1 / 1
不要な人間
しおりを挟む
「接種のキャンセルが出たそうだね」
市長が言ってる事は事実だ。時間になっても接種予定者は現われず……連絡も取れない。
しかも偶然なのか人数も合っている。
接種場所に現われたのは、市長と市長の家族、県議会の与党会派の大物議員とその家族。
その人数分だけのキャンセルが偶然にも発生したのだ。
「あの……キャンセル分の薬をどうするかは、国の方針で決って……」
「野党の感情論のせいで歪められた方針など無視するのが国益に叶う。社会にとって必要な人々に優先して接種する事こそ必要だと思わないかね?」
「で……ですが……学者の皆さんや医療保険関係の国際機関が散々言っている通り『全員が安全になるまで、誰1人として安全だと保証出来ない』……それが今のこの世界の『現実』です」
「ああ、その通りだ。だから、私や県議会の皆さんのみならず、その家族も連れて来たんだよ。私の身の回りの人間がゾンビ化しないと保証されない限り、私だって安全じゃないからな」
何を言っても無駄だ……。
この「ゾンビ禍」が世界を接見している時代においては「人道的な振る舞い」こそが最も「現実的」「合理的」「科学的」な選択となった。
しかし……未だにこの国で権力を握っているのは「人道的」を「お花畑」と嘲笑ってきた、自分達こそ「現実家」「合理主義者」だと云う妄想に囚われている思慮の浅いクソ野郎どもだ。
だが……その時……。
「あ……あのぉ……キャンセルされた……はず……の……方々……が……お越し、に、な、ぁ、り、ぃ、ま、ぁ、し、ぁ、たぁぁぁぁぁッッッッッ‼」
「お……おい……待て……何で……スタッフがゾンビに……」
「いや、ですから……国の方針では、キャンセル分の『抗ゾンビ化薬』は現場のスタッフに回される筈だったのに、それを、貴方達が横から割り込んで……」
「おい、君、何だ、その無礼な口のきき方はッ‼ 氏名と所属を名乗りたまえッ‼ ただでは済まんから、覚悟しておけッ‼」
「あのねぇ、ただでさえ少ないスタッフを馘に出来ると思ってるんですか、クソ市長殿」
「お……おのれ……何を逆ギレしてるんだぁッ‼ 少しは冷静にならんとブチのめすぞッ‼」
「お……おい……市長……あれは……あのゾンビは……まさか……」
県議会議員が指差した先に居たのは……。
「あの……そもそもの疑問なんですが……何で、あんた達は、丁度、人数分のキャンセルが出ると知ってたんだ?」
「市長、あそこに居るのは……我々が雇った『便利屋』……」
「そ……そんな……では……まさか……死体を始末する前に……死体のゾンビ化が始まって……」
どうやら……こいつらは……今日、接種を受ける筈だった一般市民を……「消し」て、それで余った「抗ゾンビ化薬」を自分達のモノにしようとしたらしいが……。
なら……自業自得だ。ざまあ見ろ。
俺も、このクソどもがやらかした事の報いに巻き込まれたらしいが……丁度いい……。自分の国や故郷がゾンビ以上に腐り切っていく様など、これ以上見たくはない。最近、そう思うようになっていたんだ……。
今日、「抗ゾンビ化薬」を接種する筈だった人の成れの果てに頚動脈を噛み千切られた時、俺の頭を過ったのは、そんな考えだった。
市長が言ってる事は事実だ。時間になっても接種予定者は現われず……連絡も取れない。
しかも偶然なのか人数も合っている。
接種場所に現われたのは、市長と市長の家族、県議会の与党会派の大物議員とその家族。
その人数分だけのキャンセルが偶然にも発生したのだ。
「あの……キャンセル分の薬をどうするかは、国の方針で決って……」
「野党の感情論のせいで歪められた方針など無視するのが国益に叶う。社会にとって必要な人々に優先して接種する事こそ必要だと思わないかね?」
「で……ですが……学者の皆さんや医療保険関係の国際機関が散々言っている通り『全員が安全になるまで、誰1人として安全だと保証出来ない』……それが今のこの世界の『現実』です」
「ああ、その通りだ。だから、私や県議会の皆さんのみならず、その家族も連れて来たんだよ。私の身の回りの人間がゾンビ化しないと保証されない限り、私だって安全じゃないからな」
何を言っても無駄だ……。
この「ゾンビ禍」が世界を接見している時代においては「人道的な振る舞い」こそが最も「現実的」「合理的」「科学的」な選択となった。
しかし……未だにこの国で権力を握っているのは「人道的」を「お花畑」と嘲笑ってきた、自分達こそ「現実家」「合理主義者」だと云う妄想に囚われている思慮の浅いクソ野郎どもだ。
だが……その時……。
「あ……あのぉ……キャンセルされた……はず……の……方々……が……お越し、に、な、ぁ、り、ぃ、ま、ぁ、し、ぁ、たぁぁぁぁぁッッッッッ‼」
「お……おい……待て……何で……スタッフがゾンビに……」
「いや、ですから……国の方針では、キャンセル分の『抗ゾンビ化薬』は現場のスタッフに回される筈だったのに、それを、貴方達が横から割り込んで……」
「おい、君、何だ、その無礼な口のきき方はッ‼ 氏名と所属を名乗りたまえッ‼ ただでは済まんから、覚悟しておけッ‼」
「あのねぇ、ただでさえ少ないスタッフを馘に出来ると思ってるんですか、クソ市長殿」
「お……おのれ……何を逆ギレしてるんだぁッ‼ 少しは冷静にならんとブチのめすぞッ‼」
「お……おい……市長……あれは……あのゾンビは……まさか……」
県議会議員が指差した先に居たのは……。
「あの……そもそもの疑問なんですが……何で、あんた達は、丁度、人数分のキャンセルが出ると知ってたんだ?」
「市長、あそこに居るのは……我々が雇った『便利屋』……」
「そ……そんな……では……まさか……死体を始末する前に……死体のゾンビ化が始まって……」
どうやら……こいつらは……今日、接種を受ける筈だった一般市民を……「消し」て、それで余った「抗ゾンビ化薬」を自分達のモノにしようとしたらしいが……。
なら……自業自得だ。ざまあ見ろ。
俺も、このクソどもがやらかした事の報いに巻き込まれたらしいが……丁度いい……。自分の国や故郷がゾンビ以上に腐り切っていく様など、これ以上見たくはない。最近、そう思うようになっていたんだ……。
今日、「抗ゾンビ化薬」を接種する筈だった人の成れの果てに頚動脈を噛み千切られた時、俺の頭を過ったのは、そんな考えだった。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
10秒で読めるちょっと怖い話。
絢郷水沙
ホラー
ほんのりと不条理な『ギャグ』が香るホラーテイスト・ショートショートです。意味怖的要素も含んでおりますので、意味怖好きならぜひ読んでみてください。(毎日昼頃1話更新中!)
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる