朝日家の三姉妹<2>~美香の場合~

ももくり

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美香編

姑息な男(望月視点)

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 …………
 ふう、もう23時か。
 
 漫画は少女漫画以外すべて制覇してしまったし、仕方ない、こ、このエロ雑誌でも読んでみよう。本当にしょうがないなあ…こんな雑誌、普段は絶対手に取らないんだけど(※モッチーは嘘を吐いています)。なになに?『ギリギリショット・凶暴な巨乳』へえ、あのグラビアアイドルがとうとう脱いだのか…
 
 って、み、みみみ、美香さんッ!!

 自動ドアが開き、颯爽と姿を現したのはずっと待ち焦がれていたその人で。慌ててエロ雑誌を棚に戻して駆け寄る。視界の端ではレジにいた店長がサムズアップしながら微笑んでいたが、それに反応を返す余裕も無く。必死の思いで美香さんに話し掛けると、彼女は不自然なポーズで豪快に転ぶのだ。
 
「ふえぇん」
 
 な、なんだこの可愛い泣き声。普段はクールな大人の女性を気取っているクセに、ここに来てそんな幼女のような声を聞かせるなんて卑怯だぞ!あまりにも反則なその行動に、俺の胸はギュンギュンしまくっている。
 
 おっといけない、ココで小道具を出さなければッ。誰からも無条件に愛されてしまうこの女性に唯一靡かない男…それが俺だから。
 
 いや、もちろん本当は大好きだよ。
 
 でも正攻法じゃ落とせないと分かっているのに敢えて正面からぶつかるバカはいないだろう?とにかくお近づきになって親交を深めなければ。ははっ、それにしてもこの人、凄い自信だな。
 
「ツ…じゃなくて望月くんはいいの?」
「俺ですか?!いや、遠慮しておきます」
 
「私を好きじゃないの?」
「そうですね、どちらかと言えばあまり…」
 
 出来るだけ紳士的でスマートに、絶対ガツガツしているところなんか見せないぞ。
 
「えっと、ああ、じゃあ、有り難く頂くわ」
「良かった!素晴らしい男性ばかりなので、是非、検討をお願いしますよ」
 
 よっしゃ、好感触!!
 
 このまま去った方が効果的だとは分かっているが、店長に御礼を言わないのも不義理だと考え、数点の商品をカゴに入れてレジへと向かう。ピッピッとバーコードを通しながら、俺にしか聞こえない音量で店長が話し掛けてくる。
 
「あの女性でしたか~、さすがお目が高い!!彼女、柿ピーとピスタチオとキスチョコが好きでちょくちょく購入されていきますよ。それと、マンゴーサワー。これは死ぬほど好きだと自分で言っていましたっけ…」
 
 なぬ?マンゴーサワーだと??
 
 買い物を済ませ、駅へ向かう道すがらカナスケに電話で確認すると『そう、美香ネエはマンゴーサワーが大好きなの。でも、そんなギャップを見せるとメンズに惚れられてしまうからって普段は必死で隠してるみたいよ。何?どうしてそんなことを訊いてくるの?』などと不審がられてしまい。
 
 だがしかしココで美香さんを好きだとカナスケにバラしてしまうと一気に本人へ伝わる可能性があると思った俺は、適当に誤魔化すのだ。

「美香さんとまた飲みに行きたいなあとか思ってて、店を予約する際に飲み放題を付けるべきか悩んで確認させて貰っただけだよ」
「あはは、そうなんだ。マンゴサワーって飲み放題には含まれないこと多いもんね」
 
 さすがカナスケ、ちょろいな。
 
 これまで、俺の人生は楽勝だった。誰が見ても端正な顔立ちと優秀な頭脳に加え、父譲りの処世術の巧みさで、それなりに女性たちとも付き合ってきたと思う。
 
 >望月くんは何をさせてもスマートね。
 >ほんと、女性を喜ばせる天才!
 >しかもカッコイイし~。
 
 そんな俺なのに、美香さんは言うのだ。
 
 『だってアンタ私に唾飲ませたでしょ。
 だからツバ男なのよ~!!』…と。
 
 
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