28 / 35
荒木田編
荒木田はハキハキ喋れない
しおりを挟む※ここからは荒木田さんが主役なのです。
─────
「荒木田 千波!電話ではもっとハキハキ喋りなさいッ」
「は、はいぃ。頑張りますう」
今日も朝日さんに叱られた。
これでも改善したつもりなのに、朝日さん曰く鼻にかかった声と必ず伸びる語尾が問題だと。
>アンタ、もしかして蓄膿じゃない?
>念のために耳鼻科で診て貰いなよ。
>『語尾に注意!』ってメモ書いて
>目立つところに貼っておくとイイわよ。
口調はキツイけど、朝日さんは鬼じゃない。叱るばかりじゃなくて必ず提案もしてくれるから、朝日さんのことは嫌いじゃない。
あの人たちに比べれば10倍は好きだ。
10どころか100…1000倍だな。
『あの人たち』というのは、何を隠そう実母と姉の万由のことである。名前からしてフザけているではないか。姉が万由なのに妹が千波って、おいこら、減らしてどうする。
しかも同じ姉妹だというのに、姉は母の遺伝子を色濃く継いでおり、ありとあらゆる面で容赦無い。要するにキツイ性格なのだ。自分の失敗は笑って誤魔化すクセに、他人の失敗は何度もネチネチと批判する。気弱で繊細な父に対する態度なんて酷いものだし、その父にソックリな私なんてもっとバカにしているのだ。
バカはどっちか?と問いたい。
姉は自分をアピールすることが上手なだけで、実際の成績は中の下だった。それに対して私はこう見えて学年5位以内には必ず入っていたし、校内のマラソン大会も陸上部の面々を抑えての堂々2位。美術だって家庭科だってそこそこに出来てしまうと言うのに。
その事実を母は知らないフリをするのだ。何故なら姉の方が可愛いから…いや、正確に言うと自分ソックリな姉の方が可愛いから。
小学校低学年の頃から既に理不尽な責めを受け、ストレスを溜めまくっていた私は、とある女性との出会いで転機を迎える。姉と一緒に通い出したピアノ教室。予想通りに姉はたった1週間で辞めてしまったが、私の方は向いていたらしく、最終的には中学を卒業するまでの6年間、通い続けたのである。
>千波ちゃん、とっても上手よォ~。
>うふふ、そう、その調子ぃ。
そうです。
現在の私を作ったのはこの先生です。
男勝りでガサツな母とは違い、フワフワクルンと巻いた長い髪。コーヒーよりも紅茶、ズボンよりもスカート、そして甘ったるい喋り方!!
「ああっ、間違えちゃったの~?大丈夫よォ、また頑張りましょうね。うふっ」
同じことを何度間違えても、叱らずに励まし、成功した時には自分のことのように喜ぶ。殺伐とした家庭で育った私にとってサツキ先生はまるで天使のように輝いて見えたのである。
だから、真似した。
ふわふわの口調を真似しまくった。
「でも、高校卒業後に真実を知るんだよね」
「えっ?何ですか真実って…」
滝さんの言葉に、柴崎さんが問い返す。
ここは“大人の隠れ家”といった感じのバーで。本当は朝日さんが誘われたそうなのだが、婚約者と仲良く消えてしまったため代わりに滝さんが一緒に行くと言い出し。
「教えてやってくれよ、荒木田さん」
「そのピアノの先生、実は帰国子女だったそうで。だから、あの独特の喋り方は日本語が苦手だったからだと。それがいつまで経っても上達しなかっただけ…というオチでした」
柴崎さんがブッと吹き出し、その姿を見て何故か滝さんが私の背中を押すのだ。
なんだコレ、コレなんだ??
>荒木田さんの願いを叶えてあげる。
>いよいよキミの出番だよ。
この店に来る途中で、滝さんはそう言った。だからてっきり私の気持ちを受け入れてくれるのかと思ったのに。どうやら私は柴崎さんのことが好きだと誤解されているらしい。いったいどこでどうなった?
だって私が好きなのは滝さんなのにッ。
0
あなたにおすすめの小説
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました
美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?
ブラック企業で倒れた私を、ネトゲ仲間の社長が強制保護して溺愛しています
紅 与一
恋愛
過労で倒れた私を救ったのは、
ネトゲ仲間――そしてIT企業の若き社長。
「もう君は、僕の管理下だよ」
退院と同時に退職手続きは完了。
住む場所も、生活も、すべて彼に囲われた。
外出制限、健康管理、過保護な独占欲。
甘くて危険な“保護生活”の中で、
私は少しずつ彼に心を奪われていく――。
元社畜OL×執着気味の溺愛社長
囲い込み同棲ラブストーリー。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる