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第一章:The Magic Blade
駄目爺ィ大虐待(2)
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「この道場に、こんな地下室が有ったとは……」
階段を降りながら私は、そう言った。
「儂の……父親が作ったモノじゃ……」
祖父に案内されたこの場所に関して、若干の懸念が有った。
外よりも湿気が多い。
「あの……例の『呪われた刀』を私が入手出来ても、鞘から抜いたら錆だらけになってた、なんてオチは有りませんよね?」
「ちゃんと手入れはしておるし……あれの由来は知っておる筈じゃ……」
たしかに……。
「呪われた刀」と言っても……何百年も前のモノではない。
作られたのは、たしか、昭和十年代。
滿洲鉄道の工場の研究部門と陸軍の技術者の共同研究でたまたま生まれた特殊鋼。それが、あの刀の材料だ。
肌に触れる空気の冷たさは……ここが地下室だからだけでは無いようだ。
「ここじゃ……」
地下室の扉は……鉄製。
その扉には何枚もの御札が貼られていた。
この手のモノは、あまり詳しくないが……どうやら複数の宗派・流派のものが混在しているように思える。
鉄の扉の先には……細長い木箱と1冊のノートと……もう1つと言うべきか……もう2つと言うべきか……ともかくあるモノが置かれた机。
そして、壁際には一〇段掛けの刀掛けがいくつも有り、そこには大小様々な日本刀が掛けられている。
「これは?」
私は、机の上に有る縦に真っ二つにされた日本刀の刀身を指差す。
「江戸時代の作じゃが……3代目の山田浅右衛門が最上大業物と鑑定した品じゃよ」
それを容易く両断した刀が存在する。
私は机の上の古びたノートをめくる。
『昭和十×年×月×日、生き試し、三つ胴裁断。刃毀れ、刀身の歪み、共に確認出来ず』
『昭和十×年×月×日、生き試し、五つ胴裁断。刃毀れ、刀身の歪み、共に確認出来ず』
『昭和十×年×月×日、生き試し。俘虜の首を十二、連続で裁断。刃毀れ、刀身の歪み、共に確認出来ず』
自分でもサイコパスの気があるのを自覚している私ですら嫌な気分になる記録が何ページにも渡って記載されている。
記録のほとんどが「生き試し」。この箱の中に入っている刀で命を奪われた者は……ざっと見た限り1月あたり百人弱~二百人台後半×約半年。
たしかに、これなら「呪われた刀」と化しても仕方あるまい。
そして、半年で千人前後を殺して、折れず、曲らず、刃毀れせず。仮に「呪い」の話が嘘だとしても、単純に武器として驚異的だ。
「由来は知っておるようだが……説明しておこう」
「ええ」
木箱の蓋を開けると……何には、装飾性の高い拵えの日本刀。
「滿洲国が建国された頃……当時の陸軍と滿鉄は同じ問題を抱えておった。猛烈な寒気は時として鋼鉄を脆くする。厳しい冬の寒さの中で列車を走らせねばならぬ滿鉄と、ソ連を仮想敵としておった陸軍は、滿洲やシベリアの冬の寒さにも耐え得る鋼材を欲っしておった」
「その研究の課程で生まれたのが、この軍刀の材料……」
「そうじゃ……。わずか数㎏だけの2度と再現出来なかった究極の特殊鋼……それで一本の軍刀を作った。そして、試しに、皇族出身の将校が持っておった切れ味も折り紙付きの、さる宮家の『護り刀』と打ち合わせてみると……」
「その結果がこれですか? 刀剣マニアが聞いたら怒り狂いそうな話ですね」
私は縦に2つ割りにされた日本刀の刀身に目を向けてそう言った。
「やがて、切れ味や耐久性を確かめる為の試験が行なわれた……。その試験の担当者は……まるで魔物か悪霊にでも取り憑かれたように、異常な『試験』を繰り返したそうだ」
「そして……?」
「ある日、生き試しにされる事になった俘虜が偶然にも、この刀を奪った……。その俘虜は何十発もの銃弾を全身に受けても息絶える事なく……百人以上の人間を殺した」
「その百人以上の内、何人が自業自得の死だったのですか?」
「めったな事を言うな……。その後、この刀は何人もの手に渡り……強い願いや恨みや怒りを持つ者が手にすると……持ち主に異常な力を与え、その度に何十人もの人間の命を奪い続けた。この刀の『呪い』を解こうとした祈祷師や呪術者は……悉く、自らの術を返されて命を落したと聞いておる……」
「なるほど……私に相応しい刀ですね……」
