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第一章:THE RED RAIN

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「こちらでございます」
 博多の天神とやらの近くのタワーマンションとやらだった。
 それもかなり上の階。
 マンションの玄関まで行くと「メイド服」とやらを着た若い女が居て、今回の「客」が住んでいる階まで案内された。
 どうやら、1つの階を丸ごと借り切っていると云うらしい。
 私は溜息を吐いて、案内の若い女に聞いた。
「誰を人質に取られている?」
「えっ?」
「何故、怯えている? 何故、この階には……お前と私以外、誰も居ない?」
 舐められたものだ。私には、心を制御するすべを身に付けていない相手であれば簡単に感情を読み取れるし、気配を隠す結界でも張られているのでなければ、周囲の人間の存在を感知出来る。
「す……すいません……ッ‼ 彼氏が麻薬クスリで借金を……」
 女は私の方を向く。女の服のボタンが飛び散り……。
鹿ッ‼」
 我ながら、強引な手だ……。
 この女は、何者かに呪術的な手段で心を操られている。
 おそらく、この女とその「男」が借金絡みの面倒事に巻き込まれ……その心労などのせいで、この女の心に今風に言うなら「セキュリティ・ホール」が出来た……精神操作系の術か能力の使い手が付け入り易い精神状態になった……のだろう。
 そして、言うまでもないが、
 完全に術を解くには時間をかけて慎重に行なう必要が有る。……それも、私と違って、そっち専門の術者が。
 だが、時間が無い。女に向って放った怒号に「言霊」を乗せ……強引に術を「上書き」し、逆に私の支配下に置く。
「え……あっ……」
「どうせ死ぬなら……誰の指図か洗い浚い吐けッ‼」
「ぷ……ぷりんせすな……」
『マズいよ……。ちょっと』
 この体の本来の主である千夏ちかが慌て始めた。
 女の体に取り付けられている爆弾の起爆装置が起動。
 爆発への秒読みカウント・ダウンが始まる。
 なるほど。この女との会話は……全てを仕組んだ誰かに筒抜けだった訳か。
「いいか、落ち着け。助かる方法は有る。私を信じろ」
「は……はい」
「助かりたければ……窓から飛び降りろ。すぐにだッ‼ 恐れるなッ‼ 命を惜しめば、却って死ぬぞッ‼」
『えっ⁉』
「はいいいいいッ‼」
 そう言って女は……。
『あ……あの……何……? どうなってんの?』
『誰かがかけた「精神操作」を無理矢理解いたので……あの女の心が壊れてしまったようだ。だから、あんな無茶な命令でも従ってしまった』
『それ、解いたって言わないッ‼』
 女は慌てて駆け出し……そして……。
 爆音……。
 一時的なモノだろうが……爆音のせいで何も聞こえなくなる。
 しゃがんで床に手を付く。
 微かな振動が手から伝わる。
 叫んだつもりだが……自分自身にも叫びは聞こえず……。
 もちろん、巫女服の袖に隠し持っていた軽機関銃の発射音もだ。
 敵ながら悪くない手だ。
 今も昔も……魔法だの呪術だのは、生き物相手や霊体相手に特化したモノ。魔法だの呪術だので、生命も気や霊力も持たない単なる物体に対抗する手段は、案外、少ない。
 科学技術とやらの産物は、魔法だの呪術だのに巧く対応出来ない場合も有るが、私達もまた、科学技術の産物にしてやられる事も少なくない。
 しかし、この手は、過去に何度も他の奴らから使われた覚えが有る。
『やれやれ……』
 周囲に転がっているのは……遠隔操作ロボットだったモノの残骸。
不倫妹主儺威斗プリンセス・ナイトの残党どもか……。まずは、この「仕事」を依頼した組織の親玉を締め上げて、洗い浚い吐かせるか……』
 どうやら……私を恨んでいる、かつて潰した敵対組織の生き残りが、まだまだ居るらしい。
『あ~っ、また、このパターン? お金入らないの?』
『吐かせるついでに、金も搾り取るか……』
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