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美香編

恋は摩訶不思議

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 『あはは』って。車はコインパーキングに置いて私を見失わないようにと店の前で待ってたんでしょう?まだ風が冷たいこの時期に、なんて無茶なことを…。
 
 さすさすと望月の腕を擦っていたら、誰かが私たちに気付いたらしく騒ぎ始めた。

「おっ、もしやアレが朝日の婚約者か?!わざわざ迎えに来させるなんて、もう尻に敷かれてんだな、可哀想に」
 
 その言葉で一斉に笑う面々に向けて、望月は中世の騎士の如く華麗にお辞儀する。
 
「初めまして!朝日さんの婚約者の望月と申します。お楽しみのところ、部外者の自分が水を差してしまったようで心苦しいです。
 
 ところでそちらの方、僕が美香さんの『尻に敷かれている』という表現は語弊が有りますよ。正確には『自ら支配されることを望んでいる』という感じでしょうか?苦労して手に入れた極上の花を、大切に愛でて長く咲かせたいと思うのは罪では無いでしょう」
 
 ぶほっ、なに言ってんだ、コイツ。
 頭、膿んでるんじゃねえのか。
 
 そう思ったのは私だけらしく、どうやら周囲の人々は男女問わず、望月に見惚れている。まあ、確かに、迷いなく堂々とそんなこと言えちゃうのってある意味無敵かも。望月ってさあ、こんな人生楽勝という感じの見た目をしてるのに実は物凄く頑張り屋さんなんだよねえ。
 
 血の滲むような努力をしておきながら、それを決して周囲には気取られず余裕ぶって見せちゃうという、損な性格をしてて。…って、ああ、そうか。私、何だかんだ言って望月の中身にもきちんと惚れてるんだな。
 
 改めて実感したら、望月の顔を見ただけで胸がキュンとする。滝さん、さすがです!本当に容姿なんて取っ掛かりに過ぎなくて、私もうこの男にベタ惚れみたい。
 
 とかなんとか考えながらジッと見つめていると、責めていると勘違いしたのか望月が私に謝り始めた。

「美香さん?ごめん、職場の人たちの前で…もしかして恥かしい?もう帰ろうか」
「うん、帰る…」
 
 本当は一分一秒でも早く望月を押し倒したかっただけなのだが。まあいい、可愛く返事したことで望月の鼻の下も伸びまくりだし。
 
 >うおお!あの朝日が!!
 >突然、乙女になっちまったぞ。
 >あの婚約者、マジでスゲエ~。
 
 踊らせているのか、踊らされているのか。策士なようでいて実は全面降伏してくれている望月と、支配しているようで実は何もかも把握されている私。
 
 恋とは実に摩訶不思議だ。
 
 何故か同僚たちから万歳三唱をされつつ、その場を立ち去る我ら。車に乗り込んですぐに、望月が悪そうな顔でボソリと呟く。
 
「ふふ、これで職場の男共は抑制出来たな」
「いやいや、誰も私なんか狙ってないって」
 
「鈍いな、美香さんは。俺が見たところ4人はいましたよ、アナタを狙っている男」
「マジで?」
 
「うんマジで。だって美香さん、素敵だし」
「バカ、そうやって褒めまくるの止めてよ」
 
「そういう謙虚なところも好きだなあ」
「望月ィ…。甘い、甘すぎるよお」

 いつまで経っても車はパーキングから出られそうに無い。何故ならキスが止まらないからだ。
 
「ん、明日は土曜だし、このままホテルに」
「行きますとも!」
 
 そう答えたのに、いつまでもキスは続くのだ。そう、ずっとずっと…。
 
 
 
 --END--
 
 ───────────────
 えと、思わせぶりに滝さんが登場し、伏線を張ってみましたがこの後、なんと荒木田編を開始します。でも、幕間的な短編で。
 
 本当はスグに朝日三姉妹のトリである末っ子の奈月ちゃん編に取り掛かる予定だったのです。が、なんか箸休め的に入れてみようかと思ったりしたワケです。
 
 既に投稿済ですので、宜しければこの次の頁を覗いてみてくださいませ。 
 
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