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荒木田編
荒木田はハキハキ喋れない
しおりを挟む※ここからは荒木田さんが主役なのです。
─────
「荒木田 千波!電話ではもっとハキハキ喋りなさいッ」
「は、はいぃ。頑張りますう」
今日も朝日さんに叱られた。
これでも改善したつもりなのに、朝日さん曰く鼻にかかった声と必ず伸びる語尾が問題だと。
>アンタ、もしかして蓄膿じゃない?
>念のために耳鼻科で診て貰いなよ。
>『語尾に注意!』ってメモ書いて
>目立つところに貼っておくとイイわよ。
口調はキツイけど、朝日さんは鬼じゃない。叱るばかりじゃなくて必ず提案もしてくれるから、朝日さんのことは嫌いじゃない。
あの人たちに比べれば10倍は好きだ。
10どころか100…1000倍だな。
『あの人たち』というのは、何を隠そう実母と姉の万由のことである。名前からしてフザけているではないか。姉が万由なのに妹が千波って、おいこら、減らしてどうする。
しかも同じ姉妹だというのに、姉は母の遺伝子を色濃く継いでおり、ありとあらゆる面で容赦無い。要するにキツイ性格なのだ。自分の失敗は笑って誤魔化すクセに、他人の失敗は何度もネチネチと批判する。気弱で繊細な父に対する態度なんて酷いものだし、その父にソックリな私なんてもっとバカにしているのだ。
バカはどっちか?と問いたい。
姉は自分をアピールすることが上手なだけで、実際の成績は中の下だった。それに対して私はこう見えて学年5位以内には必ず入っていたし、校内のマラソン大会も陸上部の面々を抑えての堂々2位。美術だって家庭科だってそこそこに出来てしまうと言うのに。
その事実を母は知らないフリをするのだ。何故なら姉の方が可愛いから…いや、正確に言うと自分ソックリな姉の方が可愛いから。
小学校低学年の頃から既に理不尽な責めを受け、ストレスを溜めまくっていた私は、とある女性との出会いで転機を迎える。姉と一緒に通い出したピアノ教室。予想通りに姉はたった1週間で辞めてしまったが、私の方は向いていたらしく、最終的には中学を卒業するまでの6年間、通い続けたのである。
>千波ちゃん、とっても上手よォ~。
>うふふ、そう、その調子ぃ。
そうです。
現在の私を作ったのはこの先生です。
男勝りでガサツな母とは違い、フワフワクルンと巻いた長い髪。コーヒーよりも紅茶、ズボンよりもスカート、そして甘ったるい喋り方!!
「ああっ、間違えちゃったの~?大丈夫よォ、また頑張りましょうね。うふっ」
同じことを何度間違えても、叱らずに励まし、成功した時には自分のことのように喜ぶ。殺伐とした家庭で育った私にとってサツキ先生はまるで天使のように輝いて見えたのである。
だから、真似した。
ふわふわの口調を真似しまくった。
「でも、高校卒業後に真実を知るんだよね」
「えっ?何ですか真実って…」
滝さんの言葉に、柴崎さんが問い返す。
ここは“大人の隠れ家”といった感じのバーで。本当は朝日さんが誘われたそうなのだが、婚約者と仲良く消えてしまったため代わりに滝さんが一緒に行くと言い出し。
「教えてやってくれよ、荒木田さん」
「そのピアノの先生、実は帰国子女だったそうで。だから、あの独特の喋り方は日本語が苦手だったからだと。それがいつまで経っても上達しなかっただけ…というオチでした」
柴崎さんがブッと吹き出し、その姿を見て何故か滝さんが私の背中を押すのだ。
なんだコレ、コレなんだ??
>荒木田さんの願いを叶えてあげる。
>いよいよキミの出番だよ。
この店に来る途中で、滝さんはそう言った。だからてっきり私の気持ちを受け入れてくれるのかと思ったのに。どうやら私は柴崎さんのことが好きだと誤解されているらしい。いったいどこでどうなった?
だって私が好きなのは滝さんなのにッ。
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