そう言って私は……その呪いの刀を手にして……。
「や……やめろ……」
もう遅い。既に鯉口は切っている。
階段を降りながら私は、そう言った。
「儂の……父親が作ったモノじゃ……」
祖父に案内されたこの場所に関して、若干の懸念が有った。
外よりも湿気が多い。
「あの……例の『呪われた刀』を私が入手出来ても、鞘から抜いたら錆だらけになってた、なんてオチは有りませんよね?」
「ちゃんと手入れはしておるし……あれの由来は知っておる筈じゃ……」
たしかに……。
「呪われた刀」と言っても……何百年も前のモノではない。
作られたのは、たしか、昭和十年代。
滿洲鉄道の工場の研究部門と陸軍の技術者の共同研究でたまたま生まれた特殊鋼。それが、あの刀の材料だ。
肌に触れる空気の冷たさは……ここが地下室だからだけでは無いようだ。
「ここじゃ……」
地下室の扉は……鉄製。
その扉には何枚もの御札が貼られていた。
この手のモノは、あまり詳しくないが……どうやら複数の宗派・流派のものが混在しているように思える。
鉄の扉の先には……細長い木箱と1冊のノートと……もう1つと言うべきか……もう2つと言うべきか……ともかくあるモノが置かれた机。
そして、壁際には一〇段掛けの刀掛けがいくつも有り、そこには大小様々な日本刀が掛けられている。
「これは?」
私は、机の上に有る縦に真っ二つにされた日本刀の刀身を指差す。
「江戸時代の作じゃが……3代目の山田浅右衛門が最上大業物と鑑定した品じゃよ」
それを容易く両断した刀が存在する。
私は机の上の古びたノートをめくる。
『昭和十×年×月×日、生き試し、三つ胴裁断。刃毀れ、刀身の歪み、共に確認出来ず』
『昭和十×年×月×日、生き試し、五つ胴裁断。刃毀れ、刀身の歪み、共に確認出来ず』
『昭和十×年×月×日、生き試し。俘虜の首を十二、連続で裁断。刃毀れ、刀身の歪み、共に確認出来ず』
自分でもサイコパスの気があるのを自覚している私ですら嫌な気分になる記録が何ページにも渡って記載されている。
記録のほとんどが「生き試し」。この箱の中に入っている刀で命を奪われた者は……ざっと見た限り1月あたり百人弱~二百人台後半×約半年。
たしかに、これなら「呪われた刀」と化しても仕方あるまい。
そして、半年で千人前後を殺して、折れず、曲らず、刃毀れせず。仮に「呪い」の話が嘘だとしても、単純に武器として驚異的だ。
「由来は知っておるようだが……説明しておこう」
「ええ」
木箱の蓋を開けると……何には、装飾性の高い拵えの日本刀。
「滿洲国が建国された頃……当時の陸軍と滿鉄は同じ問題を抱えておった。猛烈な寒気は時として鋼鉄を脆くする。厳しい冬の寒さの中で列車を走らせねばならぬ滿鉄と、ソ連を仮想敵としておった陸軍は、滿洲やシベリアの冬の寒さにも耐え得る鋼材を欲っしておった」
「その研究の課程で生まれたのが、この軍刀の材料……」
「そうじゃ……。わずか数㎏だけの2度と再現出来なかった究極の特殊鋼……それで一本の軍刀を作った。そして、試しに、皇族出身の将校が持っておった切れ味も折り紙付きの、さる宮家の『護り刀』と打ち合わせてみると……」
「その結果がこれですか? 刀剣マニアが聞いたら怒り狂いそうな話ですね」
私は縦に2つ割りにされた日本刀の刀身に目を向けてそう言った。
「やがて、切れ味や耐久性を確かめる為の試験が行なわれた……。その試験の担当者は……まるで魔物か悪霊にでも取り憑かれたように、異常な『試験』を繰り返したそうだ」
「そして……?」
「ある日、生き試しにされる事になった俘虜が偶然にも、この刀を奪った……。その俘虜は何十発もの銃弾を全身に受けても息絶える事なく……百人以上の人間を殺した」
「その百人以上の内、何人が自業自得の死だったのですか?」
「めったな事を言うな……。その後、この刀は何人もの手に渡り……強い願いや恨みや怒りを持つ者が手にすると……持ち主に異常な力を与え、その度に何十人もの人間の命を奪い続けた。この刀の『呪い』を解こうとした祈祷師や呪術者は……悉く、自らの術を返されて命を落したと聞いておる……」
「なるほど……私に相応しい刀ですね……」
そう言って私は……その呪いの刀を手にして……。
「や……やめろ……」
もう遅い。既に鯉口は切っている。
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