表層的お葬式批評

蓮實長治

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表層的お葬式批評

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「では、先日亡くなられた前大統領の国葬の記録映画の試写を御覧になった方の感想をお送りいたします」

抽選で試写に選ばれた会社員Aさん
「前大統領が亡くなった事を改めて認識し、厳粛な気持ちになりました。国家万歳‼」

抽選で試写に選ばれた主婦Bさん
「暗殺犯に対する怒りを新たにしました。国家万歳‼」

与党代議士Cさん
「まぁ、前大統領を悼まない自称『民主派』どもは我が国民だけでなく、全世界の人々にとっても不快極まりないモノなのは言うまでもない。だが、あの人で無しどもによる反国葬デモの様子を残した事は、我が国が奴ら主張とは違う寛容で自由な民主国家だと云う事を証明してるんじゃないかね? おっと、国家万歳‼」

国立××大学元学長、フランス文学者・映画評論家Hさん
「あのね、私は義理で映画を誉めなきゃいけない時は『撮影が良かった』って言う事にしてるんだよ。プロが作った映像作品なら撮影がいいのは当然だからね」
「は……はぁ……あの……まさか……」
「いや、撮影以外にも良い点は山程有ったよ。芸術作品としては、かなり良いレベルじゃないかな」
「は……はぁ……」
「ただ、この試写は3回目でね……」
「あ……あの、失礼ですが、何をおっしゃりたいのでしょうか?」
「何度観ても……どうしても判らない事が有るんだよ」
「え……えっと……?」
「私は、映画も文学作品も、批評する際は、まず、先入観無しに描かれている事のみを徹底的に読み込んで、その作品が作られた背景などは、それから調べる、と云うスタイルでね」
「あ……あの……何か、この映画に関して御不明な点でも?」
「判らない。降参だ。もう、この報道プレス向けの資料を読んで、この映画の背景を調べてから批評するしかない」
「ですので、何が判らないのでしょうか?」
「二〇二〇年代のあるオリンピックの記録映画で『記録映画なのに、映画内に出て来る試合で、どっちが勝ったのか、さっぱり判らない』と云う珍作が有ってね……。そんな感じだ」
「あ……あの……もう少し具体的に御説明いただけますか?」
「その前に、君は、この映画を観たのかね?」
「すいません、まだ観ていなくて……」
「ああ、そうか。ところで、御存知だったら教えて欲しいんだが……この記録映画の中で、記録映画としては肝心な事を一言も言ってなかったんだよ……」
「あ……あの……何でしょうか?」
「この映画は、一体全体、どう云う経緯で亡くなった、どなたの葬式を記録した映画なのかね?」
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