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こんなはずじゃなかった
しおりを挟むかなりヒートアップしてしまったことは否めないが、さすがに中座した時間が長過ぎたらしく会議室から出てきた上司に呼ばれて聖くんは去って行った。後に残された私も早く自席に戻ろうとしたけれど、清水さんにギュウギュウと手首を掴まれてしまい仕方なくその場に留まる。でも、さすがに私も恥ずかしいのだ。あんなことを言った直後の顔を見られたく無いというのが本音なのに、清水さんはモジモジと私の目を見つめながら突然こう宣言する。
「俺、変わるよ!」
へ?私の話を聞いて無かったのかな?私、そのままの清水さんが好きだと言ったんですけど。
「大丈夫ッ、吉川さんが好きだと言ってくれた俺の内側はそのままに、せめて外側を格好良くしてみようと思うんだ!!」
「そ、そんなことしなくてもこの状態の清水さんが好きなんですけど」
なんだその誰得な決意…。
「だって、伝説のカップルの片方が次に選んだ男なんだろ?せめて見映えだけでも良くしておかないと吉川さんの名誉に傷がつくからッ」
「いや、でも、見えない敵にサービスする必要は無いと思うんですが」
残念ながら『純粋=思い込みが激しい』ということでも有り、自分の思いつきを早く実現させようとワクワクしている清水さんは人の話を聞こうとしない。
「とにかく龍と副社長にお洒落指南を仰ぐよ!よおおおし、吉川桂に相応しい男になってみせるぞ!期待しててよね」
「は…あ、えっと…、はい」
そしてビュンとどこかに消えた彼は、数日後に驚きの変貌を遂げる。いや、もともと顔立ちは悪くなかったのだ。優し気で人好きのするその柔和な容姿に、現代風のお洒落な髪型と服装を加えるとアラ不思議!とってもイケメンに!!しかもお洒落指南を仰いだ富樫副社長には私との交際を秘密にしていたせいで『いいか清水、イイ男になるためには自信をつけないと。それにはドンドン女と付き合え!』などと余計なアドバイスを賜り、何故か女性を紹介されまくるという恐ろしい事態に。
ああ、清水さんがモテモテになっていく…。
こんなはずじゃなかったと首を傾げる私にも、予想外の展開が待っていた。
「えっ?!桂…」
直也が出張で数日不在となるため、いつもの如く日向の面倒を見ようと仕事終わりにあちらのマンションに向かったのだが。基本、私と直也はなるべく顔を合わせない様に時間を調整していて。主に連絡帳で申し送りや用件を伝え合っていたのだが、この日はスマホを忘れたとかで、直也が新幹線を1本遅らせて一旦帰宅したのである。
言われてみれば、綺麗な姿に戻ってから会うのは初めてだったかもしれない。日向にも口止めしてあったから、私の変身を伝えなかったのだろう。とにかく直也はとても驚き、それから何故か私をいきなり抱き締めた。
「良かった…ようやく元の桂に戻ってくれて」
「ぐえっ、心配掛けたようで悪かったわね。とにかく苦しいから離してくれないかしら」
こういうとこ。
この男のこういう芝居じみたところが面倒臭いのだ。なんてったって生粋のヒーローキャラだからね、そりゃもう、俺様中心に地球は廻ってるよね。私が埋もれキャラを演じていたのを、『俺に裏切られた可哀想な女アピール』だと信じて疑わないんだけど、本当は全然違うから!周囲の人々に『奥さんが亡くなってスグその姉とヨリを戻した非情な男』という悪評が広がらないよう配慮した結果、ああなっただけで。
というか周囲の人々より直也の母親の方が数倍怖かったんですけど。付き合っていた私を裏切り、その妹と結婚した息子を棚に上げて、何かっつうと上から目線でモノを言うし。しかも、『死んだ妹の子供の面倒を見るのは、姉である貴女の役目でしょう?!』と責めておきながら、『大事な息子に変な噂を流されては困るの。だから桂さんはあまり目立たないように出入りして頂戴』と牽制してくるから、地味な出で立ちにしていたというのに。
そしたら今度は『桂さんが早く結婚しないから直也が再婚出来ないのよ!』と怒り出す始末。もう、これ難癖に近いレベルだよね?今更そんな愚痴を言っても仕方ないので、心を無にして薄い笑顔を貼り付けていると、足元に日向が纏わりついてきた。
「お父さん、出張に行ったんじゃないの?」
「あ、うん、ちょっと忘れ物を取りに戻ったんだよ。お父さんは桂ちゃんと2人だけで大事な話をしているから、日向はもうお風呂に入りなさい。髪もちゃんと乾かして寝るんだぞ」
とってもお利口さんな日向は『ハイ』と返事をしてトコトコと浴室へ向かう。大事な話って、もうこれ以上喋ることは何も無いのですが。
「あの、私も日向と一緒にお風呂に入ろうと思うんだけど…」
「ああ…、桂…、その…」
鼻先5センチくらいの距離までその顔が近づいて来た。こんな風に見つめ合うのは何年ぶりだろうか。人のことは言えないが、老けたなあ。目尻の皺もクッキリとして見える。でもまあ、相変わらずのイケメンっぷりだけど。きっと今でもかなりモテるはずだ。本人さえその気になればいつでも再婚出来るだろうに。
「何?」
「その…、全部、俺が…悪かった…」
またそれ??もう聞き飽きた、耳にタコだし。私をノイローゼにする気かな?
「もう謝らなくてイイってば。お互い、前に進もう。なんかさァ、気付いたら30歳だったんだよねえ~。私もそろそろ幸せになってもいい時期じゃないかなと思ってるんだ~」
「本当か?!本当に幸せになろうと?!」
両肩を掴まれガタガタ揺すられる私。アワワ、そんなに激しくされたら首が折れそうだし。
「うん、結婚なんかもしてみちゃおっかな」
「有難う!桂!!待っていた甲斐が有ったよ。今度こそ日向と3人で幸せになろうな!!」
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