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美香編
ツバ男の献身
しおりを挟む「こんにちは」
「はい、こんにちは」
ビジネスライクな感じで私たちは待ち合わせ、そして彼の行きつけらしき洒落たバーへ向かう。いかにも通の好む店という感じのソコは、個室なんかも有って、予約してあったのかそれとも常連だからか当たり前のように案内された。
相変わらず細身のスーツをセンス良く着こなすツバ男は黒いソファに座っていきなり足を組み、私の了承も得ずにオーダーを頼み出すのだ。
「ビールとこちらにはマンゴーサワーを」
「えっ?!」
ソレが好きだということは本当に近しい人以外、誰にも言っていないのに。
「あ、実は前回一緒に飲んだ際に何となく反応がおかしいと思ったもので。…その、失礼かと思ったんですけど妹さんに確認したんですよ。本当はマンゴーサワー、お好きだったんですね。俺と2人きりの時は遠慮せずに頼んでください」
「なっ、どっ、どうして気付いたの??」
おのれ香奈めッ。
…って、あれ?でも、そっか。惚れられたら困ると思って隠していたんだけど、こいつは私のことを恋愛対象外だと言ったんだ。…だったら別にいいのか、うん。
そう結論づけた私は途端にニパッと笑う。
「だって、俺がマンゴーサワーを飲むたび食い入るように見つめてたし。あの目は何と言うか…そう、俺の事を妬んでたんですよね」
「あはは、ごめんね。だって死ぬほど好きなの、マンゴ──サワーがッ」
ああ、ラクだ。私を好きにならない男って最高。内藤もそうなんだけど、残念ながらヤツには香奈がいるから連れ回せないんだな。その点、このツバ男は気を遣う必要が無いし、おかしな性癖にさえ目を瞑ればルックスも性格も合格よ!!
「あの…ところで美香さん、俺に話とは」
「え?ああ、この前貰ったでしょ、結婚相手にどうかって男性のファイル。あれ、お願いするかもしれないのよ。取り敢えず詳細を聞かせて貰えないかな?」
目元をキュッと緩めてツバ男は微笑む。それと同時に軽いノックの音がしてバトラーが飲み物を運んで来た。
「おうふっ、本物のマンゴーがグラスに刺さってる!なんてファンタスティックッ」
「ああ、それは俺が頼んでおきました」
しかも酒の肴が…ピスタチオにキスチョコ?!わお、こんな上品そうなお店なのに柿ピーがッ。
「喜んでいただけましたか?そのツマミも俺が特別にお願いしておいたんですよ」
「もう、ツバ男ったら至れり尽くせりね!」
「…ツバオ??何ですかそれは」
「あはは、だってアンタ私に唾飲ませたでしょ。だからツバ男~!!」
この閉ざされた空間で、とにかくツバ男は完璧に私をもてなした。余りにも楽しくて、いつの間にか結婚相手を紹介して貰うことも忘れてしまったほどに。
ていうか、忘れんなよ、私ッ!
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