裏切られ、地味女になっていた私ですが、再び美人に戻って恋愛することにしました。

ももくり

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手強い男

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 この辺で漸く私は『おかしい』と思い始めるのだ。そして恐る恐る直也に訊いてみる。

「あのう…。3人で幸せにって、直也と日向と…残り1人はもう決まってるの?あ、そっか、付き合ってる人がいるんだね!もしかして同じ会社の人とかかな?じゃあ、もう私はココに来ない方がいいよね…」
「はっ?」

 直也は驚きながらこう続けた。

「何を言ってるんだ、もう1人は桂に決まってるじゃないか。俺、桂さえ許してくれればいつでもお前と結婚する気でいたんだぞ」

 さすが直也!

 世界中の女性が皆んな自分のことを好きだと思ってるよね?そして例に漏れず、この私も未だに愛し続けてくれちゃってると思っていたワケなんだよね?

「ごめんね、私、彼氏いるんだ」
「は?!何だよそれッ?!どうしてそんな…。俺にはやっぱり桂しかいないし、桂だって多分俺じゃないとダメなんだと思う」

「ダメって、そんな勝手に決めつけないでよ」
「だって、俺のことが好きだから日向の面倒を見ることも引き受けてくれたんだろう?」

 なんだこの自信。最近、清水さんと長く一緒にいたせいかグイグイこられると逆に鼻につくと言うか、もっと謙虚になれと説教したくなる。

「かつらちゃーん、髪を洗うの手伝って~」
「はーい!今行くよー!」

 日向の声に私は慌ててこの会話を終了させようとしたのだが、残念ながら直也は手強かった。

「あのね直也に対して未練は無いし、この部屋に来るのも純粋に日向が可愛いからだよ。ここ数年、会話らしい会話もしていないのにどうして私が未だに貴方を好きだと言い切れるの?」
「だってほら、会話はしていなくても連絡帳でコミュニケーションは取れていただろう?俺はいつでも桂の顔を想い浮かべて文章を読んでいたし、互いに想い合っているのにそれを遮る何かが存在していて、それは時間と共に風化していったと思うんだ」

 なんだよ、その都合のいい俺様理論。

「とにかく直也のことは屁とも思ってないし、日向が待ってるからもう行くね!そっちもそろそろ新幹線の時間じゃないの?急がないと」
「え?…ああ、悪いけど俺が出たら鍵を閉めてくれるか。そして、この話は出張から戻ったら改めてしよう、いいね?」

 いくないよ、何を勝手に先延ばしにしちゃうのよ。

「何度話し合っても結果は同じだし。って、もう本当に出掛けてよ、シツコイなあ」
「じゃ、じゃあ、いってきます!」

 私の変わり様に、どうやら驚いているらしい。

 それもそうか、付き合っていた当時は割と従順で何でもハイハイ頷いていたもんね。そんな私が『屁とも思ってない』とか『シツコイ』とか言うなんて、きっと夢にも思っていなかっただろうなあ。でもこれで諦めてくれれば万々歳だ。…という目論見は、どうやら甘かったらしい。生まれてからずっと女性からチヤホヤされ続けた男が、初めて邪険にされたのだ。残念ながら直也は逆境に燃えるタイプだった。

「もしもし、桂か?いま出張先のホテルに着いたんだけど、お前のことを思い出して眠れなくなったから少しだけ話をさせて貰えないか?」
「ごめん、眠いからもう切りまーす」

「おはよう、桂!こんな早い時間に電話して申し訳ない。昨日の件を話し合おうじゃないか」
「朝は何かと忙しいです。こんな時間に電話を掛けてくるなんて、本当に迷惑です」

 切っても切っても掛けてくる。仕方なく着拒したところ、なんと数日後に会社まで突撃されてしまうのだ。





 その日。

「あのパン屋さんの店名、私ずっと『ルパン』だと思ってたんですよ。てっきり店長がルパン三世のファンなんだろうとか思ってて。ところが本当は『ルヴァン』だったんですね。フランス語でパン種、つまり酵母という意味らしくて全然ルパン三世は関係無かったんですっ!!」
「確かにパン屋さんでモンキー・パンチ好きはいるかもしれないけど、店名にはしないよね」

 電広堂さんとのコラボキャンペーンもひと段落し、珍しく早い時間帯に帰ろうとしたところを中島さんに掴まってしまい。『駅まで一緒に行きましょう』などと言われてクソつまんない話を聞かされながら帰路に就こうとしたのだが。自社ビルの正面玄関を出たところで、いきなり声を掛けられてしまったのだ。

「やあ!桂、お疲れ様!!」

 いやいや、だって『自社ビル』の『正面玄関』を出てスグの場所だよ?同じ会社の人間がワサワサいるに決まってるじゃん。そこで待ち伏せするとか、正気じゃないよね?

「なんですかあの現実味の無いハンサムは。もしや私の理想が、ついうっかりフィクションの世界から飛び出てしまったのかしら?」
 
 …そう、彼はそのくらい堂々としていたのだ。AWAYであるはずの場所でも、まるで自分の陣地であるかのように振る舞えるのが、一之瀬直也という男なのである。

「中島さん安心して。アレは実在の人物で私の義理の弟だから」
「えっ?!あの妹さんと浮…ふんぐっ」

 最後の方を言い淀んだのは、直也が駆け寄って来て、目の前に立ったせいだろう。厚い胸板、長い手足、端正な顔立ち。周囲の視線を釘付けにしたままで気品たっぷりな英姿を見せつける直也は最早、自分の存在をアピールしに来たと言っても過言では無い。

「ごめん、こんなところまで押しかけて。桂、先日の話の続きをさせてくれないかな?」
「お断りします」

 “直也オンステージ”の出鼻を挫かれ、カックンと右膝を折りながらも彼は続ける。

「とにかくどこかで座ってお茶でもしようよ」
「いや、お茶をするしない以前に、もう答えは出てるんだってば。私はもう貴方に対して好きとか嫌いとかそういう感情は一切湧かないし、いまお付き合いしている彼氏のことで頭が一杯なの。私の中で貴方とのことはもう過去のことだから、こうして顔を見てもキュンともスンともしないんだからッ」

 
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