呪詛返死

蓮實長治

文字の大きさ
上 下
37 / 44
第7章:空虚なる者達

(6)

しおりを挟む
 酔っ払って寝るのは一種の気絶だ。だから酒飲んで眠った時間は睡眠時間に入らない。
 意識を取り戻し……酔ってた間の記憶が戻って、まず思ったのは……昔、どっかで聞いた、そんな話だった。
 一体全体、どうなってんだ?
 俺が拡散した画像に……「呪いの呪符」が電子透しで埋め込まれてた?
 何の事だ? 
 干し蛸の野郎が最初から埋め込んでてたのか? それとも……?
 ともかく、直近の問題は……吐き気と尿意。
 ふらふらと立ち上がり、トイレに行く。
 そして……出す出す出す出す……何か嫌な色の小便だ……。
 続いて……吐く吐く吐く吐く……トイレが詰るんじゃないかって程の……とんでもない量のゲロ。
 そして……水を流す。流れ切らない。
 また、水を流す。
 結局、大を3回流した。
 台所で渇ききってガラガラになった喉に水を流し込む。
 仕事部屋に戻ると……また記憶にないモノが有った。
 酔っ払ってる間に何かを印刷してたらしい。
 メールを印刷したものらしい。春日美由紀って、覚えがない女からの……待て、宛先は……俺の仕事用のメアド。
 編集者やアシスタント……あと、アイデアを仕入れる為に取材した相手ぐらいにしか報せてない筈の……。
『多分、あんたはコレを見ないだろうが、万が一に賭けて報せておく』
『全部、あんたのせいだ』
『あんたは、不完全な呪いか、呪っちゃいけない相手を呪ってしまった』
『多分、あんたが使った呪いを拡散した奴らは、自分自身に呪い殺されたか、自業自得にしか思えない死に方をするだろう』
『そして、あたしみたいなのが、呪いの現場を探っても、呪いを返した筈の術者の気配を補足出来ない筈だ』
『説明は難しいけど、あたしみたいなのには、誰かの術や力によって呪いが返されたんじゃなくて、自然現象か何かのように起きて当然の当り前の事のように呪いが返されたように見えるだろう』
『でも、安心しな、あんたに呪いが返ってくるのは、一番最後だ』
『あんたが形代にした奴から……どんどん死んでくだろう』
 そして……同じ文面のメールを印刷したものが、何個も何個も何個も……。
 ふと、壁の落書きを見る。
『必ず記録を複数残せ』
 多分、これに従ったんだろう。
 でも……俺が酔っ払った時にやったんなら、世にもマヌケな「記録を複数残す」だな……。
 あははは……。
しおりを挟む

処理中です...