丈夫、長期戦で頑張るぞ!!落ち着け、私ッ。
 
「とにかく清水さんがいいんです。男性が気になるなんてほんと久々だし、こればかりは本能がそうさせているので自分でもどうにも出来ないというか。取り敢えずは仮でいきますけど、将来的にはそうじゃなくなるかもしれません。男女の恋愛なんて計画してどうこうなるモノでも無いですからね。とにかく、須賀さんにはそう言って今回は断って来ます。大丈夫、誰だって最初は不慣れなんですから一緒に頑張りましょう」
 
 なんだか保育士さんになったような気分だ。
 
「龍を断って俺を選ぶとか、絶対に後悔すると思うんだが、どうかその時は恨まないでくれ」
「恨みませんよ。でも、清水さんにとって何もかも私が初めてだと考えると、少し萌えます」
 
 訂正、保育士じゃなく男子高校生に色目を使う熟女の気分です。…もうあと5分ほどで朝礼が始まるため、慌てて須賀さんの元へと走って事情を説明する。すると彼は予想外の提案をしてくるのだ。
 
「ふうん、そっか。あ、でもさ、多分いきなり2人きりで会うとなると清水さんも厳しいと思うから、最初だけでも俺と3人で会うといいんじゃないかな?んで、慣れた頃に俺が外れてあげることにしよう。というワケで今晩の食事も予約を3人に変更しておくからヨロシク!」
「それもそうか。頭いいですね、須賀さん」
 
 一旦、纏まり掛けた話に『待った』の声が乱入してくる。それは勿論、須賀さんの隣席にいた中島さんで。彼女いわく『3人だけで食事するなんてズルイ』と。それじゃあ、色々と事情も知っていることだし、加えてあげようという話になって、なんだかんだで我らは4人で常に行動することになってしまう。
 
 畜生、邪魔だ。4人もいたら一向にLOVEい感じになれないではないか!!ただでさえ内気で私に心を開いてくれない清水D(※童貞の頭文字です)が、4人もいると私以外の2人としか会話をしなくなってしまうんだよッ。
 
 
 
 …そして2カ月後。意を決した私は飲み会の後、他の2人を撒いてタクシーに清水Dを強引に押し込み、自分もその隣りに乗り込んだ。ホロ酔いだったはずの彼は一気に酔いが醒めたらしく、狭い車内でよくこれほど距離を開けられるよね…と感心するくらい身をドアに寄せて寝たフリをしている。可愛いヤツめ。フリなのはもう分かっているんだ!さあ、大人しく私にお持ち帰りされろ!!

 暫くして目的地に到着したことを運転手に告げられると、清水さんは驚くほどヘタクソな演技で目を覚ます。

「ふああ、よく寝てしまったようだなあ。って…ええっ、ここはいったい何処なんだ?!」
「私の家です、早く中に入ってください」

「い、家って、だって吉川さんは父親と2人暮らしなんじゃないのかい?」
「言ってませんでしたっけ?ウチの父は目出度く新潟支店の支店長に就任しました」

「いつから?!」
「本当は来月からなのですが、住居などを整えるため既に引越し済みでして。長い間ずっと転勤は無いと聞いておりましたが、前任者が大病を患ったとかで急に打診されたらしく…」

 とか言いながら、入るのを嫌がる清水さんの右手首を掴んで引っ張る私。

「いや、女性が1人で暮らす家へこんな深夜にお邪魔するなんて非常識だから遠慮するよッ」
「いえ、こんな道っぱたでワイワイ騒いでいる方がご近所迷惑で非常識だと思いますけどッ」

 そう言うと途端に抵抗を止め、悲し気に家へと入って行くその姿は、まるでドナドナの歌詞に登場する牛のようだ。

「お邪魔します」
「はい、ようこそいらっしゃいませ」

 何も取って食おうというワケではないのに、そこまで怯えなくても…。
 
 この後、童貞界のプリンス・清水明人シミズ アキトは皆んなの期待を一身に背負ったせいか、驚くべき行動に出るのだ。

 まずは経緯を説明させて貰おう。

 清水さんは家に入るなりキョドキョドし、すぐ帰りたそうな顔をしていたが、そんな彼に私は父が帰ってきた時のために残しておいた部屋着をそっと渡した。だって先日、日向の面倒を見に行ったら固定電話に直也の母親から電話が掛かって来て。絶対に私と日向しかいないと知ってて掛けて来たクセに、しらじらしく偶然を装った挙句ネチネチと『そろそろお相手は見つかったのかしら』とかなんとか催促されたんだものッ。私、小さい頃から擁護してくれる母親がいなかったせいか、オバさんという生き物が本当に苦手で。あの人たちは、私みたいな弱っちい小娘を標的にしてスグ威圧してくるから。

