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美香編
障害はこの私
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「あのさあ、美香さん」
「何よ」
「俺、ヒマじゃないんだけど」
「嘘吐かないで」
私が紹介したパン屋さんの改装工事もいよいよ大詰めだというのに、なぜか内藤はスーツを着ていた。あ、いいのいいの、呼び捨てで。どうせ香奈と結婚するんだし。そしたら義弟になって、年齢に関係なく私の方が偉くなってしまうんだな。それを今のうちに分からせておかなくちゃ。
「さっきまで改装作業を手伝ってて、それから自宅で着替えてきたばかりなんだよ。1時間後には香奈を迎えに行かないと」
「あらそう?だったら30分は話せるわね」
電話1本ですぐ飛んで来てくれるのは、私に気があるからでは無い。愛する香奈の姉に、恩を売っておこうという考えなのだ。
今ではもう結婚を反対されることも無いはずだが、いざという場合に備え1人でも多く味方を作っておきたいのだろう。こうしてこの男は地道に努力を重ね、香奈との幸せな未来を掴んでいく。
…一番の障害がこの私だとも知らないで。
ゴメン、内藤。たぶんウチの父はアンタたちの結婚を反対すると思う。なんかさ、上から順番に嫁がせたいんだって。だけど残念ながら私はまだまだ結婚する気なんて無いし。それに香奈は23歳だよ?内藤もそこまで焦っていないでしょ。
ガチャン
そのあと内藤が発した言葉に驚き、コーヒーカップを上手くソーサーに着地させることが出来なかった。それは私がツバ男についての愚痴…というか、ワザワザ呼び出しておいて本題がツバ男に関する愚痴だなんて我ながら情けないとは思うけど。
って、えっと、とにかく『私が恋愛対象にならないと言うツバ男は、人としてどこかおかしい』なんて話から、内藤の恋愛論へと移行し。仕舞には私に向かって『早く本命の男を作れ』などと諭してきたせいで、ついウッカリこう返してしまったのだ。
「余計なお世話よッ。このご時世じゃね、女が30過ぎてから結婚しても全然問題無いのッ!だいたいそんなに早く結婚したらスグに飽きるわよ。香奈なんてまだ23歳だし、あと5年は独身のままでOKだわッ」
この時の私は本当にそう思っていた。
父からどんなに結婚を急かされても、まだ5年以上は猶予が有ると呑気に構えていたのに。内藤はそのひと言で私を叩きのめす。
「今晩、結婚の申込に行くつもりなんだが」
「お、おおっ??」
オウ、ジーザス!
そんな急に期限を早めなくてもッ!!
しかも内藤は反対されることは無いと高を括っている。そりゃそうだよ、この人ってば毎週ウチの家族と親交を深めてメッチャ頑張ってるもん。
「う…ああ…」
唸ることしか出来なかった。言えない、あたい(※なぜか急にヤサグレ風)のせいで結婚反対されてしまうだなんて。いったい、どうすればいいんだろう…。
>先に長女が結婚するまで待ってくれ。
そのあと宣言通りに内藤が結婚の申込にやって来て、案の定、父に断られてしまう。しかも、良心に耐えかねて事前に知っていたことを伝えると内藤は分かり易くキレた。
>俺は美香さんに結婚を焦って欲しいな!
>2カ月以内に相手を見つけてくれ。
無茶を言うナス!(※美香は茄子が好き)
そんな短期間で見つけるのは無理だナス!
とは言うものの香奈が可哀想だし、姉としての尊厳も失いたくないと思うワケで。内藤との激しい口論のあと自室に引き籠り、真っ先に掴んだ物はツバ男がくれたファイルだ。
「仕方ない、とにかくツバ男に連絡するか」
そして数日後、彼と再会するのである。
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