異世界にトラ転した料理人ですが(中略)心を病んで自殺しました

蓮實長治

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異世界にトラ転した料理人ですが(中略)心を病んで自殺しました

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「ええっと、神様、それ、どう云う事なの?」
 2回目の死を迎えた後に再会した、何故か若い女の子の声でインチキ九州弁をしゃべる「全長5m(尻尾含む)の豹柄のティラノサウルス」と云う外見の「神様」は、とんでもない事を言い出した。
「言った通りたい。あんた既に有った異世界に転生させたんじゃないとじゃなか。あんた為に1から『異世界』作って、そこに転生させたんだよとよ
「待ってよ……。じゃ……じゃあ、何で……あんな……」
「そりゃねぇ……」

 仕事のストレスのせいで、自分自身がマトモかどうかさえ判んなくなった状態でトラックに轢かれ、この世界に転生してから約1年で、この世界が、どんな世界か理解出来てきた。
 なぜか、この世界には、米も大豆も小麦もトマトもジャガイモもニンジンもアスパラガスもタケノコもエリンギもシイタケも胡椒も唐辛子も有った。
 それどころか、穀物や野菜や香辛料の呼び名まで同じで……温室栽培まで実用化されているらしい。
 でも、文明レベルはラノベによく出て来るファンタジー世界だ。
 醤油・味噌・バター・カレー粉に相当する調味料まで有るのに……どう云う訳か、料理のレベルは元の世界より低かった。
 この時点で、気付くべきだった。こんな都合のいい世界そのものが……後でロクな事にならないフラグに決ってる、と。

「す……素晴らしい……こんな味は生まれて初めてだ」
「バターと醤油を合わせるなど……なんと斬新な……」
 そして、町中でポスターを見て参加した王家専属料理人の選抜コンテストでは、絶賛の嵐の中、ぶっちぎりの一位を獲得し……まさか、そこからが、あの地獄への逆戻りだったなんて。

 そして、王宮の厨房に案内されると……えっ?
 あ……ああ、そうだ。たしかに、王宮の規模を考えると、これだけの料理人が居てもおかしくは……いや、でも、元の世界では、万年下っ端だった僕が、これだけの料理人を指揮する事になるのか? 少し不安だな……。
 と思った瞬間、ニンジン・ジャガイモ・ダイコンがそれぞれ二〇㎏は入った籠がデン、デン、デンと目の前に置かれた。
「おい、新入り。三〇分以内に全部皮を剥いとけ」
「え……えっと……その……」
「まさか、お前、選抜試験の優勝者だから、すぐに料理長になれるとでも思ったか?」
「あ……あ……あ……」
 やたらとゴッツい体と恐い顔の、その中年男に「ごめんなさい、その通りです。もし、僕が勘違いをしていたなら、どうか許して下さい」と謝るべきだ……。僕の理性は、僕自身にそう警告を出し続けたが……僕の体は恐怖で竦み、口からは巧く言葉を出せなくなっていた。
「あのな……ここで働いている数十人全員が、過去の選抜試験の優勝者だ。良く覚えとけ。お前が、もし、この調理場の歴史に残る程の天才新人だろうと、ここで十年下積みをやって、王族の方々に出す料理を週1皿調理していいと認められるのがやっとだ。判ったか?」
 そして、王宮の調理場に入った初日……規定の時間内に野菜の皮を剥き終える事が出来ずに、先輩達から袋叩きにされた……。
 同じだ……転生しても……。
 転生前に働いていた、あのレストランと……。
 い……いや……もっと酷い。

 野菜の皮を剥き続けるだけの十数年が過ぎた。
 自分でも良く我慢したと思う。
 水に顔を映した時に見える僕自身の目は……完全に死んでいた。
 2年ほどで、この超体育会系な「調理場」に下手に順応してしまい……僕は「新入り」を「かわいがる」ようなクソ野郎へと変貌していた。
 しかし……今の僕の上役の中に、かつて「かわいがった」後輩が何人も居る。その後輩にして上役が、今、僕をどう扱っているかは言うまでも無い。
 元の世界で覚えた調理法など、既に、忘れ去り……転生前に食べたモノの味も思い出せなくなっていた。
 ずっと、感情が麻痺したままの状態で居た方が幸せだったかも知れない。
 でも……それが何故起きたか、僕にも判らない。
 ある時、磨り減りきった筈の感情が何かの拍子に蘓えり……そして、僕は、自分の喉に包丁の刃先を向けていた。

「あの、神様、何で、僕の為に作った世界なのに、あんな……」
「え~、だって、仕方ないだろなかやろ
「何がですか?」
「あんたの頭情報だけでは……あんたが望んでいたどった世界作るのはつくるとは無理だったからやったけん
「えっ?」
「だって……あんた自身が……あんたが嫌っていたきらっとった『体育会系』とやらじゃなか社会や組織についての具体的なイメージ何1つ持っていなかっただろもっとらんかったやろ?」
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