 ハイハイと適当に相槌は打っておいたが、とにかく早くこの状況を打破したい。となると一番の近道は清水さんとの距離を縮めることで。しかし、このまま4人で仲良しこよしでいたら進展しないことは目に見えているため、とにかく2人きりでの会話量を増やしたかった。だからこその我が家なのである。どこぞのバーや居酒屋でお喋りしても、本音は引き出せないに決まっている。周囲の目を気にせず解放的な雰囲気で話すには、少し恥ずかしいけれども己のテリトリーに招き入れることで実現するのではなかろうか。

 ところがなかなかそのチャンスが訪れない。何故なら4人で飲み会をすると、そのあと必ず中島さんが私と一緒にいたがるからだ。駅ナカのカフェなんかで緩~い女子トークをしたがるのだ。ところが今日は、飲み会をした店を出た途端、中島さんのスマホに電話が掛かって来たので、彼女が話し込んでいるその隙に清水さんの腕を掴んで彼をタクシーにブッ込み。そして逃げるように我が家へ辿り着いたのだ。千載一遇のチャンスを逃してなるものか…そう決心した私は夜通し喋るつもりだった。だって明日は土曜で珍しく休日出勤も無いし、時間に余裕が有る方が伸び伸びと話せるではないか。

「どうぞ遠慮なく泊まっていってくださいね」
「えっ…」

「じゃあ、私、先にお風呂へ行きますから」
「あっ…」

 ん?もしかして先に入りたかったのかな。でもごめんなさい、軽く浴室を掃除したいので…。そういう謝罪の意味を込めてチラチラと見たのだが、どうやら清水さんはその視線を違う意味で受け取ってしまったらしい。スッポンポンになって浴室の床を豪快にブラシで擦り、鏡も磨いて『フウッ』と一呼吸ついたその時…思わず私は固まった。

 なぜか鏡にもう1人の裸体が映っていたからだ。そう、明らかに女性とは異なるガッシリとした筋肉質な裸体が。

「はうあっ?!」
「遅くなってゴメン。なかなか勇気出なくて」

そこにいたのは勿論、清水さんである。

 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

婚約破棄歴八年、すっかり飲んだくれになった私をシスコン義弟が宰相に成り上がって迎えにきた

鳥羽ミワ
恋愛
ロゼ=ローラン、二十四歳。十六歳の頃に最初の婚約が破棄されて以来、数えるのも馬鹿馬鹿しいくらいの婚約破棄を経験している。 幸い両親であるローラン伯爵夫妻はありあまる愛情でロゼを受け入れてくれているし、お酒はおいしいけれど、このままではかわいい義弟のエドガーの婚姻に支障が出てしまうかもしれない。彼はもう二十を過ぎているのに、いまだ縁談のひとつも来ていないのだ。 焦ったロゼはどこでもいいから嫁ごうとするものの、行く先々にエドガーが現れる。 このままでは義弟が姉離れできないと強い危機感を覚えるロゼに、男として迫るエドガー。気づかないロゼ。構わず迫るエドガー。 エドガーはありとあらゆるギリギリ世間の許容範囲(の外)の方法で外堀を埋めていく。 「パーティーのパートナーは俺だけだよ。俺以外の男の手を取るなんて許さない」 「お茶会に行くんだったら、ロゼはこのドレスを着てね。古いのは全部処分しておいたから」 「アクセサリー選びは任せて。俺の瞳の色だけで綺麗に飾ってあげるし、もちろん俺のネクタイもロゼの瞳の色だよ」 ちょっと抜けてる真面目酒カス令嬢が、シスコン義弟に溺愛される話。 ※この話はカクヨム様、アルファポリス様、エブリスタ様にも掲載されています。 ※レーティングをつけるほどではないと判断しましたが、作中性的ないやがらせ、暴行の描写、ないしはそれらを想起させる描写があります。

地味な私を捨てた元婚約者にざまぁ返し!私の才能に惚れたハイスペ社長にスカウトされ溺愛されてます

久遠翠
恋愛
「君は、可愛げがない。いつも数字しか見ていないじゃないか」 大手商社に勤める地味なOL・相沢美月は、エリートの婚約者・高遠彰から突然婚約破棄を告げられる。 彼の心変わりと社内での孤立に傷つき、退職を選んだ美月。 しかし、彼らは知らなかった。彼女には、IT業界で“K”という名で知られる伝説的なデータアナリストという、もう一つの顔があったことを。 失意の中、足を運んだ交流会で美月が出会ったのは、急成長中のIT企業「ホライゾン・テクノロジーズ」の若き社長・一条蓮。 彼女が何気なく口にした市場分析の鋭さに衝撃を受けた蓮は、すぐさま彼女を破格の条件でスカウトする。 「君のその目で、俺と未来を見てほしい」──。 蓮の情熱に心を動かされ、新たな一歩を踏み出した美月は、その才能を遺憾なく発揮していく。 地味なOLから、誰もが注目するキャリアウーマンへ。 そして、仕事のパートナーである蓮の、真っ直ぐで誠実な愛情に、凍てついていた心は次第に溶かされていく。 これは、才能というガラスの靴を見出された、一人の女性のシンデレラストーリー。 数字の奥に隠された真実を見抜く彼女が、本当の愛と幸せを掴むまでの、最高にドラマチックな逆転ラブストーリー。

