神様が異世界転生させてくれるって言うので、のんびりした生活を要求しました。チート能力? くれるならもらっときます。

蓮實長治

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神様が異世界転生させてくれるって言うので、のんびりした生活を要求しました。チート能力? くれるならもらっときます。

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 ある日、突然、空は黒雲のようなモノに覆われ、太陽は見えなくなった。
 気温は下がり……植物は育たなくなり……やがて、食料も尽き……。
 ボクの家族は、次々と命を落していった。
 多分、ボクもいずれそうなる……。
 力尽きたボクは地面に横たわり……そして、ボクの体は……火山灰のようなモノが混った雪に覆われていった。

 神様から「お前は、どうも、儂のミスで死んだようなので、異世界に転生させてやろう」と言われて数ヶ月。
 いつしか、俺は、自分の事を「俺」と呼ぶようになっていた。
 そして、たった数ヶ月で、元の世界で死ぬ前の事……自分を「僕」と呼んでいた頃の事は……文字通り「前世」であるかのように、たまにしか思い出さなくなっていった。
 もっとも、俺と、この世界のクソ原住民との意思疎通は、「神様」からもらったチート能力の1つ「自動翻訳」でやっているが、どうやら、この世界の言葉は、英語みたいに一人称が一種類しか無いらしいんんで、俺が自分の事を「俺」「僕」「私」……その他どう呼ぼうが、大した違いは無いようだが……。
「勇者様……。ここから馬で数日ほど行った所に有る村の村外れの森にドラゴンが住み着くようになったので、退治して欲しいとの依頼が……」
 酒場で酒を飲んでいると、俺のパーティーのメンバーa・k・a・下僕の1人がそんな事を言って来た。
「俺が行くような事なのか? あと、俺に相応しい報酬は出るんだろうな」
「は……はい……。その村の領主より、今年の村の年貢の半分は勇者様に献上すると……」
「その程度か?」
「えっと……あと、村の若い女の中の綺麗所と領主の娘を献上すると……」
「検討はしよう」

「あ~、お前たちの種族は儂のミスで滅んでしまったらしいので、異世界に転生させてやろう。何か望みは有るか?」
 自称「神様」はボクにそう言ってきた。
 どうやら、ボクは死んじゃって、「あの世」に居るらしい。
「う~んと……一生、のんびり暮せれば、それでいい」
「えっと……チート能力とかは要らんのか?」
「くれるんなら、もらっとくけど……無くてもいい」
「無欲なヤツじゃな。褒美に……最上級のチート能力をやろう」

 村の「綺麗所」も領主の娘も、全員、俺の好みだった。
 当然、俺は、依頼を受けて、村外れの森にやって来た。
 森に入ってから十数分後、ドラゴンが住んでいるらしい洞窟に辿りつき……いや、そこそこ大きい洞窟だ……熊が住むにしても大き過ぎるだろう……だが、想像していた「ドラゴンの住処」よりは……かなり小さい。
 ガサリ……。
 洞窟の中から音がした……。
 そして、洞窟の中から出て来たモノは……。
「おい、ありゃ、どう見ても『ドラゴン』じゃねぇぞっ‼」
「ぎゃおっ♪」
 洞窟の中から出て来たが脳天気な声を上げた途端……俺は全身にとんでも無い重量を感じて、その場に座り込んだ。
「○×△□」
「∴▽◆♥」
 何故か俺の下僕どもが、そのティラノサウルスと話をしているが……変だ……下僕どもが何を言っているか判らない。
 いや、だが、奴らの身振り手振りからすると……ティラノサウルスに礼を言っている?
 どう云う事だ?
 事態を打開する為に……俺のチート能力の1つ……「詠唱なしに呪文を発動」……駄目だ、これも使えなくなっている。
 それに、この体が動かなくなる謎の攻撃……魔法であれば……チート能力として「精神集中なしの魔力検知」を持っている俺なら、魔力を検知出来る筈だ……。
 だとすれば……考えられるのは……ただ……1つ……。
 この世界の「外」に由来する能力。そして、この世界の「魔法」の法則から外れた能力。つまり……。
 このティラノサウルスも……俺と同じ……だ。

 神様がボクに授けてくれたのは……「他の転生者のチート能力を問答無用で強奪する」と云う「チート能力」だった。
 でも、ボクは食べ物以外の生物と積極的に争う気は無い。
 ボクの望みは……ボクの世界で起きたみたいなトンデモない天変地異が……少なくとも、ボクが寿命で死ぬまでは起きない世界で、のんびり暮す事だ。
 この世界では、「ニンゲン」「エルフ」「ドワーフ」「ゴブリン」「オーク」とか云う二足歩行の哺乳類達が文明を築き、平和共存していた。
 だが、どうやら、この世界のこの時代は、ボクみたいな他の世界からの転生者の溜まり場になってたらしかった。
 他の転生者の大半は……この世界の「ニンゲン」に近い生物のオスで……ヤツらの勝手な「常識」で、ゴリブンやオークを虐殺し、種族間の対立を煽り……そして、この平和な世界を血生臭い戦場に変えつつあった。
 そんなヤツらの何人かから「チート能力」を奪い……すると、この世界の原住民達は、ボクを、この世界の護り神扱いするようになっていった。
 ボクは……いつしか「ドラゴン」と呼ばれるようになっていた。

 どうやら、僕は全てのチート能力を失なったらしかった。
 「この世界で最大レベルの戦士スキル」「この世界の最大レベルの魔法スキル」「超身体能力」「呪文詠唱省略」「精神集中なしの魔力検知」「自動翻訳」「女に対する精神支配」一切合切。
 僕は、どうやら、いつの間にか、不満を溜め込んでいたかつての仲間に騙され……そして、袋叩きにされた挙句……肉体労働用の奴隷として売り払われた……。
 あの……体が急に重くなる謎の攻撃の正体は……チート能力を失ない体力が急激に落ちた僕の体が、鎧や武器の重量を支えきれなくなっただけらしかった。
 そして、僕は売り払われた鉱山で、僕と同じく地球の日本から転生し……僕と同じように、あのティラノサウルスにチート能力を奪われたヤツに出会った。
「ねぇ……あれは何なの?」
 僕のしゃべり方は、いつしか、元の世界に居た頃に戻っていた……。
 そう……クラスの嫌われ者だった頃に……。成績も良くなければ、体力もない、空気が読めず「お前は他人の気持ちが判らないのか?」と他の奴らから散々言われてた……将来真っ暗の高校生だった頃に……。
「判らん……けど……どうも……この世界には『ドラゴン』なんて元々居ないらしい」
「えっ?」
「あれのせいで俺達と同じ目に遭った……地球からの……けど、俺達の何百年も前の時代のヨーロッパから、この世界のこの時代に転生したヤツが……あれを『ドラゴン』と呼んで……それ以降、あれは『ドラゴン』と呼ばれるようになったらしい」
 次の瞬間、鞭が飛んできた。
「○×△□∴∵‼」
 最近は、この鉱山の監督であるオーク達の言葉も何とか判るようになってきた。
 どうやら「おしゃべりはやめて、ちゃんと働け」と言っているらしい。
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