感覚に障害の有る者達は世界をどう認識しているのか?

蓮實長治

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感覚に障害の有る者達は世界をどう認識しているのか?

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 日本の東北地方の一部の地域では、若くして死んだ者を弔う為に、死者の「あの世」での生活を想像して描いた絵を寺に奉納する風習が有る。
 この習慣は、江戸時代末期に始まったと見られているが、既に、その風習が始まった頃から、これらの絵には、ある顕著な特徴が見られる。
 生きている者達が想像する「あの世」は「この世」の延長として描かれているのだ。
 死者達は「あの世」において、「この世」と良く似た生活……とは言え「この世」よりも少しばかり裕福な生活を送っているかのように描かれている。
 おそらくは、我々の大半は、最早、「この世」とは違う「あの世」を想像出来なくなっているのだ。
 ここにこそ、自分達を健常者だと思っている我々と、そうでない者達の違いが有るのではないか?
 問われるべきは、我々が視覚・聴覚などに障害が有ると思っている者達が、どのように世界を認識しているかではなく、何故、自分達を健常者だと思っている我々が、この世界をこのように認識しているのか? では無いだろうか?

 この世界には、あるいは目が見えず、あるいは耳が聞こえず……我々と意思疎通すら出来ない者達が一定数存在している。
 だが、彼等は、そんな障害を持っているにも関わらず、我々の「普通」とは違うにせよ、それなりに「普通」に、大した不便もなく生活しているように見える。
 そして、どうやら、彼等独自の感覚やコミュニケーション方法を使って、彼等の中でコミュニティを作っているらしい。
 我々が「障害」だと思っているモノが、生活するに当って「障害」にならないのだとしたら、それは果たして「障害」と呼ぶべき「何かの欠如」なのだろうか?

 よくよく考えて欲しい。
 この世界には、光も空気も一切の物理現象は存在しない筈だ。
 視覚や聴覚が有る方がおかしいのだ。
 何故、我々は、生きていた頃と同じような町に住み、生きていた頃と似たような生活を送り、町を出れば、まるで生者の世界であるかのように、木々の生えた山々や紺碧の海が存在するのだろうか?
 そして、我々が「障害者」だと思っている彼等は、果たして、町や山や海を認識しているのだろうか?
 更に、何故、我々は生きていた時のように、あるいは会社でデスクワークをし、あるいは農作業や漁業を行ない、あるいは土木作業などの肉体労働を行ない……そして、金を稼ぎ、何かを食べる必要が有るのか?
 

 我々、自分達を「健常者」「多数派」だと思っている者は……無意識の内に、この「」を生者の世界に似たモノだと思い込んでいる者達であり……この「死者の世界」の特性上、我々が認識する「世界」は自分の内面の影響を大きく受ける。
 生きていた頃に「『この世』とは全く違う世界としての『あの世』」を想像出来た者達と、そうでない者達の間には大きな断絶が有るらしい。
 そして、我々、「『この世』とは全く違う世界としての『あの世』」を想像出来ない者達が多数派になった世代の「死者」達は……どうやら、この世界に満ち溢れているらしい驚異と神秘を認識する事が出来ないまま、生きていた頃と同じ、つまらない日常を繰り返すしか無いようだ。
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