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何故だ、どうしてだ??
しおりを挟むところがそれを良しとしない人間がいたりする。
いや、言うまでも無く、
湊なんですけどね。
「はぁ?!頭沸いてんのか?暑いこの時期に脳みそグラグラ煮えてんだろ」
「に、煮えてはいないねー」
そりゃもう、自分の彼女が他の男と浮気しているかの如く、責めて責めて責めまくりだ。
「会社公認で若い男女を2人きりにするとか、どう考えても普通じゃないだろ?なあ、九瀬さんッ?!」
「ん…、別にいいんじゃない」
さすがの私も、先日の告白事件のせいで湊と一緒に食事をするのは非常に気まずい。だから必死で誘いを断ったのに、その巧みな話術と恐ろしいまでの行動力でいつの間にかいつものビヤスタンドに仲良く3人並んでいたのである。
「本気でそう思っているのか九瀬さん?!昼休憩の間だけとは言え、会社の核である資料室を食堂…いや、下手すればラブホ代わりに使用させるんだぞ?!」
「ん…、別にいいんじゃない」
湊じゃあるまいし、ラブホ代わりになんかしませんって。…そう反論したいけど、なぜか湊は九瀬さんにばかり同意を求める。
「それにシステム開発部の人達にバレたら、きっと廣瀬さんは責められるだろうし、せっかく築いてきた信頼が台無しになってしまうと思わないか、九瀬さんッ」
「ん…、別にいいんじゃない」
いや、そこんところは私も心配して廣瀬さんに確認したが、大丈夫なのだと。休憩時間を利用して、資料室で別件を処理中ということにしているようで、私は総務部から遣わされたアシスタントという位置付けなのだそうだ。そうすることで、未だに迫ってくるというシステム開発部の女性社員(実は廣瀬さんが目当てだったという彼氏持ちの相談女)を牽制することも出来るので、むしろ好都合なのだと。
そして九瀬さんがこれほどヤル気の無い返事をするのには、理由が有る。愛しの弟君が昨晩、無断外泊したらしい。というか、今まで知らなかったのだが、なんと九瀬さんは弟君とマンションを借りて2人暮らしをしているそうなのだ。
血の繋がらない年頃の姉弟が同居って…。
九瀬さんの両親もチャレンジャーだな。というか、むしろくっつけようとしているのかもしれない。もしそうだったとしても、残念ながら弟君には他の女性の影がチラチラ見え隠れしているから、実らない可能性大だ。世の中、そのシチュエーションでもダメなものはダメなのである。
はああっと大きな溜め息を吐いた九瀬さんは、涙目のままでバッグを掴み『帰る』と言い出した。これに慌てたのが湊である。何故なら事前に私から『湊と2人きりになるのはNG』と宣言されているからだ。
「九瀬さんッ、ちょ、待って!大好きなアイスクリームを奢ってあげるからさ!」
「いらない。さよなら、瀧本さん…」
その『さよなら』、怖い怖い。
「九瀬さん、私も帰ります。駅まで一緒に行きましょう!」
「あー、うん…」
九瀬さんを心配している体で退席すれば、湊も文句は言うまいと思ったのだが。
「かんぱーい!」
「……」
何故だ、どうしてだ??
九瀬さんと一緒に帰ると伝えたところ、湊が『俺も帰る』と言い出し。そのまま駅に向かったものの、途中で『この近くに隠れ家的なバーを見つけたんだ、絶対に朱里も気に入るぞ!』とかなんとかグイグイと腕を引っ張られ、抵抗も虚しくいつの間にか湊と2人きりで座っていた。
「何、もしかして朱里、怒ってる?」
「さすがにそれは伝わってるみたいね」
「怒らないでくれよ、なあ、朱里ちゃん」
「いや、本当にもう帰るってばッ」
「そんなこと言うなよ、ちょっとだけ、な?」
「なああにが、ちょっとだけ…ウッ!!」
奇声を上げたのはしょうがない、何故なら今まさに愛しの廣瀬さんが…
ミスユニバース級の美人をエスコートしながら、
入店してきたのだから。
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