「Dystopia Now!!」:第一部「模倣遊戯」

蓮實長治

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第一章:シュミラクラ

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『この建物内には貴方と同じ脳改造をされた他の政治家も居て、貴方の脳内の電子機器は、他の方々の脳内の電子機器と電波による通信を行なっていました』
 朝食を終えた後、会議室のような部屋に案内……または連行されると、そこに有ったスピーカーから、そのような説明が流れた。
 2つの大型スピーカーに挟まれて大型モニタが有ったが……そこには何も表示されていない。
 これまで会った自称「正義の味方」や自称「レスキュー隊員」は、おそらくは身元がバレないように明らかに声を変性させていたが……それでも年齢や性別の推測は付いた。
 しかし、この声は……人間がしゃべっているのは判る……合成音には無い「何か」が有った。
 息継ぎらしい間、抑揚などの微かな変化、わずかに感じられる感情、時折差し挟まれる「えっと……」などの一言……コンピューターなどによる合成音声では無い。
 しゃべり方も……例えばアナウンサーや俳優や声優や……あるいは何かの講演会に良く呼ばれる著名人などの「しゃべる事も仕事の内」の人間特有の「綺麗な」しゃべり方ではない。どちらかと言えば滑舌は悪い方だろう。
 政治家も「しゃべる」事が「商売」の一部である以上、「しゃべりの玄人か素人か?」ぐらいは何となくは判る。
 だが、それでも、年齢・性別などの判別が困難なまでに変性が行なわれている。
 そして……告げられた事は……。
「な……なんの……」
 冗談だと言いたかったが……私の頭は真っ白になっていた。
『貴方達の脳内の電子機器から発信されていた電波は、一般的な無線LANの規格に沿ったものでした。あ~、ただし、通信プロトコルは独自なモノで、送受信されているデータは、暗号化または圧縮されていました。現在、解析中です。……えっと、技術的な説明は御理解いただけてますか?』
「ま……まぁ……その……何とか……」
『ただし、送受信されているデータのサイズは……それほど大きくはなく、例えば、貴方と同じ脳改造をされた人同士で、映像や音声などのデータを共有するのは困難である可能性が高いと思われます。……少なくとも、現時点では、そう推測するのが妥当でしょう』
「は……はぁ……では……何の情報をやりとりしていたのかね?」
『ある程度以上の論理性が有る文章についても……貴方の脳内に埋め込まれている電子機器の推定性能からして、貴方の脳の未改造の部分に判る形に「翻訳」するのは困難と思われます。ただ、昨日、1日で面白い結果が……ああ、面白いと云うのは失言ですね……ともかく貴方と同じ脳改造をされた人同士では、感情の共有が行なわれている可能性が高いと思われる結果が出ました』
「感情の共有?」
『例えば、貴方と同じ脳改造をされた人が狭い範囲に一定数以上居た場合、誰かが強い不安や葛藤を感じたら……他の人にも、その不安や葛藤は伝播します。ただし、ある感情が伝播しても……感情を向ける対象は同じとは限りません』
「えっ……と……どう云う意味かね?」
『例えば、貴方と同じ脳改造をされた人が2人居て、片方がもう片方に強い怒りを抱いたとします。その場合、その怒りは、もう片方にも伝播しますが、怒りを伝播された方は……自分自身に怒りを向ける可能性は低いでしょう』
「ちょ……ちょっと待ってくれ……。その喩えだと、片方が怒りを抱いた瞬間に、えっと……」
『強い感情を誰かが抱けば、同じ改造をされた人達により構成されるネットワーク内で、その感情は増幅される……。貴方が、昨日、強い不安感を抱いたほぼ同時刻に、この建物に収容されていた、貴方と同じ改造を行なわれた他の人達も強い不安感を感じました。脈拍や血圧に大きな変化が起きるほどの不安を、ほぼ全員が感じていたのです』
「そ……それは……えっと……何と言うか……」
 こいつが言っている事が本当なら……私は脳改造をされている……しかし、その「脳改造」を通じて誰にも操られてはおらず……むしろ「操られる」とは逆の状態……「暴走」に陥る可能性が高いのか?
 いや、あくまで、こいつが言っている事が本当ならだが……。
『ええ、貴方と同じ脳改造をされた人達により構成される無線LANネットワークは……システムとして極めて不安定です。そして、貴方と同じ脳改造をされたが、既に亡くなった方の解剖結果からして……何か欠陥が有っても、ソウトウェア的なアップデートを行なうのは困難でしょう』
「だ……だから……ちょ……ちょっと待ってくれ。誰が、何の目的で、そんな欠陥システムを作ったと言うのかね?」
『貴方達に、ほどこされた脳改造は……おそらく、実験の最初期段階……ハードウェア的な技術検証が目的でしょう。そして、貴方に脳改造を行なった者も……推測が付いています』
「だ……誰だ?」
『ここまでの説明で、ある事に気付かれた筈です』
「……何をだ? さっぱり判らんぞ」
『貴方と同じ脳改造をされた人達が構成するネットワークには、
「え……えっと……」
『そして、明確な司令塔や上下関係なしに大規模な組織として機能している存在を、我々は2つ知っています』
「何の事だ、それは?」
『一つは……いわゆる「正義の味方」「御当地ヒーロー」』
 待て……私は……敵だと思っていた者に……気付かぬ間に脳改造を……いや……この説明をしているのは……「正義の味方」を僭称するテロリストの仲間では無いのか?
『もう一つは……いわゆる「正義の味方」「御当地ヒーロー」にとっての最大の敵である、世界的テロ組織「神の怒りフューリー」』
 い……いや……待て……何の……。
『貴方達が、旧Q工大跡に作った大規模医療施設に納入された医療機器は……「神の怒りフューリー」を支援しているインドの企業のものでした。この事は御存知でしたか?』
「い……いや……し……知らない……」
『もう1つ質問します。旧Q工大跡の大規模医療施設に有ったモノについてです。。この事も御存知でしたか?』
 ……。
 …………。
 ……………………。
 頭の整理が追い付かない。
 確かに、我が会派が「真の日本」の実権を握った後には……将来の政治指導者・高級官僚・佐官以上の軍人の候補者を除く全「」にロボトミー手術を行なう予定で……その為の医療機器を購入……だから……待て……。
 しまった……「真の日本」の「常識」を余りにも「当り前」だと思い込んでいた。
 自分自身で「思い込んでいる」事にさえ気付かぬほどの……強固な「思い込み」だった。
 た……確かに……「外」の愚かしい常識からすれば……
 あくまで、「外」の愚かしい「常識」に基けばの話だが……。
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