【完結】離婚を切り出したら私に不干渉だったはずの夫が激甘に豹変しました

雨宮羽那
恋愛
 結婚して5年。リディアは悩んでいた。  夫のレナードが仕事で忙しく、夫婦らしいことが何一つないことに。  ある日「私、離婚しようと思うの」と義妹に相談すると、とある薬を渡される。  どうやらそれは、『ちょーっとだけ本音がでちゃう薬』のよう。  そうしてやってきた離婚の話を告げる場で、リディアはつい好奇心に負けて、夫へ薬を飲ませてしまう。  すると、あら不思議。  いつもは浮ついた言葉なんて口にしない夫が、とんでもなく甘い言葉を口にしはじめたのだ。 「どうか離婚だなんて言わないでください。私のスイートハニーは君だけなんです」 (誰ですかあなた) ◇◇◇◇ ※全3話。 ※コメディ重視のお話です。深く考えちゃダメです!少しでも笑っていただけますと幸いです(*_ _))*゜

仕事で疲れて会えないと、恋人に距離を置かれましたが、彼の上司に溺愛されているので幸せです!

ぽんちゃん
恋愛
 ――仕事で疲れて会えない。  十年付き合ってきた恋人を支えてきたけど、いつも後回しにされる日々。  記念日すら仕事を優先する彼に、十分だけでいいから会いたいとお願いすると、『距離を置こう』と言われてしまう。  そして、思い出の高級レストランで、予約した席に座る恋人が、他の女性と食事をしているところを目撃してしまい――!?

折角転生したのに、婚約者が好きすぎて困ります!

たぬきち25番
恋愛
ある日私は乙女ゲームのヒロインのライバル令嬢キャメロンとして転生していた。 なんと私は最推しのディラン王子の婚約者として転生したのだ!! 幸せすぎる~~~♡ たとえ振られる運命だとしてもディラン様の笑顔のためにライバル令嬢頑張ります!! ※主人公は婚約者が好きすぎる残念女子です。 ※気分転換に笑って頂けたら嬉しく思います。 短めのお話なので毎日更新 ※糖度高めなので胸やけにご注意下さい。 ※少しだけ塩分も含まれる箇所がございます。 《大変イチャイチャラブラブしてます!! 激甘、溺愛です!! お気を付け下さい!!》 ※他サイト様にも公開始めました!

兄みたいな騎士団長の愛が実は重すぎでした

鳥花風星
恋愛
代々騎士団寮の寮母を務める家に生まれたレティシアは、若くして騎士団の一つである「群青の騎士団」の寮母になり、 幼少の頃から仲の良い騎士団長のアスールは、そんなレティシアを陰からずっと見守っていた。レティシアにとってアスールは兄のような存在だが、次第に兄としてだけではない思いを持ちはじめてしまう。 アスールにとってもレティシアは妹のような存在というだけではないようで……。兄としてしか思われていないと思っているアスールはレティシアへの思いを拗らせながらどんどん膨らませていく。 すれ違う恋心、アスールとライバルの心理戦。拗らせ溺愛が激しい、じれじれだけどハッピーエンドです。 ☆他投稿サイトにも掲載しています。 ☆番外編はアスールの同僚ノアールがメインの話になっています。

図書館でうたた寝してたらいつの間にか王子と結婚することになりました

鳥花風星
恋愛
限られた人間しか入ることのできない王立図書館中枢部で司書として働く公爵令嬢ベル・シュパルツがお気に入りの場所で昼寝をしていると、目の前に見知らぬ男性がいた。 素性のわからないその男性は、たびたびベルの元を訪れてベルとたわいもない話をしていく。本を貸したりお茶を飲んだり、ありきたりな日々を何度か共に過ごしていたとある日、その男性から期間限定の婚約者になってほしいと懇願される。 とりあえず婚約を受けてはみたものの、その相手は実はこの国の第二王子、アーロンだった。 「俺は欲しいと思ったら何としてでも絶対に手に入れる人間なんだ」

『出来損ない』と言われた私は姉や両親から見下されますが、あやかしに求婚されました

宵原リク
恋愛
カクヨムでも読めます。 完結まで毎日投稿します!20時50分更新 ーーーーーー 椿は、八代家で生まれた。八代家は、代々あやかしを従えるで有名な一族だった。 その一族の次女として生まれた椿は、あやかしをうまく従えることができなかった。 私の才能の無さに、両親や家族からは『出来損ない』と言われてしまう始末。 ある日、八代家は有名な家柄が招待されている舞踏会に誘われた。 それに椿も同行したが、両親からきつく「目立つな」と言いつけられた。 椿は目立たないように、会場の端の椅子にポツリと座り込んでいると辺りが騒然としていた。 そこには、あやかしがいた。しかも、かなり強力なあやかしが。 それを見て、みんな動きが止まっていた。そのあやかしは、あたりをキョロキョロと見ながら私の方に近づいてきて…… 「私、政宗と申します」と私の前で一礼をしながら名を名乗ったのだった。

処理中です...