裏切られ、地味女になっていた私ですが、再び美人に戻って恋愛することにしました。

ももくり

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Dとの攻防

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「バ…」

『バカじゃない?!なに入ってきてんのよッ』と叫びそうになり慌てて自分の手で口を塞ぐ。

 堪えろ、私!
 これは非常にデリケートな問題なのだ。

 例えるなら、今まさに戦争が勃発しそうな2つの国が有るとする。一方は先進国で、もう一方は発展途上国だ。発展途上国の方はあらゆる面で未熟なクセに何故か自信満々で、非常に好戦的なのである。これを適当にあしらうと、外交問題にまで発展するだろうし、かと言ってこのまま戦うと無駄に負傷者を出してしまう。では、どうすれば良いのか?考えろ、考えるんだ私!

「へぶしゅ!」

 どうやら寒かったらしく、清水さんがクシャミをした。習慣というのは恐ろしいもので、両手で口元をおさえると先程まで隠していた股間が丸見え状態となる。

 こんにちは。

 清水さんの清水さんが挨拶してくれた。それも『なかなか勇気出なくて』という控え目な言葉とは真逆な元気っぷりである。まったく、これだからD(※童貞の略)は…。31年間も未経験のまま我慢出来ていたクセに『ヤレるかも!』と期待した途端、1分1秒でも早くお願いしますという感じなのであろう。

「まあ、落ち着いてくださいよ」
「えっ?あ…うん」

 残念ながら浴槽のお湯はまだ半分ほどしか溜まっていなかったが、風邪を引かれるよりはマシかと思い、手招きして清水さんを椅子に座らせて体を洗うように指示した。ほどなくして洗い終えた彼は、そのまま浴槽に浸かっている。

「あは。こういうのってお互いを洗い合ったりするのかと思ってたよ。いや、むしろ自分で洗う方が…ふぎっ」

 続いて私が椅子に座り、体を洗おうとする姿を浴槽から凝視していたため、無言で顔を反対側に向けてやった。

「えっ?見ちゃダメなの?なんで??」
「『鶴の恩返し』みたいなモノですよ。女が体を洗う姿を見るのはルール違反なんですっ」

「ほんと?!俺、初めて聞いたなあ」
「本当です、世間の一般常識なので覚えておいてくださいね」

 って、んなわけない。

 しかし純粋な清水少年は素直に明後日の方向へ視線を固定させたまま、照れ隠しなのか喋り続けている。

「うわあ、なんかすごくドキドキする。すぐ傍で女性が体を洗ってるとかさ、見えない方がむしろ想像を掻き立てられちゃうね!あ、それと俺、下着の替えを持って来てないんだけど…。ん?そっかそっか、裸のままでいいのか!!その間に洗って干しておけばいいんだよね?!吉川さん、お風呂を出たら下着だけ手洗いしてもいいかな?俺、こう見えて結構キレイ好きでさあ、2日続けて同じ下着はイヤなんだよ」
「…え…っと、はい、どうぞ」

 やっぱりヤル気なんだ…。

 しかもウッキウキのノリノリなんですけど。しかもしかも入浴後に下着を手洗いするって、そんな反則技も使っちゃうんだ?いや、ダメだそこまで間抜けな姿を見せられて堪るものか!

「清水さん、洗濯機に放り込んでくれれば、タイマー設定で朝までに乾燥させておきます」
「ほんと?!有難う、吉川さん」

 そんなことを話している間に、私は体を洗い終えてしまい。この後ノープランだったことに気付く。清水さんを浴槽から追い出して、先に寝室に行かせる…のも変だよね。と、いうことは?仕方なく、そう、仕方なく浴槽に入ってみた。その途端、饒舌だった清水さんがゴクリと喉を鳴らしていきなり黙り込み。それからアアッ!と叫んだかと思うと突然…

 鼻血を出した。





「ごべんね、吉川はん。浴槽のお湯を血まびれにひちゃって」
「いいんですよ、気にしないでください」

 …そんなワケでソファに横たわる清水さんを、パタパタと団扇で仰いでいる最中の私である。色々な意味で逆上せたらしいこの男は、替えの下着が無いためバスタオルを1枚だけ巻いており、鼻の穴にはガツンとティッシュが詰められている。対する私も、慌てて浴室から出てきたせいで、余所行きの部屋着なんぞ引っ張り出す余裕が無く、いつもの着古したトレーナーだ。

 分かり易くショゲているその姿はもう、愉快としか言い様が無い。なんだよこの人、ほんとに面白いな。あれほど我が家に入ることを嫌がっていたクセに、裸の私がいる浴室には自ら飛び込んで来るんだよ?その挙句に鼻血って…。まるで某お笑い芸人の『押すなよ、押すなよ』『って、あー!押したなあ』っていうお約束のネタみたいじゃない?堪え切れずに笑みを零したところ、それに気づいた清水さんが両手で自分の顔を隠した。

「あー、恥ずかしいなあ。どうして他の男たちみたいにカッコ良く出来ないんだろう?」

 だから私は団扇で扇いでいた手を止め、そっと清水さんの頭を撫でながらゆっくりと言った。

「やだなあ、私、清水さんが他の男たちみたいだったら選びませんでしたよ。清水さんには清水さんの良さが有るんですから、そこを大事にしてくださいね」

 ムクッと急に起きたせいで、バスタオルがはだけてしまったが、それにも気付かず清水さんは私に顔を近付けて質問してくる。

「俺の良さって何?あの…さ、吉川さんはどうして龍じゃなくて俺を選んだのかな?あのモテモテで女の扱いも上手な龍じゃなく、この俺を…」
「モテモテじゃないから…と言うと語弊が有りますけど、私、前に話したように誰よりも信じていた彼氏がこれまた誰よりも信じていた妹とデキちゃったんですよね。で、正直、もう二度と恋愛なんてしない、男なんて信じないと思ってた。でも、なんか清水さんを見てたら、こういう男の人もいるんだなーって、驚いちゃったんですよ」

 パチパチと瞬きを繰り返すことで、清水さんは私の次の言葉を催促してくる。

「清水さんは純粋で汚れていません」
「そ、そんなこと無いよ、俺、こう見えて結構腹黒い男だし、それに…」

 照れ隠しなのか、まだまだ自分を卑下しようとするその唇を指で押さえることで黙らせた。

「私ね、実を言うと浮気されるよりも前にもう恋愛に幻滅してたんです。なんか同じ男と7年も付き合ったせいで最初のときめきが徐々に色褪せていくまでを目の当たりにしてしまったというか。…熱が冷めて行くんですよ、互いに。それは何をどうしても元に戻らなくて、相手が何をしても興味を持てないから、惰性で続けてたって感じですかね。最終的には浮気されたことでトドメ刺されて、もう恋愛に期待する気が起きなくなってた。

 だから、まだ恋愛を素敵なモノだなんて31歳にもなって夢見てる清水さんのことが、…すごく羨ましいんだと思うんです」

 
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